『ヒート』 マイケル・マン 1995

 これが、ありがたがるべき「共演」? それはむしろこの二人に失礼です。
d0151584_3272276.jpg

アル・パチーノが出てくる映画でいちばん好きなのは『スカーフェイス』で、それから『セルピコ』に『狼たちの午後』、ロバート・デ・ニーロといったらベタですけどやっぱり『タクシードライバー』、それと『キング・オブ・コメディ』(『レイジング・ブル』や『グッド・フェローズ』にはあまり感応できず)。この二人の存在感が漲っている映画で、観ているだけでドキドキする名優であることは言うまでもなく、そんな二人が三時間近い大作で共演となればこれは「大盛りオムそばカレー・コロッケ乗せ」的な満腹感を得られるんじゃなかろうかと思い、『ヒート』。

 ロバート・デ・ニーロが強盗団の一味で、アル・パチーノはそれを追う刑事役。両者の火花散る追跡劇が繰り広げられるぞ! ということなのでしょうが、これがまたなんともはやなんともはや、なんともはやな始末なのでありました。アマゾンでは絶賛が大勢を占めているんですけど、で、「二大スターの共演に感動」的なレビウが目立つんですけれど、あの、こんな「共演」で満足できるってのは、なかなかになかなかのあれでございますわね。
d0151584_328965.jpg

d0151584_3281941.jpg

 まずね、肝心なことを述べておきたいんですけれども、この二人をきちんと映したツーショットがまったくないのです。そんなもんのどこが共演なのでしょう。二人が絡むシーンはありますよ。もちろんクライマックスはこの二人が担うんですよ。でもね。二人がばっちり映っているカットがひとつたりともないんです。なんざそら。なんでそんなことになるのでしょうか。そこですかしてどうするのでしょうか。
d0151584_3283134.jpg

d0151584_3284161.jpg

岡本喜八の『座頭市と用心棒』というのがありましたね。あれは三船敏郎と勝新太郎の二人がそりゃもうばっちり絡み合っているわけです。差し合っているわけです。そこに若尾文子まで絡んで、なんとも豪華なスリーショットが実現しているのであり、だからこそストーリー自体はあれだとしても、緊張感と高揚感のある作品になっていたのです。ところがこの『ヒート』は、まったく二人の顔を並べようとしない(一応言い添えておくと、「1,5ショット」はワンカットだけあります)。わからない。そのような演出がもたらす正の効果がわからない。いや、終盤まで引っ張っているのかなと思ったんですけど、結局一度も二人の顔は並ばなかった。わからない。なぜそんなことに。

『踊る』シリーズはぜひともこの演出を参考にすべきでしょう。織田裕二と柳葉敏郎の、青島と室井の物語を描くには格好の手立てと言えます。切り返しばっかり繰り返して、二人が一画面でしっかり収まらないんです。豪華感半減もいいところです。これで「大スターの共演」と言って喜んでいるやつが多いというのは本当に解せません。

 はっきり言ってこの映画はそれができていればもう何だっていいのです。多少だらだらしていようが、本筋とあまり関係のないような脇道に話がそれていても、二人がばっちり対峙しているカットがふんだんにあれば、ぼくは何の文句もなく、皆さんと同じように「大スターの共演だ、おなかいっぱい!」と言えたのです。そうじゃないから、いろいろ言いたいことが出てくる羽目になります。
 
 どう考えても二時間五十分を費やす映画ではありません。二時間の中で二人のやりあいをばっちり映せばいいのです。にもかかわらず、これまた無駄な背景をごちょごちょ描き続けます。

