『MON-ZEN』 ドーリス・デリエ 2000

 ソフィアにできなかったことを、真っ当にやりのけている。
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皇帝ペンギン飼育係さんからリクエストいただきました。ありがとうございました。

 観る前の、パッケージからの印象だけで言うと、正直つまらなそうだなと思っていたんです。タイトルからの印象と相まって、「ドイツ人が日本にやってきて寺で座禅組んだりするコメディかな。興味ないな」と思い、あまり期待していなかったんです(リクエストしてもらったのにすみません)。

 ところが、これがなかなか面白い。中盤は大笑いして観ました。そして、果たしてこれをソフィア・コッポラは観ていただろうか? とも考えました。ソフィア・コッポラは2003年に『ロスト・イン・トランスレーション』を公開して、日本でもおそらくは「アメリ層」(造語。『アメリ』に食いつくなど、ちょいとマイナーでオシャレげな映画を観てはしゃぐ人)を中心にヒットしました。しかし、ぼくにはあの映画がやろうとしていることが不十分だと思えてならなかった。『MON-ZEN』はそこを真っ当にクリアしていた。その画を観られただけでも満足でありました。

 主人公はドイツ人の兄弟です。弟は禅に興味を持って、日本の禅寺へと修行に出ようとします。といっても別に仏門に入るわけではなく、数日間の体験旅行みたいな感じです。その折、兄は妻から離婚を申し渡され、子供ともども出て行ってしまい、失意のどん底に落ちてしまいます。だったら一緒にお寺に行こう、気分がすっとするはずだってわけで、二人の日本への旅が始まるのです。
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 最初のうちはね、大丈夫かなこの映画と思っていたんです。35mmフィルムの画質でもないわりに、劇映画ともドキュメンタリーともつかないタッチ、照明も不十分な映像で、これはどういうことになるのかと思ったんですが、それもまた吉と出ました。ハンディカムで捉えられたこの映像の風合いが、うまく日本の異質さを醸していたんです。
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 二人は東京に出るんですが、言葉も通じず、ホテルにも帰れなくなってうろうろします。さまよい歩くのです。そのときに映される、1999年当時の日本の姿は実に面白い。これがソフィア・コッポラにはできなかったことです。ソフィアも日本の異質さを切り取ろうとしていましたが、彼女は何を思ったか、日本の実像をねじまげてしまっていた。アメリカ人二人の孤独感を現そうとするあまりに、日本をいびつな場所に変えていた。外国人が見た日本を率直に描いて、それで異質さを伝えればいいのに、変に作為を込めすぎていたんです。ところがこっちはというと、ハンディカム映像で、生々しく町並みを切り取っていた。むきだしの、今にしてみれば幾分ださくも見える世紀末の東京が確かにそこにありました。監督のドーリス・デリエという人もソフィア同様に女性らしいのですが、ソフィアは彼女の映画を観なかったはずもないと思うんです。同じようなテーマだし。で、なんで後年にあんな風な日本を「つくった」のかなあと疑問です。
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 まあいいや。で、『MON-ZEN』の優秀はというと、あのドイツ人兄弟に入れ込んで観るようにきちんと仕向け、日本の異質さを日本人にも体感させるところです。ここではハンディカムの映像がばっちり機能していた。ドキュメンタリー的な画として映ってきます。彼らが困っているところを映して、日本を異化して見せてくる。「なんだよ、なんで通じないんだ!」と彼らと一緒に思ってしまう。日本人がカメラのほうを向いて、言葉がわからず困った顔を見せる。すると、日本人が異質なものとして見えてくる。ドイツ人兄弟に肩入れしてこちらまで不安になってしまう。これだよ、これなんだよソフィア! あなたのデフォルメは不要だったんだ!
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 で、ちょいちょい面白ポイントがあるんですけど、この兄弟がどうも手癖が悪い。金がなくなっちゃったからと言って、食い逃げしたりするんです。しかもそのときの映し方も面白い。そのときは変にカメラで追ったりせず、固定して撮っている。そのときは彼を突き放しているから、彼の孤独さ、無様さが浮き立ってくる。寿司をもしゃもしゃ食うのもいい。あと、空き地でテント張って寝たりしているし。あの情けない感じも面白い。
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 歌う場面も面白いですね。金がないからどうしようと思っていると、路上パフォーマーを見つけるんです。で、「こうすると金がもらえるのか」と考えて真似したりする。この辺の可愛らしさもあるんですね。単なるギャグシーンかと思ったけれど、そこから次の展開に行ったりする。ちゃんと理に適っていて、うまい。

 この街のシーンの後は、なんとかかんとか目的地にたどり着きます。石川県にある禅宗・曹洞宗の大本山・門前総持寺という場所だそうです。ここで修行の体験をするのです。
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 この時点で残り時間が40分以上あって、おいおい、どう持たせるんだ? と思った。で、実際やっぱり、街のシーンほどの刺激はないんです。いろいろ修行の風景は映るんですけどね、街ほどは面白くなかった、というのがぼくの感想です。でも、これはこれで偉いなと思う。というのも、これはドイツ人に対してだけではなく、日本人にとっても異質なものだからです。寺の生活の細かい部分とかは日本人のぼくでもわからないところでしたから、今までの街のシーンとは違う見せ方が日本人に対してもできているわけです。
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 事件が起こったりするような映画ではなくて、ずっと寺での生活を映しているので、そこはちょっと退屈もありました。坊さんと談笑するシーンがあるんですが、ああいうのをもっと放り込んでほしかったですね。基本的には二人で喋っているだけだったので。
 でも、彼らはお寺でちゃんと学びを得るんです。仏教の難しい話とかじゃなくて、万人に理解できるようなことで、お寺で学んだ甲斐があるな、というのが伝わってくる。多少通訳の難しそうなこともばっちり伝わっているので、どうやって理解したのだ? とは疑問ですが、まあそこはいいでしょう。
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 これね、お寺の体験レポートみたいなのって、テレビでもやりそうなことなんですよ。でも、テレビだとどうしてもナレーションをつけたり演出過剰になりがちでしょう? この映画はその辺はまったくうるさくないから、落ち着いて観ていることができます。退屈さを感じたのは、ぼくの感受性のなさゆえだったかもしれないとも、わりと積極的に思う。

 で、ラストシーン。これはなかなかね、味わいがあるというか、この二人がキュートに見えてきますね。『ロスト・イン・トランスレーション』の二人には、「早く帰れ。抱き合って泣くのはそれからにしろ」と思ったのですが、こちらの二人には「また日本に来ておくれよ!」と素直に思える。面白い映画でした。amazonでは出品者商品だし、店舗にも置いているところは少ないでしょう。discasで借りられますので、観てみるといいんじゃないでしょうか。
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by karasmoker | 2011-09-07 21:00 | 洋画 | Comments(2)
Commented by 皇帝ペンギン飼育係 at 2011-09-07 23:04 x
リクエストに応えていただきありがとうございます。東京を出た後はほとんど寺の中でお話が進んでいくので、石川県出身の僕としてはもう少し地元の街並みを映してほしいところでしたがまあ仕方ないことです。
Commented by karasmoker at 2011-09-08 06:31
コメントありがとうございます。東京の猥雑な繁華街と静謐な寺院の対比に着眼していたわけですからね。
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