『片腕マシンガール』 井口昇 2007

何でもありの果てまでも。
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 自主規制していない表現、というのは観ていて気持ちのよいものです。やりたい放題の表現、というのは気持ちのよいものです。開き直っている表現、というのは気持ちのよいものです。無論そのすべてを肯定することはないにせよ、誰かの顔色を窺ったり、お口に合わせたりするものよりは、「これがおもろいんじゃい!」と声高に叫んでいるもののほうが、やっぱり最終的に強いと思います。本作はその演出において、テレビ局映画と同じ轍を踏みながらも、テレビ局映画が失敗したすべてを成功に変えている。大変な快作であるなあと恐れ入った次第であります。

 テレビ局映画が駄目と言われる理由は数多く、代表的なもので言えば「脚本がご都合主義的」だとか「ご都合主義どころか支離滅裂」とか「演出がださすぎる」とか枚挙に暇ないほどですけれども、この『片腕マシンガール』はそのすべてが当てはまります。そして、驚くことに本作は、その瑕疵のすべてを美点に変えてしまうのです。

 まさに爆笑と失笑の差異。本作は前者、テレビ局映画が後者。では、何がその差異を生み出すのでしょうか。

 ぱっと観てわかるところは、照明の妙です。この映画は照明が非常に上手で、画面全体にその場の雰囲気が漲っているのです。どうして『呪怨』はこれができないのでしょうか。この映画では照明が暗い場面があり、それゆえに部屋の隅の闇が滲んで見えてくる。登場人物が浮き上がらずに、暗い部屋の中に一人ぽつんといる雰囲気が醸成される。この映画はチープで、馬鹿らしくて、演出的にもださい。でも、その場面の設計がきちんとなされているために、単なる駄目映画とはまったく別の場所に位置しているのです。テレビ局映画は十中八九、画面を明るくしすぎるんです。鮮明にしすぎると言ってもいい。そのせいで余計に作り物めいてくる。映画全体を貫く雰囲気の点で、まったくの別物です。

 差異としてあげられる二点目は、ほとんど開き直っているかのように見える芝居です。映画における芝居の禁じ手として、「説明的な独り言」というのがあります。その人物が感じたこと、思ったことを台詞に出さず、いかに仕草や表情で見せるか、そこで演技力は問われてくるのであり、脚本のうまさが問われます。自分がどう思っているかを説明的に呟くなんて、普通はあり得ないわけで、これを喋らせてしまうのはださいわけです。登場人物の内側から漏れた言葉でなく、物語説明としての台詞だとばれるからです。しかしこの映画は、その禁じ手をばんばん破ってきます。テレビ局映画がそれを禁じ手だとも知らずに(あるいは観客の読解力を見くびって)説明し、失笑を買うのに対し、この映画ではそれが爆笑に変わる。どうしてか。理由は簡単。この映画が細かい演技どころではない、とんでもない展開を用意しているからです。変に抑えた演技は、むしろ要らないのです。増村映画のごとく饒舌に語らせることによって、この世界そのもののぶっとび感を強めているのです。ぶっ飛んだ世界でリアルな演技はむしろ変です。ぶっ飛んだ世界なら、ぶっ飛んだ演技を。言ってみればすべてが禁じ手とも言えるこの映画では、細かい定石など、意味をなしません。主人公の友達がいるのですが、ぼくはこれまで、あれほどに記号的な友達を観たことがありません。でも、いいんです。ぜんっぜん問題ない。
 教訓。下手なリアリティに囚われて停滞するくらいなら、むしろ饒舌にぶっ飛ばせ。これは増村保造の教えでもあります。

 最も重要な差異は、冒頭に述べたことです。映画にとって重要な熱量、それは規制や配慮、遠慮や逡巡をかなぐり捨てたときに発生するのです。「馬鹿だと思われるんじゃないか」「ださいんじゃないか」「嫌われるんじゃないか」という自主規制を一切せず、「これがおもろい!」とマジで信じている。「ここで血がぷしゅーって出たら面白いぞ」「ここでぐちゃぐちゃにするとすんごいグロテスクだぞ」というほとんど幼児的とさえ言える演出を、ためらいなく仕掛けてくる。これはねえ、『第9地区』に通ずる熱さなんです。あの映画だって、冷静に観ればおかしいような・・・という点はあります。でも、いいですか、「冷静に観る」必要なんて、ないんだよ。理屈抜きに面白いものは、それでいいの。もちろん、その面白さの分析をすることは有意ですよ。どうしてこんなに面白いのかってことは分析したくなる。それを突き詰めているのがピクサーだし、ピクサーの面白さには全面的に敬服する。でも、ああいう計算され尽くした面白さとは違う、「馬鹿」と呼ぶのが最も適切な面白さはあるのであって、それは規制や逡巡をものともしない熱量ゆえに生まれるのであって、最終的にぼくはそういうものを支持します。テレビ局には、計算もなけりゃ熱量もない。あるのは金勘定のそろばんだけです。まったく次元が違います。

 今日の書き方だと内容がまったく伝わらないのですが、まあ下手なネタバレをしないほうがいいでしょう。驚きの連続を味わっていただきたいものです。主演の八代みなせが素晴らしいです。増村保造映画の渥美マリや『さそり』の梶芽衣子と双肩と言って差し支えありますまい。
「人殺しは、絶対やってはならないことだと信じてた・・・。だけど、あんたのご両親から学んだよ。時と場合があるってね!」
この八代みなせのすごさったら! ウィキを観る限り、ぜんぜん演技方面で活躍していないようなんですが、まったく世間の映画関係者は何をしているのか! これは大変な逸材ですぞ!