アル・パチーノは妻との関係が冷え切っていて、家庭がきちんと機能していない刑事として描かれるんですが、その背景がこの映画全体の中でどう機能するのか、さっぱりぼくにはわからない。アル・パチーノの義理の娘がナタリー・ポートマンで、考えてみればこの二人の共演はまあ豪華とも言えるわけですが、この映画のメインはあくまでVSデ・ニーロであるわけで、そっちをもっと濃厚に描いてくれということなのです。じゃあこの家庭不和な情況がデ・ニーロ追跡に関連しているのかといえばその点はさっぱりであって、もう本当にこの設定を施した意味がわからない。刑事ものですよ、追跡ものですよ、いいんですよ家庭なんかどうだって。何を見せたいねん。たとえばね、これね、義理の娘って設定でしょ、ナタリーちゃんは。だったらさあ、たとえば実はデ・ニーロが実の父親だったみたいなのを放り込んでもいいんじゃないですかね。別にその設定を物語の中で活かせとは言わないけど、そういうのをちょろっと放り込むだけでも、この二人の物語に深みが出るじゃないですか。そういうのもないんです。
d0151584_329334.jpg

 で、パチーノ側の私生活を描いた以上はデ・ニーロも描いておかないと、と作り手が気を遣ったのか知らないけど、これまたデ・ニーロのほうも緩いラブロマンス的な設定を設ける。夜景を眺めるシーンのCGくささ。あれは実景なんですか? なんか『コンタクト』の終盤みたいなCGらしさがあるんです。で、デ・ニーロと女のそのシーンもなんかウイスキーのCMか何かみたいです。
d0151584_3291649.jpg

 メインの追走譚とは別の背景をこれだけ描きながらも、かつてこの二人が演じてきた人物よりもはるかにうっすいんです。かつてのトニー・モンタナ、セルピコが、かつてのトラヴィス・ビックルが、ロバート・パプキンが、あんなにもすかすかな人間になってしまうなんて、むしろ観ていて辛いくらいです。これを「大スターの共演だ」と言ってありがたがっている人たちは、もちろんかつての映画における彼らを、知っているわけですよね?
 
 銀行強盗のくだりの銃撃シーンはよかったです。あれは確かに迫力があった。でもね、全体を通して観れば、この長くてだらだらした映画の中だから光っているって部分も大きいんです。全体が秀逸で、その中でもさらに際だって秀逸だというのではぜんぜんないです。ずっと白米ばっかり喰わされてきたから、味の濃いおかずとして余計にありがたい感じがするわけです。
d0151584_3292781.jpg

 っていうか、むしろこの二人の活かし方は、銃撃戦じゃないでしょう。もっと狭い空間で、この二人がうろうろしたり走り回ったりするのが魅力なのです。だからこの映画でいちばんいいのは、デ・ニーロがホテルに乗り込む場面ですよ。かつてトラヴィスが見せた安宿襲撃には及ばぬとしても、仇を討ちに行くあの場面はドキドキがありました。ああいうのを放り込んでほしいんですよ。
d0151584_329366.jpg

 でねえ、どうも駄目な邦画みたいな場面もあるんですねえ。デ・ニーロたちがね、夜の金庫を掘りに行く場面があるんです。で、それをアル・パチーノら刑事たちが張り込んでいて、犯行に及ぶのを見届けた上で逮捕しようと目論むわけです。でね、デ・ニーロが刑事の存在に気づいてしまうんですよ。どうして気づいてしまったかというと、一言で言ったら、「駄目な邦画か!」と言いたくなるような顛末なんです。あれってもっと気の利いた方法ないのかなあと思う。普通なら気づかないような細かいことにデ・ニーロが気づいて、「お、さすがプロの強盗だ」と思わせるようなやり方ないのかなあ。その後の対処のなさも含め、すっごくださく見える。で、またも長さが足される。

