『シベリア超特急』 マイク・ミズノ 1996

この人はこの人なりにとても映画を愛していたのだ。
d0151584_39823.jpg

 2年前に逝去した映画評論家、水野晴郎が監督を務めた、知る人ぞ知る珍作。監督名義は「マイク・ミズノ」となっています。彼が金曜ロードショーの解説をしていたのはぼくの小学生時代のことであり、映画原体験の中に彼の顔は確かにあるのです。

 この映画は・・・・・・いやはや・・・・・・なんというか。
 公平に見たら駄目映画なんですよ。そりゃひどいもんですよ。でもね、きっと、この水野晴郎という人は、とても映画を愛しているんですよ。それをね、あしざまに言う気にはなれないんです。水野監督がね、DVDの冒頭で、「さあ、ご覧になってください!」と笑顔で言うわけです。それをね、ぼろくそに言う気にはならないです、ぼくは。一部でカルト的な人気を博している、とも言われ、続編がどんどん撮られているようですけど、なんかわかります。「『シベ超』の悪口は言うな!」と思います。公平に観たら相当なクオリティの低さであって、言い出したらきりがないですよ。低予算だってことを勘定に入れても、一本の映画としての出来は今までに観た映画の中で最低の部類です。でも、いいんです。悪く言う人に対しては、「水野さんがええって言うてんねんからもうええやんか!」と擁護に回りたいと思います。

 一生懸命頑張って撮ったんだ、というのは伝わってくるんです。その結果がどうであれ、いいじゃないですか。この映画を観てね、ぶちぶち文句を言うなんて、無粋なんです。そういうのは他でやってください。ぼくはこのマイク・ミズノに、エド・ウッド的なものを感じてやみませんよ!

 ぜんぜん駄目だろうと何だろうと、その分野を心底愛しているのなら、その人を悪く言うことはできません。今のテレビ局映画が映画好きから嫌われるのはやっぱり、出来云々もそうだけどそれ以前に、映画ってものをちゃんと愛しているかどうか、疑わしいものが多すぎるからです。別に映画に限りません。その分野を愛しているか、ないしはたとえ愛していなくても、何か別の表現の仕方があるんじゃないかと模索し続けているか、そういう部分にこそ享受者は反応するんです。いろいろ映画について悪く言ったりしても、底の部分で愛しているのなら、底の部分でぼくはその人たちの味方なのです。

以下、町山智浩さんが映画秘宝創刊に関してインタビューを受けたものからの抜粋。

映画を観ることでモテたいって状況があったんですよ。蓮實重彦とか難しい評論読んでゴダールのこととか話してモテようとしてるヤツ。あと岩井○二とか辻仁○とか映画を作ることでモテようとしてるじゃん。そんな動機で映画作るヤツは死ねって言ってるのオレは(一同笑)。

 映画を語ることでモテようとするなよ! スピルバーグが映画を作ることでモテようと思ったか? モテようと思ったら「未知との遭遇」(80年米)なんか作らないよ。タランティーノだってモテようと思ったら「パルプ・フィクション」(94年米)なんて作らない。ゴダールだってモテようと思ってないよ、ただ映画作ることで女優となんかしようと思ってたかもしれないけどね(笑)、それは辻仁○と同じかもしれないけど。別に(映画製作は)カッコいいことでもないオタクなことなのに、映画批評とかでモテたい、偉く思われたいとか、不純な動機で映画を語る雑誌があって、自分が利口になりたい読者がいて、それは何か違うなと思って。


 うん、『シベ超』なんかはもう、モテ要素はゼロですよ。うまくもなければ格好よくもないし、これをつくったからと言って正直そんなに褒められた出来ではないんです。でも、この人はこの人なりにメッセージを込めているし、観客に楽しんでもらいたいと本当に思っているんだから、それでいいんです。この映画で儲けてやろうとか思っていないし、そこはテレビ局映画との最大の違いじゃないですか。

モテるとか金が得られるとかじゃなくて、これをつくりたいんだ!っていう動機がいちばん最初に来ているなら、それだけでぼくは擁護します。そういう思いが根底にある限りは、ぼくにとってその人は、称えるべき人なのです。「こんなのつくってみようかなぁ」とか、「こんなのできたけどどうだろう?」なんて人よりも、はるかに大好きです。その点で、確かにこの映画がカルト的な人気を得るというのもわかる。もちろんそれは水野晴郎という人あっての話で、純粋に映画の出来だけの人気ではないだろうけれど、監督が「ぜひ楽しんでください!」って満面の笑みで言うなら、応えようじゃないですか。

「一生懸命やったなんてことは社会では言い訳でしかないんだ。どういう結果を残したかがすべてなんだ」みたいなことを言いがちですし、それは確かにそうかもしれないけれど、あのね、映画ってのはね、あるいは何かをつくるってことはね、きっと、そんなシビアなものがすべてじゃないんだよ。もっともっと、深いものなんだよ。
[PR]
by karasmoker | 2010-04-08 03:11 | 邦画 | Comments(0)
←menu