『教授と美女』 ハワード・ホークス 1941

学者じいさんたちがヴェリーキュート。ホークス×ワイルダーのほんわかするコメディ。
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原題『Ball of Fire』
 1960年以前の映画では、最近あまり面白いと思えるものに出会えずいたのですが、これは素直に笑って楽しめるよいコメディでした。1941年の映画、実に70年も前ですね。こういうのを見せられると、そりゃ日本は戦争に負けるわ、と思ってしまいます。当時にこんなにお気楽なコメディがつくれるんだから、余裕が違うなと思わされますね。

 ハワード・ホークス監督作はわりと観ています。『暗黒街の顔役』(1932)、『赤ちゃん教育』(1938)、『ヒズ・ガール・フライデー』(1940)、『三つ数えろ』(1946)、『モンキー・ビジネス』(1952)、『紳士は金髪がお好き』(1953)、『ハタリ!』(1962)といったところです。ぼくが「ホークス」という言葉で最初に思い浮かべるのは福岡の野球チームではなく、この監督の方なのです。

 昔の映画監督でこの人と同じくらいに観ているのは、チャップリンはさておくとして、誰よりビリー・ワイルダーです。この『教授と美女』はホークス監督、ワイルダー脚本という、「夢のコラボ」なのです(しかしまあ、「夢のコラボ」という当世の流行り文句には安っぽさを感じます)。ホークスとワイルダーが組んだ映画というのは他にもあるのでしょうか、ざっとフィルモグラフィを観る限り見つからなかったのですが、あったら教えてほしいものです。
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 初期設定がまず面白いなと思いました。八人の学者たちが百科事典をつくるために共同生活を送っているのです。この辺の牧歌的な感じ、パソコンのパの字もない時代の知識人の集まり。本に囲まれた生活をしているじいさんたちの具合がなんともほんわかしています。その中で一人だけきりっとしたおじさんがいて、ゲイリー・クーパーです。ゲイリー・クーパーが「自分たちはたくさんの知識を持っているが、現代の俗語というものをまるで知らない。生きた言葉を知らねばならない」と言い出して一人、街に調査に出て行きます。
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 その先でヒロインのバーバラ・スタインウィックと出会い、彼女はとある事情を抱えたまま彼らの家にやってくるのですが、この辺の「白雪姫」感、学者のじいさんたちの「七人の小びと」感が素晴らしくキュートです。バーバラ・スタインウィックはギャングと繋がりのある踊り子で、じいさんたちを「Hey,kids!」なんて言ったりするんですが、じいさんはじいさんたちで、研究ばかりして若い女性に免疫がないものだから、固まってもよもよしているのです。「可愛い娘が来たもんだなあ」とほえほえしているのです。それまで真面目に百科事典をつくっていたであろう彼らが、彼女のダンスを真似て踊る練習をしていたりするのです。このじいさんたちによる「七人の小びと」感がいい。このメンツの続編がないのが残念なくらいです。
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 話自体はというと、既に大量に作られてきたような「惚れた女はヤクザの女」というもので、別段の新鮮みがあるわけではありませんが、この映画の物語サイズに適う簡潔な内容です。ゲイリー・クーパーが彼女に惚れるのですが、じいさんたちが応援団としての立ち位置をわきまえ、一緒になって助けているのがこれまた観ていて愉快。クーパー以外のおじいさん学者七人は研究ばかりして生きてきたわけで、女性との関係を結んだような過去も持たない人がほとんどなのですが、その中で一人だけ、「わしは昔結婚していたのじゃ。妻は24年前に死んでしまったのだが…」と言ってクーパーにアドバイスをしたりするのです。コメディとしてのほんわかぶりが愉快愉快。
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 クーパーはクーパーで真面目なんですね、そこがいいわけです。彼が遊び人だったら何も面白くないんですが、彼は彼で無骨な性格だから、バーバラの明るさと対比されるし、変にロマンティックすぎることもない。返された指輪のくだりもよかったなあ。
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 学者の集団というものについて、一切の権威性を持たせておらず、むしろコメディ的になる要素を抽出しているから楽しいわけです。研究ばかりしているから自分の分野には詳しい。けれど他のことは何も知らないし、女性との関係も知らぬままじいさんになっちゃったあの感じ。それでいて、互い互いに自分の専門分野に引きつけて話をしようとするんですね。「相対性理論では…」とか「高等数学で説明するなら…」とか、そういうのをコメディに溶かし込んで見せて、ほとんどひとかたまりでいる彼らの中にちょいちょい個性を出させる。これは七人の小びとの描き方として実に正しいと思います。
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 で、終盤だと、ちょっとした知識を活かした小さなKUFUが炸裂する場面があります。ああいうのも、知識があって知恵の効く集団なのだというのを活かしているじゃないですか。力はないじいさんたちだけれど、知識と知恵で切り抜けてやるぞというのがあってこれまた正しい。学者のじいさんが銃をぶっ放してあたふたしているのも面白い。
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 この映画の主役はクーパーとスタインウィックで、このスタインウィックのキャラクターの絶妙さというのも大きく、コメディエンヌとしてきわめて真っ当であったなあと思います。彼女と学者集団の化学反応はとても心地よい。

 70年の時を耐久しているコメディ映画だと思います。ちゃらい若者が恋愛できらきらしているような作品よりも、はるかに楽しい気持ちになれます。学者のじいさんたちのキュートさを観るだけでも価値のある作品として、お薦めするものでございます。
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by karasmoker | 2011-09-28 21:00 | 洋画 | Comments(1)
Commented by PineWood at 2016-03-17 03:35 x
お爺さん学者の大活躍劇が良いです♪所謂少年探偵もののスリリングさをピュアな学者のお爺さん版にして一層、愉快に!ルネ・クレールのサイレント映画タッチもー。脚本・原案のビリー・ワイルダーがハワード・ホークス監督の演出から多くを吸収していったという夢のヒューマン・ラブ・コメの大傑作…。リメイク版の映画(ヒット・パレード)も面白いが、本編のマッチ箱を使った音楽ナンバーやモノクロームのシーンの撮影の凡てが素晴らしい♪
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