『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団』 エドガー・ライト 2010

この映画をゲームのキャラでたとえれば、攻撃力に偏りすぎたパラメータ。
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K次郎さんよりリクエストいただきました。どうもありがとうございました。

 原題『Scott Pilgrim vs. the World』
エドガー・ライトの『ホットファズ』も『ショーン・オブ・ザ・デッド』も傑作だったので、この監督は凄いぞと思っていたら意外とこの映画についてはそうでもないような声も聞かれつつ、さてどうなんだろうと思って、『スコット・ピルグリム』。

 主人公のスコット少年は売れないバンドのメンバーです。中国系の女子高生と付き合っています。あるとき、ラモーナという女の子に出会って胸がときめき、彼女と付き合いたいなと考え始めます。すると「邪悪な元カレ軍団」の刺客が続々と襲ってきて、ラモーナと付き合うには彼らを倒さねばならないのだ、とこういう話になっていきます。
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 テレビゲームからの引用がたくさんあります。効果音だったりBGMだったり、それから敵との戦闘シーンそのものだったりね。あとはコミック原作なのを丸出しにして、音を文字化してみたり、コマを割ったりしています。小ネタのギミック、ちょいとした仕掛けをぽいぽい放り込んで、アトラクション性を高める映画は好きなほうです。攻める姿勢は大事なことだと思います。
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この映画はとにかく攻めています。何しろ敵を倒した後、ドラクエがそうであるように、敵の姿は消滅してコインだけが残るのです。敵というのは「元カレ」のはずなのですが、人間性は最初から消失していて、怪人みたいです。いや、怪人そのものと言ってもいいでしょう。七人いるという元カレを倒していくことが、この映画の基本線です。まあ、邦題タイトルの時点でわかりますけれど。
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とにかく攻めている本作ですが、では防御のほうはどうなのか。武器はいっぱい持っている。なるほど、では防具はどうなのか。ここですね、ここをどう観るか。映画自体が放ってくる攻撃に圧倒されることができたなら、そこには意識が働かないでしょう。わーい、楽しい映画だなあ、わっはっは、と言えましょう。でも、その攻撃を少しでもふっと交わしてしまうと、弱点が見え始める。ここですねえ、うん。

 ぼくね、やっぱりね、強さの説得力が気になる人間なんですよ。っていうか、ゲームをふんだんに取り入れている本作が、そこに意識を向けない理由がよくわからないんです。ぼくもゲームは好きですよ。でもさ、ゲーム好きなら、みーんな気になると思うんですけどね、「最初から強いって、どうなの?」ってことが。っていうか、それじゃあゲームをプレイする醍醐味って、なくなっちゃうんじゃないの? 
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 スコットくんは最初からめっちゃ強いんです。バンド演奏中に敵がいきなり、本当にいきなりやってくる。するとスコットくんはよし来たとばかりに戦い始めて、それもかなりの格闘を見せてくる。あの、えっと、この映画に乗れた人って、もしかしてものすんごいノリがいい人じゃないですか? あるいは非常に臨機応変な人格を持っておられます? 置いていかれません? 

あの、基本的にこの映画はずっと戦いの連続なんですよ。だったら、強くなっていく快楽をどうして取り入れないのでしょうか。最初は戸惑いながら戦って、へなちょこな戦いでもいいのに、それをなんとかかんとか切り抜けていけば感情移入できるのに、最初から強くてやっつけちゃうんだからもう、勝手にやっていろって話になります。

『エンジェルウォーズ』と類似点が指摘されたりしているんじゃないですかね。おんなじような展開です。だからあれが好きな人はこれも好きでしょう。いや、あれのほうがまだ物語に対しての防御線を張っていた。それなりに仕掛けていた。今回はその辺はどうでもいいみたいでした。『ホットファズ』であんなによくできた脚本を書いた、エドガー・ライトだっていうのに。

 あとねえ、ぼくはこういう格闘系アクションものを観ると、どうしても『チョコレートファイター』と比較してしまうんです。ぼくのゼロ年代ベスト10のひとつですが、やっぱりあの映画は本気で、大怪我さえも覚悟して決死のアクションをしていた。それもリーやチェンのような野郎じゃなくて、ゆるゆるの部屋着を着たアホみたいなジージャー・ヤーニンだから、余計にはらはらした。熱かった。美しかった。素晴らしかった。

