『アミスタッド』 スティーブン・スピルバーグ 1997

綺麗にしちゃうと残らない

d0151584_327589.jpg


スピルバーグ監督の長編映画は、まだ数本ほど観ていないものがあるのですけれども、今のところで言うと『JAWS』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』がいちばん好きですね。それに次ぐのが『ジュラシックパーク』になるでしょうか。思うにこの人はやっぱり幼稚さを持った映画の方が光る気がします。大人向けの硬派な内容でもまとめあげるわけですが、そういうのは他の監督がいくらでもやるし、スピルバーグならではの良さというのはあまり感じないんです。スピルバーグと言えばもうハリウッドの超第一人者ですが、そうであるだけにハリウッド的な限界というものにも縛られてくる。ハリウッド的限界というのは要するに、そこまで大胆なことはやれない、ということです。
 
『映画秘宝』二月号においてゼロ年代ベストが発表されていましたが、一位は『殺人の追憶』で、韓国映画がたくさんランクインしていました。数十年後にこの十年を振り返ったとき、まず最初に語られるトピックはおそらく、「韓国映画の躍進」ということでしょう。韓国映画の持つ大胆さを数々目にした後で観ると、スピルバーグに代表されるハリウッド映画はやはりマイルドなものとして映る。そのマイルドさこそが、CG技術と相まって高いポピュラリティを獲得してはいるのですが、その分カルト的な熱狂は生まれにくい。『ダークナイト』はジョーカーを描ききっているとは言えないし、『ミスト』はあくまで子供殺しをほのめかすことしかできない。

 そういう点で言うと、やはりぼくがスピルバーグに期待するのは幼稚な部分になるんです。だから『アミスタッド』は、どうしてもそこまで惹かれる映画ではない。ぜんぜん悪くないんですけども、先々にスピルバーグ作品を並べたときに、結構後の方に思い出す映画なのは間違いありません。

 史実に基づいた作品です。アミスタッド号という船に乗せられ、奴隷にさせられようとしていた黒人たちが反乱を起こし、その後彼らの処遇を巡って法廷劇がなされるお話です。

 こういう事件があったのだ、ということを後世に伝える教科書的意味合いにおいては、大変有意なものだと思います。その後の南北戦争を知る上でも意義深いものでしょう。ぼくは実際、こういう出来事をこの映画を通して知ることができたのであり、その点は映画を観た意味があったと思います。それにこの手の映画の場合、史実を広く知らせる情報的側面も大きいので、変に物語的に盛り上げたり、妙な歪曲を挟んで外連味を出したりするのもむしろ問題であり、ある程度地味になってもそれはそれで仕方ないわけです。だから変な言い方ですが、つまらなくてもいいんです。つまらなくてもそれはスピルバーグのせいはないのです。

 スピルバーグは子供向け映画でパワーを発揮しますが、一方で『シンドラーのリスト』『プライベートライアン』などのように真面目に硬派に、過去の史実を物語ります。そう考えるととっても真面目な人です。ぼくはこの真面目さもあってほしいと思います。だから『アミステッド』はつまらないよね、といって終わりにしたくはないし、これからも過去の史実に基づいた、エンターテインメントとは一線画すような映画を撮って欲しいと思います。

「史実に基づいた作品は教科書的な意味合いがあるので、物語的に面白くなくても罪はない」というのがぼくの考え方です。ただ、その分演出の部分で監督の差が出たり、あるいは細かい創作の部分で脚本の違いが出たりするわけで、こここそその映画を評価すべきポイントになるでしょう。人間の性格はある程度創作になるし、台詞はもちろんです。

 冒頭の脱出シーンや船の上での凄惨な描写などは、さすがスピルバーグという場面でした。物語的には生ぬるくても、こういうところはきちんと撮る人です。途中、捕まってからの船内の回想シーンが流されるんですが、ここが結構長い。でも、法廷劇などわりと静かな場面が続いているから、この回想シーンが熱を持つし、もっと長くてもいいくらいでした。ぼくがこの映画を先々思い出すときはまず冒頭と中盤の船のシーンを思い出すのは間違いありません。

 しかしメインとなる語りについてはちょっと引っかかるところもある。たとえば主人公黒人シンケの妻の飾りが、船内で発見され、彼の手に渡るところなどは、どうしてもご都合的な感じが否めないし、聖書のくだりもそうです。聖書を読んで黒人が感動するみたいなのは、ありなのでしょうか。埋葬の儀式にこだわったりなど、あの黒人たちは彼らなりの信仰を持っていたはずで、白人のつくりあげた信仰の書に、果たしてあの局面であんな風に心惹かれるのか。こちとらキリスト教徒ではありませんので、もし自分があの黒人の立場なら、と考え、どうしても共感できないのです。史実ものだからつまらなくてもいいというのに、そういうところでは作り手の押しつけを感じてしまい、嫌になります。

 史実ものはつまらなくてもいいのですが、綺麗にしようとしているなと感じられるとやや鼻白みます。綺麗じゃなくてもいい、というのは、ハリウッド的には許されないのかも知れません。綺麗にしてしまうと、見終わった後であまり余韻がないんです。それがつまらないと感じたいちばんの理由かも知れません。
[PR]
by karasmoker | 2010-01-11 03:28 | 洋画 | Comments(0)
←menu