『奇人たちの晩餐会』 フランシス・ヴェベール 1998

コメディに必要なものが決定的に欠けているんです。
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 ずっと観たいと思っていたけどなかなかレンタルもできず何年も経っていて、水曜日にふとツタヤの棚で発見。これぞレンタルビデオ店の快楽。

 奇人たちが集まって晩餐会をするのかな、どんな奇人ぶりが観られるのかしらん、と期待して観ましたが、これはあまり面白くありませんでした。一部でカルト的人気を博しているようではありますけども、この手のコメディならば三谷幸喜のほうがずっとずっと面白い、少なくともぼくにとっては。これを褒める人はきっととってもオシャレでしょうね。なんか、程よい冗談とかすごく上手いのでしょう。料理に例えるとコンソメです。薄味でお上品で、カレーやシチューを愛してやまぬぼくのような下郎の口には合いませんでした。

「奇人」として出てくるのはジャック・ヴィルレ扮するピニョンというおっさんで、彼があるとき、晩餐会に招待されます。その晩餐会というのが「馬鹿な人を馬鹿にして楽しむ晩餐会」らしく、このピニョンはその馬鹿、奇人として格好だと思われたわけです。

 ではどうしてピニョンは馬鹿だと思われたのか、というと、この理由がまずコンソメです。薄いです。招待者がピニョンに目をつけたのは、彼が「マッチ棒で世界の建築物の模型をつくっている」「その趣味について熱く語る」男だったからなのです。この様子を見て、「すごい馬鹿がいるぞ」という話になって、ピニョンは招待されるのです。
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 何ですかそれは。ここがなんだかとっても薄いです。というか、ぼくにはこのピニョンの趣味がすごいもののように思えたのです。だってすごいじゃないですか。マッチ棒でエッフェル塔をつくったり、ゴールデンゲートブリッジをつくったりなんて、すごいじゃないですか。それについて熱く語ったっていいじゃないですか。これをね、馬鹿にして笑うっていうのが、ぼくにはぜんぜん共感できないというか、招待者側の感性がよくわからないんです。というか、この特徴をもって、「彼を馬鹿にする晩餐会」という設定に持っていく作り手の気持ちがわからない。
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 結果的にこの映画、晩餐会への招待客である「奇人」「馬鹿」は、このピニョンしかいないんです。だとするとものすっごく、その奇人としてのパンチは弱いですよ。これね、作り手の感覚が、ぼくからするとすごく遠いんです。奇人の特徴って、何でもいいんです、この映画。別にマッチ棒の建築物は何も活かされないんです。だったらもっと馬鹿っぽい、誰がどう考えてもあほらしい趣味を持たせてもいいのに、「マッチ棒の建築物」では軸がぶれますよ。たとえば誰か知り合いの家に行って、マッチ棒何万本でつくられたエッフェル塔を見つけたら、ぼくは「すごい」と思いますよ。「馬鹿だなこいつ、くくく」とはなりませんよ。もうこの時点でぼくは作り手の感覚をちっとも共有できない。

 ピニョンが舞台となる家に来てからは、そりゃコメディらしいくだりは用意されていますよ。電話のくだりとかね。でも、話の軸がどうでもいいから、コメディにも熱が生まれないんです。

 ピニョンのおっちょこちょいで話がこじれたみたいな部分もあるんだけど、結局彼を招待した家主の話が根本的にどうでもいい。妻が出て行っちゃった、帰ってきてほしいな、あら、愛人に電話しちゃったの、じゃあ愛人が押しかけてくるかも、厄介だな、え、妻を愛人と間違えて追い返しちゃったって! とかその辺の話がメインになりますが、要するに、こちらはこの家主の話に何の興味もないから。ピニョンのすごい趣味を馬鹿にしているような男に何の愛着もないから、ラブアフェアに何の思い入れも抱けない。コメディってね、やっぱり追い詰められてなんぼなんです。追い詰められないと盛り上がらないんです。この場合、ピニョンは何一つ追い詰められていないんです。仮に家主がひどい目に遭っても、ピニョンには何のダメージもないですもん。興味もなくて嫌いな登場人物と、ダメージのない登場人物では、コメディはできないんです、きっと。

 ギャグ演出はいいところもあったけど、「わかってんのかな」と思わされる、かなりまずい場面がありました。とある事情から、ピニョンたちは一人の税務査察員を客人として呼びつけることになります。しかし、この家の家主には納税に関して後ろ暗いところがありました。高価なワインを持っていると知れたらいろいろ嗅ぎ回られるんじゃないかと考えた家主たちは、ワインに酢を入れて振るまい、安ワインしかない家だと思わせようとします。
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 このくだりがギャグとして駄目でしょう。高価なワインの味を台無しにするため、酢を入れます。すると、なぜか味がよくなってしまいます。これじゃ駄目だといってさらに酢を入れると、ピニョンは口を押さえてトイレに走っていくのです。これねえ、なんで一回味がよくなったの? ってのがよくわからないし、ワインに酢を入れたら吐きそうになる、なんてあったりまえのリアクションじゃないですか。一個も笑いが取れないんです。それになぜここでピニョンの変人ぶりを押さないのかと思いました。二人ともまずがっているのに一人けろりとしているでもいいし、ワインに酢を入れて旨いと言い出すので二人が飲んでみたらげろまずだったでもいいし。「一回味が良くなった」のくだりの無意味さがすんごいです。

 なんでこの映画が褒められるのかわからない。面白いコメディなら、日本製でもっともっとたくさんあるじゃないですか。フランス人が褒めているのは向こうの話だから知らないけど、正直薄味過ぎて、ぼくはぜんぜん味わえませんでした。ただ、モテたいなら褒めるといいでしょう。少なくとも『ボラット』とか『恋する幼虫』とか褒めるよりも、確実にモテますから。
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by karasmoker | 2010-11-06 02:36 | 洋画 | Comments(0)
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