『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』 ジョージ・A・ロメロ 2008

これをよしとするのは、どこまでもロメロを擁護できる人だけ。
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 新作の『サバイバル・オブ・ザ・デッド』を観に行こうかと思い、そういや前作を観ていなかったと気づき、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』。ここまでのロメロ監督ゾンビ作品は全部観たんですけれども、ぼくはこの人の作品がそれほど好きではないんです。「ゾンビと言えばロメロ」みたいに言われまして、確かに『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』で現代の映画的ゾンビ像をつくり出したのは見事だと思うのですが、それ以降ほとんどこの人のゾンビ像には、進展がないように思うのです。

 いや、だからこそ愛好する人もいるのでしょう。紋切り型の美学というか、お定まりの娯楽といいますか、そういうものの良さはわかります。特撮ヒーローものにせよ時代劇にせよ、形は決まっているのであって、それを崩す必要はないのであって、そうした意味でならロメロ的ゾンビもわかるんですが、今となってはもう時代遅れな感じがしてしまうんです。だからもう、ロメロって人はほとんど、お師匠的立場になっていると思うんです。歌で言うと、演歌界の大御所とか、もしくは矢沢永吉とかって、曲の斬新さやクオリティで褒められているんじゃなくて、「よっ、待ってました!」みたいな感じで、「とりあえず来てもらったことがあっぱれ」なんです。ロメロ監督にしてもそうだと思う。次はどんな表現で魅せてくれるのかという、多くの映画監督に対する期待とは違う。ロメロ先生が撮ったらしいからとりあえず行っておかなきゃ、という感じだと思う。宮崎駿の『ポニョ』みたいなものです。

 最新作を観ていないのでまだ言い切ることはできないんですが、ロメロゾンビはエドガー・ライトの『ショーン・オブ・ザ・デッド』で終止符を打たれたんじゃないかと思います。あの映画では、ロメロの紋切り型ゾンビを笑いに変えた。市街地をうろつくゾンビの間を、主人公たちがゾンビのふりをして乗り切るという、最高のアイロニーを決めた。あの時点で、古いロメロゾンビは、もう役割を終えているように思うんです。それでも紋切り型を愛するなら、別ですけど。

 さて、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』ですが、ことほどさようにロメロ師匠は自分の造形したゾンビを頑なに守り続ける。これを潔いと観るのが不変を尊ぶロメロファン。そうでないぼくは、つまらなく感じる。なぜロメロはゾンビに工夫を凝らそうとしないのでしょう。たとえばテレビゲームの『SIREN』に出てくるゾンビ(屍人)は、生きていた頃の記憶に基づいて、仕事をしていたりするんです。料理人だったゾンビは朦朧とした手つきで包丁を動かしていたり、警官だったゾンビは人間を犯人だと思って追いかけてきたり、子供のゾンビが家の中で勉強の真似をしていたりする。そういうところで、うわあ、生きていた人間がこうなってしまったのかあという生々しさが演出される。ロメロに限らず映画ではそういう工夫っていくらでも凝らせる。仕事をしているようだから話しかけてみたらゾンビだったとか、そういう驚きはいくらでもできる。でもそういうことはしない。
それにロメロのゾンビはくさそうじゃない。死んでいるのだから腐敗臭が漂っていてよさそうなのにそういうのはない。ゾンビに限らず映画では散々クリーチャー表現が生まれてきたのだから、それらを参考にすればいいのに、いつまでもお決まりのメイクでとろとろ歩かせているだけ。

 『ランド・オブ・ザ・デッド』はまだ、おっと思わせるところがありました。黒人のゾンビが銃を持ち、人間の世界に攻め入ってやろうとするところはそれまでのロメロゾンビにはなかった。でも、今回はその辺の工夫もない。またも逆戻りのクラシック。

『ダイアリー~』の特色は、『食人族』『ブレアウィッチ・プロジェクト』よろしきハンディカムスタイルなんですが、疑似ドキュメンタリー的な質感は皆無。普通のカメラで撮っているのと同じ映像感だから、手持ち独特の荒さもない。この映画が今までと最も違うのはそこであるはずなのに、そのハンディカムスタイルのうまみを何も活かせていない。というか、前々から思っていたのですが、ロメロという人はそれほど映像作家としては優れていない。この人の功績はその意味で、あのゾンビ像をつくったというその一点に尽きるように思うのです。その財産でずっと食っている感じがする。これなら『REC』のほうが全然マシ。

 エドガー・ライトとかロブ・ゾンビとか、あるいは日本なら白石晃士とか、2000年代に入ってからスプラッタ表現、ダーク表現の担い手がどんどん出てきています。最新作を観ようか観るまでもないか迷い始めているのですが、ロメロももはや70歳で、斬新な表現を期待するぼくのほうがきっと間違っているんでしょう。金曜ロードショーのスティーブン・セガールを観るような気分で、「いつものやつ」を期待すればいいわけです。
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by karasmoker | 2010-06-28 02:02 | 洋画 | Comments(0)
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