『ゴジラvsビオランテ』  大森一樹 1990

誰に、何を見せたい映画なのか。
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 igufotoさんよりリクエストいただきました。どうもありがとうございました。

 長らくこのブログを続けていますが、ゴジラは一度も取り上げていませんでした。ゴジラシリーズは幼い頃に観たきりで、ずっと遠ざかっていましたね。ぼくはウルトラマンや仮面ライダーに魅せられたくちで、ゴジラは正直なところそれほど思い入れがありません。『ビオランテ』は劇場に観に行った覚えがありますが、ワンショットが脳裏に焼き付いていただけで、内容は本当に何も覚えていなかった。で、今にして観るに「そりゃウルトラマンや仮面ライダー、戦隊ヒーローのほうに行くわ」とも思いますね。これは子供を結構無視したつくりというか、子供にはちょいとハードルが高いです。

 だって、最初のほうなんか、英語ばりばりで字幕で進んでいくんですよ。で、話している内容はというと遺伝子がどうのとか細胞がどうのとか、そんなのです。子供に対しての甘やかし感ゼロで進みますね。当時も今もそうでしょうけれど、子供はきっとお父さんやお母さんに、「ねえ、ゴジラはー? いつ出てくるのー?」とたまらず尋ねたのではないでしょうか。もしかすると当時のぼくも言っていたかもしれません。冒頭こそゴジラで始まるにせよ、その後はずっと、おっさん同士の遺伝子とか細胞とか核とかに関する議論だったりしますからね。
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 今のぼくが観ても、途中で思いましたね。ゴジラぜんぜん出てこないなあって。折々に、第一種警戒体制、第二種警戒体制という字幕が入って、だんだんと盛り立てていこうとはしていたんです。でも、そんなの子供はよくわからないですよ。うーん、それともこれはおっさん向け、昔からゴジラを愛でてきたおっさんたちに向けた映画だったんでしょうかね。それにしては設定がずさんだし、どっちを向いているのかよくわからないというのがあります。大人向けだとすると設定がずさん、子供向けだとするとサービスが足りず、なおかつ親切心に乏しい。中学生くらいがターゲットなのでしょうかね。それより下だときついんじゃないかと思います。
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 あれね、第一種警戒体制とかそういうのもありはありですけど、引っ張りの工夫をするならば、ゴジラの鼓動みたいなのを入れ込んでいくとよかったと思うんです。場面転換ごとに、脈絡がなくていいから、どくん、どくん、みたいな音だけのカットを入れてみるとかね。それがだんだん大きくなっていくなんてのもあるでしょうし、もしくは体の断片を随所で映していくなんて方法もあるでしょう。あるいは「このままだとあと何日で目覚めてしまうぞ!」みたいにして、あの『愛のむきだし』における「奇跡まであと○日」のようなカウントダウンを用いてもいい。今観ると、いろいろと改善案が思いついてしまいます。警戒体制なんてのはあくまでおっさん側、自衛隊側の準備の話ですからね。あわわ、ゴジラが来ちゃうぞ、大変だぞと肌身に感じる引っ張りが弱かった気がします。「警戒体制」という単語の意味が、第一、第二の危機的状況の違いがちゃんとわかるくらいの知能が、観客側に要求されていますから、怪獣の話だ、面白そうだと無邪気に思うと、置いてけぼりにされてしまうでしょう。

