『刺青』 増村保造 1966

おっさんとともに、若尾文子を愛でる。
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家にいることに罪悪感さえ抱かせるうららかデイ。デイズ。新文芸坐は朝の回から大盛況。この分だと午後の回なぞは超満員じゃないかってぐれえのもんで、ぼかあ嬉しいやね、映画を愛する人々がたくさんいてくれるのが嬉しいやね。考えるに新文芸坐は理想的な環境であって、この理想形態は何に似ているかというと新宿ゴールデン街だね。その心はつまり、「改良の余地なし」ってなところだね。もう何にも変えなくていいやね。強いていやあトイレが混み合うって問題があるから、小便を済ましてから行くべしだね。

 なんていうか無粋な衆を寄せ付けねえ「気韻」ってもんがあらあね。いたずらに浮かれた心持ちじゃなくって、自分は映画を観るためにここに来たのだぞ、という明確な意思を感じるんだあね。自分はこの映画作品ときちんと向き合うぞ、という気位を感じてやまないやね。映画を観ている間も隣のラブちゃんと浮かれ気分でいるようなやつはシネコンに行くからね。一人で映画を観に来ているおっさんがほとんどだったね。宇多丸いわく、「映画館はおっさんとのデート」。おっさんと一緒に、若尾文子を愛でる。

 と、いうわけで『刺青』です。併映は『卍』でしたが、あの映画に対するぼくの評言は過去ログの通りでして、観ずに帰りました。『青空娘』のミヤコ蝶々の関西弁は美しすぎたし、『巨人と玩具』の企画部長か何かのおっさんの関西弁もリズミカルで抜群。その魅力を知っているはずの増村が、どうしてあんな調子の関西弁で『卍』を撮っちゃうのさ!

 と、いうわけで『刺青』です。若尾文子姐さんがついにターボをかけてくれました。連休中今日までの作品ではそこまではっちゃけることのなかった姐さんでしたが、今回は増村演出と非常に良くかみ合い、色気と業の入り交じる破滅的な女を演じてくれました。

増村保造×谷崎潤一郎の組み合わせは今回の『刺青』、『卍』、『痴人の愛』の三作ですが、その中で言えばダントツにいいです。というか、あとの二作が正直よくないです。『痴人の愛』という長編を短くまとめたのと反対に、今回は短編の『刺青』に大胆な脚色をくわえ、それどころか話を大きく変えて広げ、不足のない語りを実現しております。

谷崎の『刺青』を原作にしている、と聞いて、「はて? 映画になるほど長い話だったっけ。っていうか女に彫り物をして、わあ素晴らしい出来だ、はぁはぁ、みたいな感じじゃなかったっけ」と思っていたのですが、破滅的な色恋沙汰をそこに組み入れ、熱い話にしておりました。

 殺し合いの場面が幾度も出てくるのに驚きました。若尾文子をめぐる殺し合いが交わされ、格闘シーンがたくさん出てきます。ただ、増村は実は暴力表現がそこまで得意じゃない監督であろうな、と思います。石井輝男とか深作欣二などと比べてみると、増村の暴力表現にはあまり白熱がない。この人の狂気のおいしさはそこじゃねえんだな、とは思いました。

 ではどこなのか、というと、この映画のおいしさはつまるところ若尾文子のファム・ファタール感と、そしてあのラストシーンにあるんですな、ええ。ずっと連れ添ってきた弱気な男と対峙する場面がいいんですね。そして最後がいいんですね。観ていない人にも一応配慮して、詳しい展開は述べませんけれども、あのシーンの構図的、色彩的豊かさが、増村監督の魅力なのです。

うーん、でもねえ、でもでもでも、ここにおいてぼくはやはり『盲獣』と『巨人と玩具』の二作が素晴らしいってことを思ってしまうんですね。はっきり言ってあの二作品はもう完璧! 増村のすごいのは、ぜんぜんまったく違う二作品でそれぞれに別の熱を生み出しているところ。あれらと比べれば今回の『刺青』にはもったいなさも感じる。『巨人と玩具』的なハイパースピードを今回の時代劇に組み入れていればどうだったか。今回のあの女郎蜘蛛の刺青、あれを何度も映す演出は『盲獣』的身体性に通じたはずで、つまりは『巨人と玩具』と『盲獣』のちょうど中間をなすような狂気がもっと生まれ得たように思う。すればあのラストは谷崎の原作をはるかに超えるものであったろうに、という感じは否めないのであり、ちょっともったいない、結構もったいない。

でもそれは『巨人と玩具』『盲獣』を観てあまりにもハイハードルになっているからそう思うだけであろうし、何より当時まだ増村は『盲獣』を撮っていないのだから、こういうのは遠く時代を経た後のぼくが勝手に思っているだけの話である。本作は十分に見応えのある作品と言って差し支えなかろうし、繰り返しになるけれど若尾文子を愛でたい人の期待には十分応えてくれる逸品である。

 と、いつの間にか敬語を忘れていました。いや、濃度のある作品なのでね、増村作品の中では上位のものとして間違いないとは思います。年間に三本も四本も撮っている中でこれだけのものを残すってのはとてもすごいことなんです。増村監督は本当にすごい監督なのです。なんか今日もどうまとめていいかわかんねえやシリーズ。

 ぜんっぜん関係ないけど、BSでのひろゆきと勝間の対談が面白かった。勝間って人が長くしゃべっているのを初めて観たんですけど、要はこの人は、狭い範囲のことしか仮想できないまま、「あたしが正しいのよ! あたしは理路整然と話しているのよ!」と大声で言う人。だから江原とか細木に代わるばばあどもの偶像になる。
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by karasmoker | 2010-05-03 22:37 | 邦画 | Comments(0)
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