『エリン・ブロコビッチ』 スティーブン・ソダーバーグ 2000

この女、きらい!
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 ソダーバーグ監督、ジュリア・ロバーツ主演という知識以外、何もないまま観てみたんですが、奇しくも前回の『セルピコ』と同じような筋立ての話でした。実話ベースで、巨大な組織相手に立ち向かうという物語、タイトルが主人公=実際の人物の名前である点が同じで、その分どうしても引き比べてしまいますね。内容的な部分、映画的な豊かさで言えば、圧倒的に『セルピコ』が上です。『エリン・ブロコビッチ』は退屈でした。途中で観るのをやめようと思ったくらいでした。

  ジュリア・ロバーツ扮するエリン・ブロコビッチは三人の子を持つシングルマザーなのですが、職がありません。彼女は自動車事故に遭ってしまい、そのときの訴訟で出会った弁護士事務所に転がり込みます。そこで仕事中に見つけた資料から、とある大企業の工場が公害を引き起こしている実態が見えてきて、彼女は一念発起、その事件の調査に乗り出すわけです。

 かなり実際の出来事に忠実につくったらしいですが、ぼくの先入観なのでしょうか、どうしてもハリウッドの大女優が出ずっぱりの映画というのは、接待のにおいがします。今回で言えばもうジュリア・ロバーツがとにかく映りまくりで、おそらく全上映時間中の五割以上、下手すれば七割近くの時間はずっと彼女のアップの顔が映っています。これがアイドル映画なら、それでいいんです。アイドル映画の場合、客はそのアイドルを観たくて劇場に足を運ぶんですからそれでいい。でも、この手の映画の場合はそういうものじゃないはずです。そのうえ、ジュリア・ロバーツはそこまで汚れたりするわけでもなく、とにかく私が私がという感じのキャラクターで、もうこれはきついです。

 そもそもぼくはこの主人公がかなり初めの方から嫌いでした。事故に遭って訴訟を起こし、でも裁判には負けてしまう。仕事もないので、裁判で知り合った弁護士事務所に転がり込む、というくだりで、この女がもう大嫌いになります。この女は勝手に弁護士事務所に上がり込み、法律の知識もないのに強引にも、自分を雇えと言い出します。そんなことで雇ってもらったくせに、「事務所の皆が君を煙たがっている。そのファッションも皆には嫌われているみたいだよ」と上司に言われても、「あたしはあたしですから」みたいなことを言いやがるんです。もうぼくはこいつが大嫌いです。強引に押しかけて雇ってもらっている立場で、なんという態度でしょうか。

 ネット上で実話を解説しているものを読むと、「最初の事故の裁判は弁護士の不手際で負けてしまった」みたいに書いてあるんですが、この映画では別に弁護士がどうのこうのじゃなくて、女の態度が陪審員の不評を買ったみたいな描かれ方です。もしも弁護士の不手際で負けたなら、ああいう態度で職場にいるのもまだわからないでもないですが、この映画の描き方ではどう考えても痛い女です。こういう映画では主人公が好きになれないときついんですが、好感度ゼロです。

 それでもまあなんとか大企業の実態を暴き初め、一応頑張り出すんですが、このときもまたむかつかせてくれます。実態を調査するために会社を一週間欠勤するんですが、こいつはどうやらそのための連絡を一切入れていなかったらしく、上司に怒られます。普通の常識があれば、「すみません、実は…」と詫びを入れるのが筋であり、そもそも欠勤の連絡を入れるなんて常識中の常識です。ところがこいつはそんな自分の過失などおかまいなしで、逆ギレし出すんです。その後クビを宣告されるんですが、その実態調査が大変な事実を示すものであったとわかり、上司が家に訪ねてきます。まあ要するに、あの調査の件を聞きたい、クビは撤回しよう、という話です。するとあろうことかこいつは、上司に対する罵倒を行い、そのうえあろうことか昇給まで要求するのです。一体どういう精神構造の持ち主なのでしょうか。これは本当に実話に忠実なのでしょうか。実在のエリン・ブロコビッチは本当にこういう感じだったのでしょうか。悪の大企業に立ち向かうはずのこいつこそ、相当なヤクザ女です。

 でねえ、さらにこいつに怒りたいんですけども、調査が進んでいって、裁判への準備がどんどん整っていく状況になるんですね。すると上司が、公害訴訟のプロであるという弁護士を事務所に呼び、応援を要請するんです。別に上司は何も間違っていないじゃないですか。それをねえ、この女はねえ、「何よ、いきなり横乗りしちゃってさ!」みたいにまた怒り出すんです。もう大変に面倒くさい女です。ぼくはこの上司が不憫でなりませんでした。公害訴訟をする上で協力するって言っているんだからいいじゃないですか。この女がなんで怒っているかと言えば要するに、自分はずっと地元に足を運んで調査し続けてきたのよ、これは私のヤマなのよみたいな話ですよ。なんでそうやって自分の手柄にしたがるのでしょうか、目的は一体どこにあるのでしょうか。ジョディ・フォスターの『コンタクト』でも感じましたよ。おまえの目的は何やねん、と言いたくなるんです。問題を解決することなんか、それともおまえが手柄立てたいんかと。ほいでこの場合は、地元民を救うことが目的になるのだからおまえの手柄とかはとりあえずどうでもええやんけということなんです。しかもこれがまたジュリア接待のにおいのするところで、結局その新しく来た敏腕弁護士は無能だったみたいな感じになるんです。あのさあ、大企業と戦って勝利しました、やったね、って話じゃねえの? これじゃあ結局、仲間内でいちばん優秀だったのはジュリアだったのよって話でしかないんですよ。

