『ハロウィン』 ロブ・ゾンビ 2007

比較しやすい類似作が、充実しすぎているので。
d0151584_0123100.jpg

『マーダーライドショー』のロブ・ゾンビ監督が、ジョン・カーペンター監督の『ハロウィン』をリメイクした作品です。ジョン・カーペンター版を観たので、比較にと思って観てみました。続編はまだ観ていません。

 カーペンター版『ハロウィン』は今観るとどうしても前時代的な表現に思えてしまいます。『マーダーライドショー』の原作たる『悪魔のいけにえ』については、今観てもその良さを失っていない、どころかその野蛮さが輝かしく思えるほどで、ぼくは『テキサスチェーンソー』(あるいは『ビギニング』)よりも『悪魔のいけにえ』を推しますが、この『ハロウィン』についてはロブ・ゾンビのもののほうがよかったです。

 1978年のカーペンター版は、どうしても盛り上がりに欠ける。この違いを例えるなら、ハワード・ホークス監督の『暗黒街の顔役』(1932年)とデ・パルマ監督の『スカーフェイス』(1983)の違いに似ています。どうしてもその盛り上がりにおいて、前者は後者を大きく下回るのです。カーペンターの『ハロウィン』は2010年のぼくの感覚からすると、どうももたもたしているんです。かといって『悪魔のいけにえ』的野蛮さもなく、素朴ではあるけれども素朴に過ぎる。結構いろいろな映画に越えられてしまっている。

 ただ、じゃあロブ・ゾンビ版『ハロウィン』はどうかというと、モンスターとしてのブギーマンは、レザーフェイスに勝てないんです。レザーフェイスとブギーマンはそのマスクや図体のでかさから、とても似ている存在ですが、ぼくは断然レザーフェイス派。実在のエド・ゲインはさておくとして、映画に出てくるレザーフェイスはとても魅力ある存在になっている。ブギーマンとのいちばんの違いは、哀しさなんです。ブギーマンは哀しくないんです。単純な絶対悪になっているのです。レザーフェイスは白痴で最悪家族のいいなりになって生きているような哀しいやつで、『悪魔のいけにえ2』ではポップさと哀しさを備えるに至ったわけですが、ブギーマンはあまり哀しくない。

 確かに見せ場はたくさんあって、スプラッター映画としてはさすがロブ・ゾンビ監督というできばえですが、もともとのキャラクターにさほど魅力がないというのが大きいんです。だからゾンビ監督は下手にカーペンター版のブギーマンを守ろうとしなくていいと思うんですけどね。自由にやってくれていい。彼は『ハロウィン2』もつくっているらしく、こちらは未見なので、なんとも申しようがありませんが。こういうとあれですけど、もとの作品に忠実なところほど、面白くない。オリジナルでつくった場面、暴力描写のほうが圧倒的に上回っている。ロブ・ゾンビ監督にはそろそろオリジナルをつくってもらいたいところです。『デビルズ・リジェクト』のように、はっちゃけてほしい。この人はすごい才能の持ち主だと思うんです。

 ブギーマンの幼少時代を長めに描いていますが、ここで深みが出るかと思いきや、そうではなかった。ここはとても残念です。やはりブギーマンは単純な絶対悪でしかないということなのでしょうか。絶対悪といえば、本作ではマルコム・マクドウェル、『時計じかけのオレンジ』のアレックスが精神科医として出てきます。これは面白い反転ですね。アレックスも絶対悪だったわけですが、彼が今度は絶対悪のブギーマンを抑えようとしているわけです。でも、映画としての弱さは、やはりアレックスのような激変がブギーマンには起こらないところ。終始暴力の行使者でしかないし、それはジョーカー的な絶対悪とも違う。妹を前にひざまずくくだりがあるんですが、あれもあまり効果的とも思われなかった。

 この映画におけるブギーマンの、絶対悪としての「ポイントオブノーリターン」は、あの看守のおじさんを殺してしまうところです。あのおじさんを殺した以上、いかに妹の前に立ち尽くそうとも、もはや彼には悲哀がこもらない。脱走する場面でおじさんを殺したら、もう後には戻れない。ただの殺人鬼になるしかなくて、それも本当にただの機械的な殺人鬼に過ぎないから、哀しくない。それと機械的殺人鬼の彼を造形するなら、幼少期をあんな風にして長めに描く必要はない。せっかく幼少期を長めに描いたのに、大人になってからと何も変わりがない。あの幼少期には、大人時代との違いが何かしらないと。

 総じて言うなら、これはもとの作品よりも格段に上です。カーペンター版ファンには同意を得ないだろうけれど、すべての面でロブ・ゾンビ版は上回っていると思いました。でも、じゃあこれが『テキサスチェーンソー』『テキチェン・ビギニング』を上回っているか、あるいは『マーダーライドショー』より上かと言われるとそうは思えず、そうなると『悪魔のいけにえ』がやっぱり段違いに上だということになるわけで、ぼくの中での序列は結構はっきりしています。『悪魔のいけにえ』の前半30分は恐ろしいほどに退屈ですが、あの家に入ってからの活劇は素晴らしい。見せ物としてのクオリティは確かにリメイクスのほうが上だけれど、野蛮さとあほらしさの融合、あるいはラストの美しさの点で、あの映画は他を凌駕していると思います。

 『ハロウィン』は面白いんです。面白いんですけど、他の比較材料が豪華すぎて、そうなるとそこまで褒められなくなる。なかなか贅沢な話ではあります。ちなみに、2005年公開の『ブギーマン』という映画がありますが、これはとてもつまらないので観なくてよいです。 
[PR]
by karasmoker | 2010-06-04 00:02 | 洋画 | Comments(1)
Commented by ulysses at 2014-05-15 13:53 x
私は『ハロウィン』オリジナル版の方が好きです。
リメイク版は、単なる「血しぶきスプラッタ」なモンスター暴力映画でしかないので、オリジナル版にあった詩的な部分が好きな私としては、劣化版にしか見えないのです。
突発的なこけ脅しで観客を煽る映画ではなく、論理と非論理のせめぎあいで心理的にジワジワとくる恐怖描写とか、背景の憎しみや哀しみとか、人間的な複雑な想いと超自然現象への畏怖が備わってこそ、「恐怖映画」だというのが私のスタンスです。

今の若い世代には、そういう哀しみとか心情とかの部分は必要なくて、単なる虐殺ジェットコースターでいいという風潮はあると思います。
よく『ハロウィン』オリジナル版は悠長でモタモタしているという意見を聞くけど、あれは間とか空気を描いているんであって、それが理解できず心に響いて来ないなら、畳み掛けるビックリが連続する「血しぶきスプラッタ」を見ればいいと思うんです。

私は「血しぶきスプラッタ」は即物的な見せ物でお客の懐をもぎ取る姿勢の一面と、頭が悪くて物語を考えられない作り手と受け手のためのストレス解消映画としての面があると思っています。
お祭り騒ぎ用と鑑賞用の映画は別ものということで。
←menu