『何がジェーンに起ったか?』 ロバート・アルドリッチ 1962

監禁ものの要点を押さえた傑作。 
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 原題『What Ever Happened to Baby Jane?』
 邦題は「起こったか」でなく、「起ったか」。これはなかなかに魅せる逸品でございました。非常にこぢんまりとした話ですが、2時間15分弱、飽くことなく観られました。

 ブランチとジェーンという姉妹がいて、妹のジェーンは天才子役として舞台に立っていました。一人舞台もお手の物、彼女を観るためにたくさんの大人が劇場に詰めかけていました。一方、姉のブランチはというと大変に控えめで、二人は完全に光と影をなしているのでした。
 ところが長い月日が経つと、二人の関係は逆転しました。ブランチは大女優となり、ジェーンはいまやとうに忘れられた存在となりました。やさぐれたジェーンは毎日アルコール漬けの日々を過ごしています。しかし、姉のブランチも決して健康体ではなく、女優業を引退しております。さて、ブランチに何が起ったか? ジェーンに何が起ったか?
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 というに、この二人姉妹は過去に大きな事故を経験しているのでした。そのときの後遺症でブランチは下半身不随。大女優としての活躍も今は昔の話で隠居生活を強いられています。ジェーンはブランチの名声に嫉妬を抱きながらも、事故の責任を強く感じてもおり、一応の介護生活を続けているのでした。
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 基本的に話はずっとこの二人のこと、舞台は二階建てのそれほど大きくもないおうちの中です。通いの家政婦とか隣人がちょいちょい出てきますが、あくまでも脇役で、話は完全にこの二人のもの。二人のおばさんの映画で二時間以上飽かせないというその手腕に惚れ惚れします。

 ジェーンを演じたベティ・デイヴィスの壊れっぷりとブランチ役のジョーン・クロフォードの弱々しさだけでこの映画の魅力は十分ですが、実はとってもテンポがいいんです。過不足のない間というか、乱れのないリズムというか、これだけの話で停滞を感じさせないのはすごいことです。肝心なのは、二人の苦悩だとか懊悩だとかをあまり湿っぽく描いていないことなんですね。それをやるとテンポが死ぬし、このサイズの話でテンポが死んだらそれは映画的に致命傷。出来事を淡々と追っていき、時折ジェーンの怖さを見せる。惨劇の予兆をずっとずっと感じさせる。で、これまた大切なのは、ジェーンからはそれほど暴力のにおいが漂ってこないことで、これにより過剰さがなくなっているのです。
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 カテゴリー的には「監禁もの」に属すと言える本作ですが、「監禁もの」は絶えず暴力の誘惑に駆られるものです。キング原作の『ミザリー』でもケッチャム原作の『隣の家の少女』でも、あるいはあの『グロテスク』でもそうですけど、監禁ものには暴力(あるいはレイプ)がつきものです。暴力は映画の醍醐味であり、暴力的な映画の傑作はむろんたくさんにあるんですけど、暴力映画はひとつの賭けでして、と言いますのも、描かれる暴力描写それ自体に、映画的負荷がかかるわけです。簡単な話、「この映画の暴力描写はすごいぞ」という触れ込みの映画ですと、実際観てみたら「あら、なんてことないじゃん」となる恐れを多分に抱えるのでありまして、なおかつたとえすごい暴力シーンを描いたとしても、その置き所を間違えると後半で拍子抜けることになったりします。

 ベティ・デイヴィスからは暴力のにおいがしません。やさぐれてはいるけど、暴力的ではない。彼女もまた、暴力を自分のものとしていない。その危うさが狂気とないまぜになって描かれています。本当に怖い暴力は、暴力を身につけた人間のそれではなく、暴力を持たない者にこそ宿るのです。やくざが刃物を持っている画よりも、物静かなおばさんの持つ包丁のほうが怖かったりするわけです。そして彼女がかつて在りし日、子役スター時代を懐かしんでかすれ声で歌うほうがずっと怖かったりするわけです。だからこそ、無様に蹴りつける場面が生々しく迫ってくるのです。ジェーンがブランチに対して抱えている思いみたいなもんも、監禁ものたる本作を一層豊かに見せています。
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ブランチの弱々しさもまた素晴らしいのです。本当に好対照でした。彼女の怯えが、ブランチの迫力をさらに大きくするのです。ブランチは車いすでありながら二階の部屋を与えられています。介護的観点から言えば100パーセント間違いというものです。でも、だからこそあの階段を懸命に下りようとする場面だけで大冒険のように見えてくる。監禁ものの正否はおそらく、いかに小さな空間をいかに苦難の道に見せているか。この映画は、その勝負に見事な勝利を収めているのです。
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それがあるから余計にあのラストの浜辺が利いてくる。あのラストはいいですねえ。ぶっ壊れジェーンのアイスクリームステップは、朝焼けのレザーフェイス級と言えましょう。このときのジェーンは、なぜかとても可愛らしいのです。また、ラストの「あれ」については、他言無用ですね。
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 50年前の小さな作品ですが、監禁ものの要点をばっちり押さえた傑作であります。ちなみに、本作は和田アキ子のベストワン映画らしいです。
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by karasmoker | 2011-05-17 01:37 | 洋画 | Comments(0)
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