『銀河ヒッチハイク・ガイド』 ガース・ジェニングス 2005

笑いと荒唐無稽さを組み合わせ、「何やねん」を好意的に突っ込ませる。
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←リンクして頂いているナイトウミノワさんがベストワンとしている作品です。かなり有名な作品のようですね。SF小説に疎いのでよく知りませんでした。映画好きからはどういう評価を受けているのか、どうも量りにくいですね。秘宝ウケするタイプだろうと思いきや2005年のベストテンには入っていないし。『ギャラクシー・クエスト』をべた褒めした秘宝系であれば十分気にいると思うのですが、どうしたことなのでしょう。

 感じとしては『ギャラクシー・クエスト』にかなり似ていたように思います。宇宙に連れ出されていろんな惑星や空間を引っ張り回されて、なおかつギャグもふんだんに取り入れてテンポも小気味よい。観ながらいちばん感じたのはカート・ヴォネガットJrとの類似です。詳しい人からすればぜんぜん違うと思われるかもわかりませんが、ぼくは観ながら「あるいはヴォネガット原作では?」と思ってしまったくらいでした。荒唐無稽な設定をさらっとばしっと提示してくる感じ、「人間はイルカより知性が低いのだよ」とか「地球はバイパス工事でぶっ壊されるのだよ」とか。あとは「究極の問いに対する究極の答え」とかの大げささもヴォネガットっぽいと思ったんですがどうなのでしょう。などと言いつつ長編を何冊か読んだくらいなので、深く突っ込まないでくださいすいません。

 この監督にヴォネガットを映画化してほしいと思いました。ジョージ・ロイ・ヒルみたいなシュールっぽさで推すんじゃなくて、アホ方面、コメディ方面でがんがん攻めてほしいですね。ギャグ演出がとても面白かったし、ビジョンも豊かだった。監督は他の長編としては『リトル・ランボーズ』を撮っているくらいのようなんですが、もっともっとオファーが来てもいいのじゃないでしょうか、どうなっているのでしょうか。

 アメリカ・イギリスの合作映画のようなんですけど、両方のいいところがしっかり組み合わさっているなと思いました。アメリカの良さで言えばやっぱりハリウッド的な、わかりやすい娯楽映画としての面白さ。イギリスの良さで言えばアメリカに比しての芸の細かさ、こぢんまり感です。アメリカはさすがに広い国ですから、金を掛けるとなるとどうしても大きさ、規模のでかさに走るのであって、それがハリウッド的な面白みでもあるのですけれども、この映画はその一方で、地味さも活かしている。設定説明もアニメでコミカルに処理したりして、テンポにも十分な配慮がある。登場人物が人形になっちゃう場面とかも挟み込み、とても愉快でした。
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 全編にわたってキュートなんですけども、わかりやすいキュートキャラクターとしてはあのマーヴィンというロボットですね。頭がでかくてマスコット的だし、あの置き方は面白いです。基本的に何にもしないんです。他の登場人物たちがあれこれ喋っているときも蚊帳の外で、ぼーっと突っ立っていたり部屋の中をうろうろしていたりする。あの辺のさじ加減は大事です。この映画のよさを一個示しているなとも思うんです。あのマーヴィンをどう描くかって、かなり監督によって変わってくると思いますよ。場合によってはもっと無機質な機械キャラにして存在感を消すことも、あるいは際だたせることもできるんですけど、丁度いい。何しろ「うろうろしている」。無目的にうろうろしているロボットって何やねん。ここに無類の面白さ、キュートさがありました。

 バカSFなんて呼び方もあるようなんですけど、やっぱりね、笑いでいうところの「なんでやねん」「どないやねん」「何やねん」を好意的に呟かせたら映画は勝ちですね。そうじゃない映画っていうのは、その呟きが好意的になれないんです。この映画はいい感じでこっちに突っ込ませるんです。結構芸が細かい。
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 細かいところで好きなのはあのカニのくだりです。ギャグ演出をばらすのも無粋ですから言いませんけど、主人公一味が降り立つときのカニが面白い。あれって別になくてもいいんですよ。あのカニは単にその存在を示すだけでも事足りる。でも、あえてああやって見せることで、尺にも影響しないギャグが一個できる。ああいう細かさがあると愛しじろがいっぱい生まれます。
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 どんな話なのだ、というのをすっかりすっ飛ばして話していることにいまさら気づくのがぼくなのですが、要するに地球がぶっ壊れて主人公が宇宙に飛ばされてあちらこちらに連れ回される話です。SFというくくりですけど、むしろファンタジーっぽいなとも思いました。そもそもジャンルってもの自体が何なのかということですけど、宇宙船とか異星人っていう設定こそSFなれど、異世界冒険譚の風合いとしてはファンタジーに近いんじゃないでしょうか。SFという呼び方よりも、ぼくとしては宇宙を舞台にしたファンタジーっていうほうがしっくり来ますね。SFファンタジーというのは用語としてどうなるのかわかりませんが、そういう呼び方がいちばんしっくり来ます。まあ、その辺の議論を詳しくふっかけられるとぐうの音も出ないんですけれど。
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 役者で言うとこのブログでは『(500)日のサマー』で出てきたズーイー・デシャネルがいちばん印象的でした。『ギャラクシークエスト』のシガニー・ウィーバーもそうですけど、女性キャラとしてはザ・美人を置くよりも、ちょっと個性的かつ平凡さも備えている人のほうがうまくはまったりしますね。描かれる世界が大きいので、そこに振り回されてしまう存在感の弱さが必要で、ズーイー・デシャネルはその点でグンバツの良さがありました。なおかつ、ちょいとそそるという。
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 原作とかテレビ版は知らないけど、こと映画に関して言うなら、話の構成としてはね、まず最初に地球がぶっ壊れてしまうんですよ。ここで一度、大きく切れますよね。地球がぶっ壊れるらしいぞ、なんとかしないと、じゃなくて、最初に地球は壊れてしまう。こうなると話の推進力は弱くなるんです。実際、主人公は自分の意思と無関係にあちらこちらに振り回されることになるし、小説ならばまだしも、映画という語り方ではここは結構リスキーです。乗れなかった人がいるとしたら、そこもあると思いますね。ぼくが乗れたのはやっぱりテンポとギャグが大きかった。ほとんど暴力的に連れて行かれた、という意味で、主人公と同期できました。最後はこれまた暴力的な落とし前がつくんですけど、この映画は宇宙で大冒険をさせて、こっちの許容度をぐっと広げているので、まあよいかな、と思うことができます。画づくりの面白さもあります。終盤で主人公が家に帰ったときの食事シーン。あの空間のブリンブリン具合。なおかつマーヴィンの活躍。見せるところをばっちり見せているため、細かいことは言いっこなし、と言える。
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 笑いってのはこっちの許容度を上げますね。マーヴィンの最後のくだりも、物語的に言えば「んなアホな」です。でも、繰り返しになるけれど、その「んなアホな」を好意的に呟かせることで、不条理はギャグとして昇華される。勢いの勝利という意味では『第9地区』にも通じます。細かい小ネタを知るともっと高密度に楽しめるのでしょうね。荒唐無稽さ、宇宙のビジョンを笑いと巧みに組み合わせた一級の作品として、お薦めしたいと思います。
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by karasmoker | 2011-06-27 22:31 | 洋画 | Comments(0)
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