『ガントレット』 クリント・イーストウッド 1977

ハラハラさせる展開とはこのことだ。
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イーストウッド監督作品はまだ3分の1程度しか観ておらず、今までもうひとつ楽しめずに来た人間なのですが、この『ガントレット』は面白かった。こういうのを観ると、他の作品も観てみようという気になりますね。「どう展開していくのだろう、ハラハラ」という、単純にして尊い物語的快感。それを素直に感じさせてくれる一本です。

 イーストウッド演ずるショックリー刑事は上司の命令を受け、裁判の証人を迎えに遠出していきます。証人のソンドラ・ロック(イーストウッドと長年交際の女優)を保護し、警察へと戻ろうとした矢先、次から次に危険が迫り、帰路は一転逃避行の様相を呈することになるのです。

 デ・ニーロ主演の『ミッドナイトラン』(1988)という映画は公開当時、結構この映画と比べられたことでしょう。あれも証人保護の道中でハプニングが巻き起こる作品で、起こる出来事もかなり似たようなところがあります。

 どちらの映画も、刑事とその刑事から逃れたい人間が対になっているのですが、こういうバディ・ムービーは関係が引き締まっていて面白いです。当初から仲間ではなく、最初は互いを煙たがっているため、捕まっているほうは時として刑事の目を盗み、逃げ出そうとする。これによって、物語の重要な要素たる「爆弾」がずっと維持され続けるのです。

(*爆弾・・・・・・なにさま的映画用語。「いつ爆発するかわからないぞ」と思わせるのが爆弾の大事な機能であり、これを用いることで観客に緊張感を持続させられる。映画における難病、ウイルス、スパイなどがこれに当たる。当然、爆発後には大きな物語転換を引き起こすのであり、爆弾は映画の「起爆剤」でもある。)

 まさかのキャプションをはさんで話を続けます。
 『ミッドナイトラン』もそうですが、アメリカ映画の強みを存分に活かしています。荒野と長距離鉄道を観るたび、かの国のロケーションはなんと映画向きなのか、と思わされる。料理文化の発展はその国が持つ農業的資源によるところが大きいのですが、映画の発展もまた、地理的な資源が大きく影響しているのでしょう。『北国の帝王』などを観ても、ああ、これはヨーロッパや日本では小さすぎるよなあ、と思わされます。
 あの広い舞台があるからこそ、ヘリとバイクのチェイスは白熱します。観ながら思ったのですが、MGS3はこの『ガントレット』にも影響を受けているんじゃないでしょうか。夜のたき火のシーンもバイクのチェイスも、MGS3に登場します。

 たき火のシーンはよかった。あの場面でこの映画に惚れた。イーストウッドがサンドラ・ロックを殴りつけるのですが、サンドラは彼の股間を蹴り返します。その後の言い争いも素晴らしかった。
サ:「なんであんたがこの仕事(自分を保護する仕事)を任されたかわかる?」 
イ:「俺が優秀だからだ!」
サ:「違うわよ! あんたが死んでも誰も悲しむ人がいないからよ。だから敵と味方の区別もつかないのよ!」
 このとき、彼ら二人を追っていたのはギャングや悪たれではなく、事件もみ消しをはかる警察の上司で、イーストウッドはまともに言い返せません。彼は見下していたはずの売春婦に、自分の偏狭さを思い知らされるのです。この後のやりとりも含めて、ぼくはこの場面で完璧に惚れました。

 この後、二人が貨物列車の中で悪たれに襲われるシーンもいいです。イーストウッドを助けるために悪たれを引きつけ、自分が犯されかけてしまうサンドラ。彼女を助けるイーストウッド。ここにおいて二人は強く結ばれる。こういう展開は大好きです。

『ミッドナイトラン』の掛け合いもいいですけどね、真面目なチャールズ・グローディンが向こう見ずなデ・ニーロに対し、鉄道における駅の存在意義をとうとうと語るところは素晴らしく面白く、ああいう温度差遊びもいい。こういうタイプの関係はもしかするとぼくの好物なのかもしれません。思えば『第9地区』の二人もそういう部分が大きかったわけです。ツンデレじゃないですけど、「おまえのそういうところが嫌いだ」「おまえなんかくたばったちまえ」と言いながら一緒にいるというのは、なんとも素晴らしきかな、という感じがします。

 クライマックスはこれまたとんでもないことになります。ですが、ここでぼくはふと引っかかるんですけど、映画ってのはどうしてどれもこれも、車を銃で狙撃するとき、タイヤを狙わないのでしょう。この映画でもやたらと車体に発砲するんです。止めたければタイヤを撃ってパンクさせるか、もしくはエンジン部分を狙い撃つべきです。これは人間を撃つ描写にしてもそうです。相手を殺したければ、腹などではなく、頭部を狙い撃つべきなのです。もちろん頭部の方が幅が狭く当たりにくいという事情があるんですけど、結構至近距離の発砲でも腹を撃ったりしますからね。まあ、そういうことを言うのは野暮ってもんです。粋じゃないのです。この映画のクライマックスはなかなか楽しいことになっていますので、それでよいのです。

 娯楽作としてのイーストウッド作品。その中では最も楽しめる一本でありました。
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by karasmoker | 2010-05-27 01:59 | 洋画 | Comments(2)
Commented by little pow at 2010-05-28 11:13 x
僕は警官が家を囲むシーンで山猫部隊戦思い出しちゃいました。
たぶん山猫戦はこの映画を元にしたわけではないと思いますが笑

>>映画ってのはどうしてどれもこれも、車を銃で狙撃するとき、タイヤを狙わないのでしょう。

映画のリアリズムの線引き(どこまでがOKでどこからがアウトか)について考えてみるのも面白いかもしれないですね。
だいたいは面白ければOKなんですけどね。
Commented by karasmoker at 2010-05-28 23:52
>警官が家を囲むシーンで山猫部隊を思い出しちゃいました。

 なるほど! それもありましたね。little powさんもMGS3プレイヤーなのですか! あのゲームをぼくは何十回となくクリアしたものです。家を囲むシーンはペキンパーの『ビリー・ザ・キッド』が印象深く、後代の映画で言えば『マーダーライドショー2』が出色と思っています。

>だいたいは面白ければOKなんですけどね。

まさにそうです。面白ければリアリティなんざ二の次!
最近、井口昇の『恋する幼虫』を観てつくづくそう感じました。
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