『ジャガーノート』 リチャード・レスター 1974

サスペンスとしてはあまりにも脇が甘い。
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TSUTAYAの「100人の映画通が選んだ本当に面白い映画」というキャンペーンで、一押し作になっていたので、借りてみたというわけで。

 『ジャガーノート』の「ノート」は"naut"=「航行する人」という意味で、豪華客船が舞台のパニック映画です。豪華客船に爆弾が仕掛けられ、その解除に乗り出した爆発物処理班の活躍、特に主演のリチャード・ハリスの活躍が描かれます。

 この1974年にはあの『タワーリング・インフェルノ』が公開されています。どちらも緊迫した状況下の人々の動きを描いていますが、この種の話はやはりハリウッドが強い。『ジャガーノート』の製作国はイギリスですが、イギリス的なお上品さと地味さゆえに、『タワーリング~』あるいは『ポセイドン・アドベンチャー』級の傑作を期待すると、ちょっと物足りないです。

 この映画はいわゆる「赤か、青か」型の爆弾解除サスペンスの嚆矢と言われているようです。ありますよね、爆弾の解除作業で、最後の最後にどちらか一本のコードを切るっていう。『古畑任三郎』のキムタクの回は、この映画のラストを丸パクリ、もう完全にパクっています。爆弾解除サスペンスのハラハラはしかし、どうしても弱点があって、それは「主人公は少なくともラストまでは死なない」ということです。主人公が死ぬと話が終わるので、結果はわかっているわけです。
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 もちろん、どんな種類のサスペンスであっても、この形式に縛られるものです。中盤で主人公が窮地に陥っても、どのみち助かるだろうってことは、観客は予想しているし、作り手もそこを裏切るわけにはいかない。その部分で驚きをつくるのは至難です。だからこそ、作劇は結果をどうするかではなく、過程をどう描くかによって差異、個性が生まれるのであり、ではこの『ジャガーノート』の場合はどうかといえば、やっぱりちょっと地味すぎる。

リチャード・ハリス演じる主人公ファロンはね、どうしたってそんな派手な動きはできないんですよ、だって黙々と爆弾を解除するしかないですから。そこは仕方ない。だったらどこで映画を盛り上げるかと考えたときに、乗客の動きが大事になるわけです。というか、豪華客船で1200人の乗客が乗っているとなれば、彼らを有効に使わない手はない。ところがこの映画はその乗客の動きにまるで意識を払っていないんです。

 顕著なのはあのガキです。一人のガキが船内をうろうろし始めて、乗客が入ってはいけないところに入って、そのせいでアル・パチーノみたいな髪型の一生懸命な船員が一人死ぬんです。しかもそいつの死が以後一切悼まれることがないばかりか、このガキは仮装パーティで楽しげにわいわいやっているのです。
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 あのー、ごく当たり前のことですけど、こういう映画ってのは、登場人物に助かってほしいと思えなければ、観ていて何のハラハラもないんですよ。乗客の命はどうなるんだ、ああ、また爆発だ、ハラハラとなって、映画を楽しむわけです。ところがこんな風に無反省なガキにわいわいやられたら、ちっとも助かってほしいと思えない。むしろどうぞ死んでくれとさえ思う羽目になります。仮装パーティが船内で開かれるシーンがあるんですが、一応乗客の憂い顔は映すんですよ。楽しげな格好をしていてもふと映る表情は心配そうな面持ちだったりするんです。でも、あくまでそれだけ。心配そうな顔をするだけ。どうなっているんだ、大丈夫なのかよ! と激高する乗客も出てこないし、『ポセイドン・アドベンチャー』におけるアーネスト・ボーグナインみたいないい感じの邪魔キャラも出てこない。途中、三回くらい爆発が起こるんです。そこを活かせばいいのに。一回目の爆発がそこそこの規模なんだからそこで不穏な噂が広まって、後の爆発で船体を大きく揺らして乗客の不安をさらに高めてってやればいいのに。ぜんぜん乗客の不安さが伝わってこないんです。処理班が船に乗り込むくだりを乗客は見ているはずなのに、それも何も活かされない。クライマックス感も高まらないわけです。
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 犯人が自らを「ジャガーノート」と名乗って接触してくるんです。このファースト・コンタクトは結構いいんです。不気味な存在というのが出ていて。でもねえ、犯人像も別に何も面白くないし。ものすごい拍子抜けです。別にいいんです。どうやってあんなに大量の爆弾を仕掛けたんだとか、あんなドラム缶に入れた爆弾を客船にどうやって運び込んだんだとか、そういうのはどうでもいい。そこは笑ってスルーできる。でもねえ、犯人がぜんぜん面白くないんです。誰やねんみたいなじじいだし。犯行の動機もよく思い出せないっす。爆発まであと数分しかないぞ! というタイムリミット感も、はっきり言いますが、ゼロです。早くしないと時間がない! は映画的に絶対使えるのに。というかもう、そこに頼るべきでしょう、この映画の作りなら。

 船外の政府関係者、軍関係者みたいなのも、なんか無気力。船長も無気力。ただ一人、爆弾解除のリチャード・ハリスだけが頑張っていたような映画です。『タワーリング~』や『ポセイドン~』のような興奮を期待したのですが、大きく外れました。TSUTAYAは面白くなければ返金! というのですが、ディスカスの場合は適用外でしょう。無念。
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by karasmoker | 2010-08-16 00:46 | 洋画 | Comments(0)
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