『劇場版 虫皇帝』 新堂冬樹 2009

それほど期待しないくらいのほうが、楽しめると思います。
d0151584_17565924.jpg

町山智浩激推しで、作品が放ついい感じの馬鹿っぽさに惹かれて、新宿はケイズシネマ。

「昆虫軍対毒蟲軍」と銘打って、計24回、虫同士を戦わせるだけの映画です。ストーリーも何もないです。透明な容器に入れられた虫たちが24回、一騎打ちを繰り広げるだけです。貴重な種類の虫、以外は低予算の極みで、カメラ一台と回転可能な台と容器があるだけです。虫の紹介VTRでは互いのキャッチコピーをつけたり、「俺様に勝てるかな?」「おまえなど一瞬で殺してやる」みたいな声を入れたり、いかにも子供っぽい盛り上げ方で、その虫がどういう生態なのかとかはぜんぜんわかりません。

 昆虫軍はカブトムシ、クワガタを筆頭に、カマキリ、タガメ、ハンミョウなどが出てきます。毒蟲軍はサソリが多くて、他にクモとムカデが出てきます。この対戦だけが見ものなわけですが、何しろ24カードもあるので、かなりさくさくと進んでいきます。いざ絡み合うと決着は早くて、一撃必殺の毒攻撃にかかると昆虫軍はやられてしまうのです。

 これまでの虫皇帝というのはカブトムシ対カブトムシ、クワガタ対クワガタのようなシリーズだったようですが、ここに毒虫が入ってくると戦いが違ったものになります。監督自身が劇中で解説していましたが、カブトムシやクワガタの戦いというのは、いわばスポーツなんです。実際、自然界において彼らがなぜ戦うかと言えば、それは木の樹液争い、縄張り争いのためであって、木の枝や幹の上で戦い、相手を角で退けることが目的なのです。ところが毒虫はそうではありません。町山智浩の表現を拝借すれば、「ヤッパ持ってる」わけです。「格闘家対ヤクザ」なのです。毒虫の毒は純粋に相手を殺すためにあるのであって、まさに「格闘技対ヤクザ」は言い得て妙です。格闘家がパンチやキックで戦うのに対し、毒虫は刃物を持っているに等しく、それどころか刃物の先に毒が塗ってあるという有様です。

 毒虫のメインを張るのはサソリなのですが、あらためて思うにサソリというのはよくできた生き物です。まず、前方からの攻撃に対してはハサミを持って応じます。この時点で相当な武器ですが、いざ横ばいの体に乗られた場合どうするか。そうです、しっぽの毒針があるのです。サソリの体は反っていまして、長いしっぽは体の上に来る敵を見事射程に収めているのです。一方のカブトムシやクワガタも負けてはいません。クワガタなどはあの頭の特大ハサミをフルに活かし、相手をすごい力で締め付けるのです。カブトムシはというと、これは格闘家というよりお相撲さんみたいなところがあります。どっしりとした体で、角を使って相手を投げ飛ばす。しかも体が非常に硬く、たとえばサソリの毒針なんて跳ね返してしまうのです。これはすごい戦いなのです。
 
 さて、概観は以上のようなところです。細かい部分はネタバレになるので、後に示します。ひとつの映画、演出としてどうか、というと、ここについてはちょっと甘いというか、もうちょいなんとかならんのかという部分もあります。基本的に低予算なのは仕方ないのですが、いらない要素もあります。たとえば最初のほうで、アイドルが出てきます。監督の新堂冬樹という人は芸能プロの社長でもあるそうですが(メフィスト賞作家でもある!)、自分のところのアイドルを出しておきたいのでしょうが、互いの応援をしているアイドルなんてことで名前を出して、しかもその後そいつらはまったく出てこない。いや、アイドルが出てこないのはいいのですが、まったく出さないでほしいのです、まったく関係ないから。それと、6カードごとに新藤監督のワンショットで解説が入るのですが、これも工夫がほしかった。6対戦後との小休止、という趣旨はわかるのですが、今観た戦いがいかにすごいかをもう一度話すだけなのです。それならもっと、それぞれの虫の生態なんかを教えてほしいところです。「サソリはしっぽの部分も内臓になっているから、そこを攻撃されると弱い」みたいな豆知識がさらりと語られていましたが、そういうのをもっと入れてほしいわけです。せっかく珍しいカマキリなんかも出てくるのだから、実際自然界でどういう風に生きているのかなどを知りたいわけです。映画としての工夫は甘いというか、工夫がなさ過ぎる感も否めません。新藤監督が解説するとき、「あっ、今のところもう一回巻き戻して、ああ、違う、もうちょっと前」みたいなのも、ぐずぐずしていました。その辺はもうちょいうまくやれよ、と言いたくなります。ところで彼はなんであんなに強面で、ホストっぽいのでしょうか。町山流に言うと、「完全にあっちの人」ですね。