 大企業のプレッシャーみたいなのも、めちゃめちゃ薄いんです。脅しの電話を一本だけ入れたけど、それ以上何もしてこないし。いや、別に何もしないから悪いんじゃない。むしろこの映画をもっと引き延ばされてもたまりません。ただ、大企業のプレッシャーがあるんだなあ、という雰囲気なり何なりはもっともっと必要ですよ。だから『セルピコ』を観ろって。あれはアル・パチーノ、フランク・セルピコの孤独さ、周囲からの孤立感がすごくよく出ていますよ。だからその戦いに対しても、頑張れという気分になるんです。このジュリア・ロバーツのエリン・ブロコビッチは、ぜんぜん応援できないです。

 実際のブロコビッチがどういう人なのか、どういう事実があったのかは知りません。あくまでもぼくはこの映画に怒っているんです。それで言えば、どうしてこの女がこんなにもこの公害事件に熱くなったのかもよくわからないんです。とりあえず仕事が欲しい、なんでもやるわ、みたいなやつだったんですよ、最初は。独身で三人の子を養うための就職口がほしかっただけのはずなんです。なんでそんなにこの事件に熱くなったのか。こいつにとってこの事件がどれだけ大事なのか、ぜんぜん見えてこないんです。いや、わかりますよ。子育てのために雇ってもらわなくちゃならず、そのためには仕事で活躍しなきゃ行けない、そのうえでこの事件は絶好のヤマだ、とこの女は考えているのでしょう。だとすれば、敏腕弁護士登場に怒ったのも筋が通ります、手柄を立てたいのもわかる。でもさあ、だとするとこいつにとってのこの公害事件って、何? 『セルピコ』はわかるじゃないですか、あれはもうセルピコがどうしてあれだけ頑張るのか、ちゃんと最初から最後まで筋が通ってますよ。でも、哀しいかなこいつの場合、結局公害事件に大した思い入れがあるように見えないんですよ、いくら頑張ったところで。

 いちばんの証拠は、最後の特別ボーナスのくだりですよね。事件を解決に導いたってことで、特別に大金のボーナスをもらって映画が終わるんですが、じゃあ結局金なの? その金が欲しくてずっと頑張っていたってことなの? それってすごく哀しい、悪い意味で哀しい結論じゃないですか。いいじゃないですか、最初は数ある仕事のひとつでしかなかった公害事件をなんとか解決に導いて、金ではない、人々との繋がりだのなんだのを喜んでハッピーで、もうそれでいいですよ、こんなことなら。裁判に勝った後、原告の人の一人に報告しに行くんですが(裁判のくだりは実にあっさりしていました)、このときも多額の賠償金を得たわよ、よかったわねって話なんです。なんでそんなに金を得たことばかりで喜ぶ必要があるのか。いやもちろん、金を得たことは大事ですよ、そのための裁判だったわけですよ。でもさあ、それとは違う何かってものを描いてこその物語的厚みじゃねえの? 裁判で勝ちました、金をもらいました、自分も大金のボーナスを得ました、めでたしめでたし、ってなんだそりゃ! 本当にそれでいいのか!

 家族のくだりもねえ、なんか、どうでもいいやって感じですよ、だから。あとこれは文化的な問題、それこそ何でも明示、主張しなくちいけないお国柄なのかもしれないけど、この女はことあるごとに、「自分は子供を人に預けて働いているのだ」みたいなことを上司に抜かすんです。いやそれはさあ、わかるよ、わかるけど、それを言わないから健気さって生まれるんじゃねえの? それを言わずに頑張る姿が感動を呼ぶんじゃねえの? そういうところでも、この女をどうしても好きになれない。ここなんですよね。「私は頑張っているのよ!」って言っちゃ駄目だよってことですよ。それを言わずに頑張る姿を見て観客は、「俺はおまえの頑張りを知っているぞ」と共感するんですよ、セルピコはそうですよ。こいつは自分でいかに頑張っているかを言いまくるから、「はあ、そうですね、とてもよく頑張っていますよね」くらいにしか思えない。それで、最後は結局、金。

 もう今回はずっと怒っているだけの文章ですが、これを観て世の人々は何か感動したり何なりするんでしょうか。あの様子を見て、そしてあの結論を導かれて。ぼくにはもうさっぱりわからない。そんな人に言えることはただひとつですよ。『セルピコ』を観やがれ!
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by karasmoker | 2009-10-13 21:37 | 洋画 | Comments(0)
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