『ちゃんと伝える』 園子温 2009

これではちゃんと伝わらないんじゃないでしょうか。
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 園子温監督作のわりにどうも香ばしいにおいがしねえなあと観ないでおいたのですが、まあ園子温だし何かしらあるのだろうと思い、はるばる出向く有楽町シネカノン。

 癌で病床に伏せる父を見舞うサラリーマンの主人公、しかし彼自身もまた癌に冒されていることが発覚。父親よりも余命が短いことを知り、残された日々をどう生きていくかを描いたお話。なんですが、結論から言えば、これはあまり面白くないです。何なのでしょうか。ラストで、「父に捧ぐ」と出るのですが、もっともっと捧げがいのある映画はあるように思われます。それとも、あくまでも父親と監督の間だけに通じるようなものがどこかに描かれているのでしょうか。ぼくには「ちゃんと伝わる」ものがなかったです。

 悪く言い切ってしまえば、普通なんです。だから、園子温的には変な映画です。園子温はその監督作を観るに、いわば「変なおじさん」なんです。その変なおじさんが普通のことをしているから、変なんです。どうしてこの映画を撮ろうとしたんでしょうか。やっぱりお父さんに捧げる個人的な作品なのでしょうか。演出において言うと、園子温はいつのときも密室芸がうまいんです。狭い空間でのやりとりを非常にうまく描く。ところがこの映画では、その辺のよくある日本映画みたいな感じなんです。一切奇をてらっていないし、一切自然さもない。いわゆる普通の劇映画、という感じ。園子温が凡庸に徹した、という印象があります。最初のうちこそ、「うわ、変なおじさんが普通のことをしている。変!」と思えるのですが、時間が経つにつれ、なんかどうでもいいものに思えてきます。

 園監督のものは『うつしみ』以降のものはほぼ観ているのですが、その中で一番近いので言えば『気球クラブ、その後』。あれも他と比べると面白みに欠けますが、でもあれはあれで監督の密室芸がうまく、なおかつかの平成の大女優、永作博美の力もあって、まあまあこんなのもありなのかな、というくらいなんですが、今回の『ちゃんと伝える』に関しては、お、ここはすごいな、みたいなのが本当にないんです。

 強いて言えば伊藤歩です。伊藤歩というと、ぼくの中では広末涼子主演のドラマ、『リップスティック』のヤンキー娘の印象が強いです。あとは『スワロウテイル』で観たくらいでしょうか。今回の作品では伊藤歩が非常にいいです。主演はエグザイルのAKIRAという人で、正直演技がうまくはないのですが、その傍らで彼女の演技はすごくいいです。その監督は女性を本当に魅力的に映し、上手な演技をさせる人です。そういえばカメオ出演で『愛のむきだし』の満島ひかりちゃんが出ていましたが、いやあ、もっとひかりちゃんが出てきてくれればもっとポイントが高かったのに! ひかりちゃんは本当に可愛いです(何の話)。

 この映画は伊藤歩でなんとか持っていたようなものです。肝心のドラマ部分は、どうしてどうして園子温、どうしてまあこうもどうでもいい話をつくってしまったのか。余命いくばくもない父親との話も、正直何もこもらないんです。下手をすると監督の私的な思い入れが裏目に出た可能性があります。撮っている最中に自分の父親との思い出が浮かんできて、冷静にこの話を捉えきれていなかったんじゃないでしょうか。いかにもお涙頂戴の話にしなかったのは正しい。でも、お涙頂戴にするまいと警戒しすぎて、結局奥田瑛二扮する父親とAKIRA扮する息子の話が、あまりにもすかすかになっている。厳しかった父親との思い出、みたいなのが描かれるんですが、それもちっとも効果的ではない。うん、だから、この映画では絶対に見せ場になるはずのあの河原のくだりも、どうにも希薄な場面なんです。あれはやっぱり、父親が確かに生きていた感じ、その生の濃度がもっと引き立たないといけないし、そのためには嘘でも病気にやつれている感じがないといけないんじゃないでしょうか。

主人公も病に冒されている、しかも父親より早く死んでしまう可能性が高い、にもかかわらず、父親も主人公もまったくその気配がない。これはきっと意図的なものなんでしょう。そうとしか考えられないくらい、闘病の雰囲気に欠けます。だからこそ、主人公にも父親にも、こちらは思い入れが湧かない。ああ、確かにこいつらはこの世界で生きているな、というのがないから、死も当然浮かび上がってこない。主人公AKIRAは終盤、自分の病を恋人伊藤歩に打ち明け、伊藤歩が号泣するのですが、あのー、ぜんぜんAKIRAが病気っぽく見えないわけですよ。それはAKIRAのせいではなく演出の問題で、まったく病気の気配がないわけです。なんでこんな風に演出したんでしょうか。この手の映画ならまず間違いなく、どんな阿呆監督でも病の描写を入れます。でもそれを明らかに意図的に回避した。それでも濃度があればいいんですよ。この前書いた『盲獣』は、体を傷つけても血が出ないけど、血がどうのこうのどころじゃない濃度があった。『ちゃんと伝える』は、病気の問題さえちゃんと伝えていません。

 園子温好きにとって、本作ほど困惑させられる映画はありません。何やってんの、と言いたくなります。「おまえこそ何見てんの?」というお声があれば、ぜひ頂きたいところです。細かい理屈なんてどうだっていい! と突っ走るのがその映画の大きな醍醐味です。だから今回だって、病気のリアリティ云々はどうだっていい! と突っ走ってくれればそれでよかった。でも一向に走り出す気配もなくて、作品にエネルギーがない。『愛のむきだし』がスーパーエネルギッシュだったから、今度は静かな作品を撮ろうというのはわかるんですけど、それにしたって何もなさ過ぎる。困惑しきり、でありました。
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by karasmoker | 2009-09-26 00:27 | 邦画 | Comments(0)
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