『不思議惑星キン・ザ・ザ』 ゲオルギー・ダネリヤ 1986

アメリカ映画には出せない味
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振り返るにロシア、ソ連の映画というのはほとんど観たことがありません。タルコフスキーも観たことないし、観たのはここで取り上げた『コーカサスの虜』くらいかもしれません。

 本作は旧ソ連で大ヒットしたらしいのですが、アメリカ映画を見慣れているぼくからすると、特に1986年という時代と照らし合わせながら観ると、うわあ、ソ連って、という気持ちになりますね。ライバルたるアメリカが80年代に華やかな作品を連発連発していたのに対して、え、これが大ヒットするのか、ソ連って、と思います。なんか怖いですね。
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 主人公の男二人が街角から瞬間移動して、砂漠の広がる異星へと旅立ってしまい、そこでのあれやこれやが描かれるわけですが、先に言っておくこととして、SF的な華々しさはゼロです。80年代のSF映画、アメリカ作品においては華やかさに充ち満ちているわけですが、こちらはもう、なんか、荒涼として錆びきっていて、「ああ、社会主義国末期のえらいところ出てるわー」と感じます。でも、アメリカでこの世界観、映画の風合いは出せないでしょうからね。ソ連ならでは、なのではないでしょうか。地上に文明の姿が見られないディストピア的風景でいえばオーストラリアの『マッドマックス2』がありますが、あれは華やぎに満ちていたじゃないですか、美女キャラもいたし、敵もキメキメだし。
 
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 『キン・ザ・ザ』に出てくるのは汚いおっさんばかりです。女性も出てくるけれど、主人公と絡む相手のほとんどは汚いおっさんです。それで大ヒットするというのも凄いですけどね。セックスもバイオレンスも、目を見張るような特撮やSFXもほとんどなしで、汚いおっさんが砂漠でごちょごちょやっている映画がヒットするって、どんな文化的背景やねん、社会主義国怖い、ってなもんです。
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 それが余計に「異星感」を醸してくれるんですね。ロシア語自体が耳慣れないのに、輪をかけて異星の言語が発される。何を考えているのかよくわからないわけです、ぼくには。アメリカ映画だったらね、わりと予期できるわけですよ、その後の展開を。たとえ事前情報を持たずに観る映画であっても、どんな風になっていくかなんとなくわかる。でも、ソ連製のこれはぜんぜんわからないですからね。どうなっていくのかよくわからない。作り手が何をしたいのかがなかなか読めない。だから、異星を旅する不安感をより共有できるわけです。
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その分、体感時間は長くて、観終えたあともちょいと疲労感。観ながらの安心感があまりないですからね。繰り返しになるけれど、なんかソ連の怖さがあるんです。1985年公開の『マッドマックス サンダードーム』でも、地下世界みたいなのが出てきますけど、あれはメル・ギブソンっていうヒーローもいたし、映画自体が結構イケイケなわけです。でも、こっちの地下世界はなんかね、ガチ感があるというと変ですけれど、地下のトンネルひとつとっても生々しさがあるんです。あの錆びた金属の不気味さは、西側の英語圏には到底出せぬものよなあと思いました。
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 うん、「暗さ」ってことにかけては、アメリカ映画の比ではないんですね。ぼくのイメージだと、アメリカの大地には太陽がよく似合うんです。その大地を活かした名作が山のようにつくられてきた。一方、ソ連の大地が見せる曇り空や闇の風景は、おぞましさを感じさせるのです。陽気に振る舞ったりおちゃらけていたりするんだけれど、どうも明るくない。寒々しさというのはかくなるものか、と思う場面がいっぱいあって、ディストピア風景としては素晴らしいものがある。
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 ぼくのイメージする「ソ連風味たっぷり」の映画でした。アメリカ映画には出せないいろんな味が含まれているという点で、観てみるのも一興かもしれません。
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by karasmoker | 2011-10-25 00:00 | 洋画 | Comments(0)
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