 そうなるとね、くりぬきではしゃいでいる格闘をごのごのやられてもね、それはちょっと、です。説得力がないんです。熱くなれないです。二人目の敵と戦うときにね、敵が大量に出てきて、スコットくんは囲まれてぼこぼこにされる。でも、ちょっとフレームから外れた次のショットでは、もう全員倒し終わっている。ちょっと待ってくれよ。応援できないだろうそれじゃあ。本当にもう勝手にやってろの世界なんです。だから監督が見せたいのはこの格闘ですらないんですね。敵が変な感じで、面白い感じで倒されて、コインが出てきたよやったねってことです。
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いやいや、あの一見非人間的とも言える元カレたちはいわばスコットが対峙しなくてはならない彼女の過去、そのメタファなのだ。だからそれぞれの局面で見せ方、戦い方、倒し方も違っているわけで、あの戦いを通して彼女の過去に対面していくのだ。とか、そういうことなのかしら。よっぽど彼女の過去はめっちゃくちゃなんですね。そんなめちゃくちゃな過去の女は嫌になってもよさそうなんですけれど、それでも戦っていくんですね。ぼかあやっぱり、あの中国系の彼女が可哀想だったんです(髪型が変わってなんかブスっぽくなっちゃったけど)。で、この時点であまりスコットに移入できない。そのスコットが勝手にやってろ世界で好き放題に暴れる。うん、わからない。どういう目線で観ればいいのでしょう。

 相手の過去をそれでも受け止めるのだ、というメッセージがあるなら、あんな邪悪な元カレじゃ駄目だし、ただ戦って倒しちゃうってのも駄目でしょう。それはある意味、彼女の過去を否定する振る舞いでもあるじゃないですか。ゲイの友人と同棲しているスコットくんが、レズビアンの過去をぶち倒して終わり? しかもあんな面白くもないギャグで?受け入れていないじゃないですかぜんぜん。受け止める、受け入れるっていうニュアンスは皆無です。だからその部分を弁護できないんです。メタファだっていうなら、あの菜食主義の彼氏については何の象徴なの?
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 これはもうちょっと設定を練り込まなくちゃいけなかったんじゃないでしょうかね。それこそ夢の世界的な方面に逃げてもよかったはずです。まあ原作がそうじゃないなら仕方ないですけど、少なくともアゲアゲシーンだけで乗り切れる映画じゃないでしょう。クライマックスが面白い映画なんて、他にも山ほどあるでしょう。これじゃあせっかくの映像技巧やギミックも、小手先の遊びに見えてくる。
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ゲーム世界的な薄っぺらさを裏打ちする防具がない。騙されてくれる人はある程度いるんでしょうけれど、これじゃあ騙されませんって。騙してほしいのに。これにせよ『エンジェルウォーズ』にせよ、映像技術の発展には素晴らしいものがありますね。これからも表層のギミックだけに特化して、オタク的引用を散りばめて、それで『秘宝』に喜ばれるような映画がたくさん出てくることを予言して、今日は終わりにしましょう。
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by karasmoker | 2011-09-15 21:00 | 洋画 | Comments(4)
Commented by K次郎 at 2011-09-15 22:56 x
おぉ、まさにそうです!
この映画には、何か重大なものが足りないと思ってましたが・・
成長感だったんですよね。
それがあれば相当に格が上がった映画ですよ。
次のエドガー・ライト監督作に期待しましょう!

ホットファズコンビが出演している『ポール』も
ライト監督作ではないですが、凄く面白そうですよー。

マイリクエストの感想を、ありがとうございました!
Commented by karasmoker at 2011-09-16 07:36
コメントありがとうございます。
本作といい『キックアス』といい『ハングオーバー』といい、
近頃の町山さん押し、秘宝押しの作品には警戒が必要だなあとも
思っています。
Commented by pon at 2011-09-16 21:11 x
微妙についてゆけない感のある映画ですね、こちらの齢を感じました。若い時ならおもしろかったかもです。
「ポール」おもしろかったです。英人らしい汚いギャグで笑える人ならば。でも最後の隠しだまは、よけいかも。劇場型のラストはスターウォーズみたいで素敵。
Commented by karasmoker at 2011-09-17 00:36
『ポール』もそのうちに観ることになりそうです。
『スコット・ピルグリム』は世代的なもの以前の、脚本的問題があるように思いますね。
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