 あとは杉浦亜紗美。すごくいい啖呵を切るなあ、これまたすごい女優だぞと思っていたら、AV女優なのですね。ほら、な、AV女優の演技力ってあるんだよ。みっひーもそうだし、『グロテスク』の長澤つぐみもそう。絶対もっともっと逸材が隠れているんです。なんとも途方もない宣言をしますが、もしもぼくがいつの日にか映画を撮れるようなことがあったなら、必ずAV女優から抜擢します。あの人たちの演技の幅を、なめてはいけないんです。よく、綺麗な女性の職業なんかで、「女子アナ」とか「フライトアテンダント」とかあるでしょ。「アイドル」「女優」「モデル」はいわばそのヒエラルキーの頂点でしょ。とんでもない! ぼくの描くピラミッドの頂点は、間違いなくAV女優なのです(何なんだこのセンテンスは)。

 園子温、白石晃士が日本映画の2トップと思っていましたが、お見逸れしていました。3トップです。井口昇監督に、リスペクトフロムハート。
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by karasmoker | 2010-06-19 09:11 | 邦画 | Comments(5)
Commented by little pow at 2010-06-19 23:22 x
井口監督の映画はパワーがとんでもなくすごいですよね。
確かに撮り方や脚本は下手だけど、あの勢いだけでお腹いっぱいになるまで楽しませてくれるという。

井口昇監督はAV(しかもSKTR系)業界出身だそうですね。
この人やピンク映画出身の滝田洋二郎監督がコンテンツ事業の頂点にいる堤幸彦や本広克行といったTV出身の連中より遥かに面白い映画を作ってる。この事実は世間にもっと注目されるべきだと思います。

いや~AV業界は宝の山ですよ!
Commented by karasmoker at 2010-06-20 03:31
またもコメントいただき、嬉しい限りであります。ぼくの「AVは実はすごい」論にご賛同いただき、これまた喜ばしいことでございます。

出身がスカ畑だけあって、さすが表現に躊躇がない。ああいう道を究めた者だけに可能な思い切りの良さを感じます。思うに、AVっていうのは視聴者の集中度が最も高い映像メディアなんです。観る者は理性を放り出して没入しますからね。だから目の肥えた視聴者を満足させようとすれば自ずと表現が磨かれていく、特に狭く深い畑では。井口監督は決してメインストリームにはならなくても、間違いなくある種の表現の最先端にいると思います。

とはいえぼくはスカトロビデオをまだ一本も観たことがないのです。なんなら観なくちゃいけないんじゃないかという気にもなっており、その辺は多少びびっています。
Commented by karasmoker at 2010-06-20 04:32
ちなみに、堤幸彦は映画監督としてはひどいのですが、ドラマ演出家としてならぼくはとても好きなのです。『金田一少年の事件簿』『ケイゾク』『トリック』『池袋ウエストゲートパーク』『ハンドク』などが好きで、とりわけ『愛なんていらねえよ、夏』というドラマはテレビ史に埋もれた傑作連ドラ、ぼくのワンオブベストドラマなのです。あの人にはテレビ界で頑張ってもらうのが一番なのです。
Commented by よもぎ at 2011-12-20 02:29 x
面白かったです。東京残酷警察がハチャメチャすぎて乗れなかったので、同じ系列?かなーと借りしぶりしてたのですが、管理人さんもお気に入りだし!と思い切って借りて良かった。
想像していたより、ストーリーがちゃんとしていたので、主役や登場人物の言動に説得力もあったし、だからこそ「やりすぎ」に気持ち良く乗れた。そんな感じです。
「スーパー遺族が・・」「医者の息子でメカニックの・・」とか、シーンごとにおしゃべりしたいことはいっぱいありますが、こうやってコメントする分には「いわずもがな」の傑作でしたね。
来年一発目の更新、楽しみにしています。どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。 
・・といいながら、またコメントさせていただくかも・・
Commented by karasmoker at 2011-12-20 10:44
 コメントありがとうございます。
 自分がいいと思った作品に共感してもらえるのは嬉しいものです。
 キワモノ映画ではあるので、映画に詳しくない人に薦めると「え? か、片腕w? マシンガールw?」みたいになりがちですが、「いいから観やがれ馬鹿野郎」と言いたくなる熱い作品です。
 またのコメントをお待ちしております。
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