 さて、ここからは実際の戦績も踏まえたネタバレになります。どちらが勝つか、というのはこの映画の肝でもあるので、観に行きたい人は読まないほうがいいかもしれません。

 戦いのカードで言うと、カマキリが常に負け続けるばかりだったのが残念です。カマキリが出てくるたび、「またカマキリだ。どうせ負けるのだろう」と思ったらやっぱり負けるのです。カマキリというのは強くないのでしょうか。昆虫軍でも特異なヤッパ系、にもかかわらず、あのご自慢の鎌が炸裂する場面はひとつもなく、細長い体が仇となっていつも負けていました。タガメは水中の生き物で不利なのに、一回勝ったのでああいうのは面白いわけです。でも、あの映画ではタガメの本当の強さを観ることはできず、これが残念なところ。それならいっそ、自然のドキュメンタリーのほうが面白いわけです。クモやムカデは迫力がありました。ムカデの巻き付き攻撃というのは本当に怖いです。しかも外見的にも明らかにやばいやつですからね。外見的には一番に怖い。クモの戦いをもっと沢山観たいなあというのはありました。この映画、後半はサソリばっかりなんです。うん、昆虫軍はヴァリエーションが豊富なんです。ハンミョウという虫があんなに凶暴で強いのも知らなくて、発見がありました。でも、毒虫はサソリとムカデとクモしか出てこず、この辺の豪華さには欠けるところです。名前こそ「コスタリカンゼブラレッグタランチュラ」とか、「ケニアンジャイアントスコーピオン」とか立派で種類も豊富ですが、もっと別種の毒虫はいないものなのでしょうか。まあ、ハチとかだと飛んでいるから戦いにならないというのはあって、これはやむをえないのかもしれません。「なんじゃそりは!」という、見たことも聞いたこともないような虫がいたら、さらに素晴らしかったんですけども。

 それと、文句をつけておくと、虫好きな監督が撮っているんでしょうけども、じゃあ虫がばんばん死んでいくのはいいのかい? というのはあります。本当に虫が好きなのかい? と思ってしまう。国産カブト、いわゆるカブトムシが最後のカード、無敵のダイオウサソリに角と左目をぶち切られ、それでも向かっていく姿に対し、「感動的です」とか言っているんですけど、ぼくはやや不快でした。これね、自然界のドキュメンタリーなら確かに「感動的」と言えるかもしれないんですけど、こちらで無理矢理戦わせているわけですからね。毒虫と戦う時点で、まあ負けたら死ぬのはわかりきっているわけで、それを観に行くぼくも同罪ではあるんですが、素直にすごい戦いとは言い切れないのです。カブトムシ同士のフェアな戦いを撮ってきたこの監督が、ああいうのを撮るというのはちょっと嫌です。虫が好きなのか? 虫を殺し合わせるのが好きなのか? 両方だというのか?
その意味ではこの映画、本当に虫が好きな人は、むしろ観に行かないほうがいいかもしれないです。

 それと、あえて生息地の違う虫同士を戦わせた、という部分で面白さはありますが、普通の動物ドキュメンタリーで出会う驚きや興味にはどうしても勝てない。その点、動物ドキュメンタリーを撮っている人たちってすごいなあとそっちに感心しました。ああいうもののほうが、「うわあ、自然界はすごいなあ、ぼくの知らないところで日々、生と死のドラマが展開しているのだなあ」と感動を覚えます。
 
町山智浩が大興奮でお薦めしていましたが、その分ぼくの中でハードルが上がってしまった。そこまで期待せずに観たら、もっと違う感想があったことでしょう。だからぼくはあえてここで、「それほど期待しないで観に行くくらいが丁度いいよ」と言いましょう。そのほうが面白く感ずると思います。
[PR]
by karasmoker | 2009-09-14 00:28 | 邦画 | Comments(0)
←menu