 うん、子供心のわくわく、はらはらどきどきみたいなもんは、わりとないがしろにされている映画だと思うんです。自衛隊側の、対ゴジラ戦闘機みたいなのがあるんですが、これが造形的に面白くない。いや、現実の自衛隊がつくったら、ああいう戦闘機になるのかもしれない。でも、外連味がないというか、真面目やなあと思いますね。そこはちょっと嘘ついて、いろいろと外面にくっつけてもいいんじゃないかなあ。なんかね、端からゴジラに勝てる気がしないような戦闘機なんです。あれは見かけ倒しでも、見かけを重視してほしかったです。ここもよくわからないんですね。大人は観ながら、映画の展開とかもある程度わかるわけだから、勝てないってことがわかって観ているでしょう。子供は子供で、あんなつまらない見かけのやつじゃあゴジラには勝てないんじゃないかと思ってしまうでしょう。これも、誰に見せたいのかなあ、です。嘘でも、ゴジラをやっつけられるんじゃないかって思わせてほしいんです、そこはもう、嘘でいいから。
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 ビオランテというのは、科学者がゴジラの細胞を利用してつくった植物の怪獣です。もともとは怪獣にするつもりはなくて、なんか突然変異的な感じでそうなっちゃったんですね。このビオランテのショットだけ覚えていたんですけど、あんまりビオランテが前面に出てこないんですね。基本的にはゴジラと自衛隊の戦いです。ビオランテは悪者ではありません。最終的には、破壊者ゴジラをやっつけてくれます。この辺の妙味というのはありますね。見た目はかなり醜悪ではあるんだけれど、細胞の中に沢口靖子が入っていて(なんちゅう説明だ。でもまあそういうことです)、ゴジラを倒してくれる側なんです。
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 最後にやっつけるくだりは結構無理矢理感もあるというか、えらい遠い距離をやってきたものやな、というのはありますが、そこはある程度笑わなくちゃいけないのでしょう。ただ、せっかく中盤で一回がっつりゴジラと絡んだのだから、その細胞が張り付いていたとかにしてもよさそうですけれどね。で、せっかく植物なのだから、ゴジラが突き進む過程でその体から芽を出して、巻き付いていくみたいなのでもよかったはずです。自衛隊が四苦八苦している間に、おい、よく見てみろ、ゴジラの体が変だぞ、植物が生えているみたいだ、とかね。そうすれば沢口靖子のゴジラを引き留めている感がもっと出たのに。そんなのがあると植物の旨味が出たのに。ビオランテを出さずともビオランテが出ている感が出たのに。
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 それをもう、えらい遠い距離があったはずなのにいきなり出てくるんです。脈絡なく。映画が残り十五分くらいしかないし、そろそろビオランテ出さなきゃって感じで出てきました。それともあれですかね、根っこを伸ばしたみたいなことなんでしょうか。じゃあなんで本体までついてくるんだということにもなりますので、詳しくつつくとわりと早い段階でおかしくなっちゃいます。植物怪獣ならではの工夫みたいなもんが乏しくて、そこは怪獣としては残念です。
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うん、大人向けにしては細かい部分の練り込みがないんですねえ。子供向けにしてはサービスが乏しい。峰岸徹が自衛隊員として出てきて、ゴジラと対峙するシーンがあります。ここは町山さんが「男の夢だ」と賞賛していたんですけれど、何しろ峰岸徹の演技がくさいです。これはくさい。ハリウッド映画に憧れたのでしょうか。この一年後に公開される『ターミネーター2』のシュワルツィは「アスタラビスタ、ベイビー」と格好良く決めているんですけれど、峰岸徹はくさい。もっと寡黙な仕事人みたいなキャラクターだったら入れ込んで観られたし、あの最期も熱かったんですが、ちょいちょいださいことを言うのです。ここがT-800との大きな違いでした。おっさんの登場人物なんておっさんを熱くさせてなんぼなのに、くさい。
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 うん、つっこみどころはいっぱいありますよね。これね、子供向けならいいんです。子供向けならつっこみどころなんてぼくはほとんど無視します。でも、そうは見えないですからね。ラストが象徴的で、三田村邦彦と田中好子の会話です。「ベッドでゆっくり眠りたいな」「あたしもついていくわ。ずっとね」みたいなね。大人向けならもっといろいろと固めなきゃ駄目でしょうし、それを補ってあまりある勢いや熱さはすみません、感じられなかった。90年の作品ですが、80年代には子供も大人も熱狂させるアメリカ映画がぼこすかつくられました。ゴジラという脅威から、結局はビオランテなるきわめて偶発的なものによって守られてしまった日本。今回も自衛隊だけでは結局どうにもならなかったであろう日本。今昔併せ見て、少し哀しくなったりもします。幼すぎて記憶に焼き付いておらず、思い入れマジックでオールオッケーとはなりませんでした。うん、思い入れマジックによって評価される一品じゃないですかね。諸手を挙げて賞賛できるのは、かのすぎやまこういちの音楽。ゴジラのテーマのアレンジが大変に小気味よかったところ。それと幼稚園児が絵を一斉に上げたあの一瞬。うん、それくらいかなあというところです。あの一瞬だけは、素晴らしかったのに。
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by karasmoker | 2011-09-18 21:00 | 邦画 | Comments(4)
Commented by igufoto at 2011-09-18 22:52 x
ありがとうございます。
ゴジラから芽が出てまきついて苦しめるというアイディアはさすがです。この映画はビオランテの影が薄いんで、そういうのがあると確かに面白くなりそうですよね。
僕は当時バッチリ小学生でしたが、冒頭の難しい単語が出てくるのが「なんか分からんけどカッコイイ!」と興奮してた記憶があります。
ものすごいツッコミどころ満載なんですが、私は思い入れマジックでオールオッケーです 笑

ちなみに後の作品でスーパーX3も出てくるんですが、デザインは戦闘機っぽくなって多少ハッタリが効いてるものの、僕は無骨で味気ないこっちのほうがやっぱり好きです。
Commented by karasmoker at 2011-09-19 01:21
 コメントありがとうございます。
 難しい単語が格好良く思えるような衒学的憧れは当時のぼくにはなかったのですね。これを子供の頃に観たのがぼくのゴジラ離れに繋がったような気がして、そう思うと真逆の受け止め方をしていたわけですね。
Commented by pon at 2011-09-19 10:36 x
こんにちわ。僕が子供の頃、実家の正面が劇場でした。
しかも、東宝系。冗談のような幸せな環境でしょ(笑)
なのでモスラVSゴジラ以降、VSガイガンまでをリアルで見ました。思い出すと傑作はVSヘドラです。
当時、夢に見るくらい怖かったのを思い出します。


Commented by karasmoker at 2011-09-19 23:28
 コメントありがとうございます。
 『ゴジラ対ヘドラ』は低予算だったらしく、もうやけくそみたいな変な映画で、カルト化するのも頷けますね。フィルモグラフィを観るとそれまではゴジラと複数の怪獣が出ているのに、ヘドラとタイマンですし。なんじゃこれはと子供をびびらせるのもわかるというものです。
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