『ゴッド・ファーザー・パート2』は時間軸も違うし一切絡みはないけれど、それでもあの二人がそれぞれの立場、役柄でしっかり立っていたからいいわけです。ところが今回はもう絡んでいるのに絡んでいるんだかどうだかってな有様でした。ラストの追走シーンではさすがにツーショットがおがめるんだろうと思いきや、あんなのボディ・ダブルで十分なのであって、それじゃあもうやっぱり端からツーショットの見込みのない『ゴッド・ファーザー2』のほうがよほどいい。「大盛りオムそばカレー・コロッケ乗せ」と行かずとも、「カレーうどん」でよかったのに、何でしょう、この「生ハムメロン」的な感じは。生ハムの活きる料理はもっとある! メロンを活かしたデザートはもっとある! なんだこの調理は! と思わされる一品でございました。
[PR]
by karasmoker | 2011-09-09 21:00 | 洋画 | Comments(8)
Commented by 井上Luwak at 2011-09-10 17:58 x
初めまして。
こちらのブログ拝見されてもらいました。ベストリストの中に『何がジェーンに起ったか』があり、見てみたら大変面白かったんで感動致しました。ありがとうございます。
『ヒート』はツタヤの発掘良品にあったので見ましたが、やっぱ同じ感想ですね~。長いし全体的にタルい感じ。
市街戦のシーンはよかったですけど、冷静に考えると今までが退屈すぎたのかな~という印象。
二大スター共演ってので監督さんも大変だったでしょうね;
Commented by karasmoker at 2011-09-10 23:55
 コメントありがとうございます。
 『何が~』と『ヒート』は二大スターの共演作として共通していますが、一方はごく小規模な舞台での女の静かなやりとり、他方は銃声轟かせ街中を走り回る男たちの話。その点で好対照です。
 この二作は比較して観るうえで、絶好の二品と言えるかもしれませんね。
Commented by bang_x3 at 2011-09-11 22:51 x
まいどどうもです。
この映画、僕にとっては「デ・ニーロと豪華共演陣」なのでそこの所に不満は無かったですね。でも二大スターのワンショットが無いというのは当時から指摘されてまして、実は別撮りなんじゃないかとも言われてました。わざわざDVDの特典で違うよ!って証明してましたね。
僕がこの映画が大好きなのはとにかくかっこいいから!無駄だろうが長かろうが3時間近い上映時間があっという間に感じるくらい全てがかっちょいい!
といった具合なのでいかんともしがたい感じです^^;

ともあれ、なるほどな~と拝読させてもらいましたー。今後ともよろしくです!
Commented by karasmoker at 2011-09-11 23:38
 コメントありがとうございます。
>僕がこの映画が大好きなのはとにかくかっこいいから!無駄だろうが長かろうが3時間近い上映時間があっという間に感じるくらい全てがかっちょいい!

 これぞまさに"The movie is yours."です。誰になんと言われようが自分は格好いいと感じるんだ! っていうのは映画を観る醍醐味のひとつですからね。こちらこそ今後ともよろしくお頼み申します。
Commented by at 2013-03-24 00:13 x
はじめまして。この映画が好きなのでコメントさせて頂きます。
最初見たとき(多分、高校生ぐらい)は銀行強盗と刑事の映画だぐらいに見てましたが、最近見直して名作だと気づきました。

これはオヤジのボーイ・ミーツ・ボーイ映画ですよ。超ハードボイルドなロミオとジュリエットあるいは、攻殻機動隊の少佐と人形遣いみたいな関係を描いてます。
アルパチーノがデニーロをコーヒーに誘うとこなんか完全にデートじゃないですか。
アルパチーノの家庭が上手く行ってないとことか、デニーロが独り身でいるとことかこの二人よく似てませんか。鏡を挟んで向かい合う実体と虚像とか言う感じですね。そんな仕事以外できない孤独な二人の男が敵同士として出会う。叶わぬ恋。それをアルパーチノとデニーロが演じているってもう最高でしょ!
こんな見方ってどうですか?
Commented by karasmoker at 2013-03-24 01:03
コメントありがとうございます。とてもよい見方であるなあと思います。見直したら名作だなあと気づくかもしれませんね。
Commented by ああ at 2017-07-17 14:49 x
あなたの感想を読んだ感想はわかってねぇなぁ。ですね。

何故アルパチーノの家庭不和を描いたかわからないならもっと映画を見るか本を読むことをお勧めします。
Commented by ああ at 2017-07-17 14:49 x
あなたの感想を読んだ感想はわかってねぇなぁ。ですね。

何故アルパチーノの家庭不和を描いたかわからないならもっと映画を見るか本を読むことをお勧めします。
←menu