『犬、走る DOG RACE』 崔洋一 1998

 岸谷五朗が格好いい。でも、よくわからないところも多かったです。
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DDさんよりリクエストいただきました。どうもありがとうございました。 

 崔洋一監督は『クイール』という盲導犬ものを撮っているので、『犬、走る』というタイトルを知ったときには犬のお話かと思いましたが、違いました。崔監督の作品は『月はどっちに出ている』と『血と骨』しか観ていないのですが、どちらも在日の外国人の生き様を中核に据えた作品でしたね。本作もまた、在日の中国人、韓国人が入り乱れる映画でした。

 韓国うんぬん、中国うんぬん、在日うんぬん、という話にはいろいろ思うところもあるのですが、最近はどうも、韓国嫌い、中国嫌い、という言説をネットで見るのに少し辟易しています。いや、言説ならばいいのですが、ただの罵言に過ぎないものがそこかしこで湧いていますからね。うん、その辺については、書きたいこともあるんですけどね。
 まあ、そんな話は置いておきますか。。
 さて、『犬、走る』です。

 岸谷五朗、大杉漣が主演で、岸谷は刑事、大杉はどうもよくわからない立ち位置ですが、情報屋みたいなもんらしいです。二人を軸に、歌舞伎町の裏稼業の様子などがいろいろと描かれていきます。
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 結論から言うと、どうもぼくにはよくわからないところが多かったのですね。もう少し説明してほしいなと思うところも正直ありました。いわゆる裏の世界みたいなもんに詳しい人にはぴんとくるようなのも多かったのでしょうけれど、ぼくには何のことやら、どうしてそうなるのやら、というのもあって、入り込むのに難儀した部分も多いです。
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よかったところで言うと、岸谷五朗ははまり役だったように思います。「不良の刑事」というのがいちばん似合う俳優の一人ではないでしょうか。やさぐれた雰囲気で、違法な行為もなんでもやったるでな感じがあり、韓国映画なんかに出てみても結構はまるんじゃないですかね。『夜明けの街で』っていう映画が公開中らしいのですが、予告編やポスターの感じからして、使い方が違うように見受けます。この人はこの『犬、走る』みたいな、ノワール系が最も似合うはずなのです。崔監督は韓国映画も撮っているらしいですし、ぜひ起用してほしいと思いますね。

 岸谷五朗が出てくると映画の温度が上がります。焼き付くのはなんといっても、「シャブを売る外国人を摘発」からの~「押収したシャブを部下の香川照之と打つ」→「ハイになりながら歌舞伎町の路上で若者をぼこぼこ」→「あげくにぼったくりバーでレイプして店内を破壊」。このくだりは絶品でした。もうむちゃくちゃですからね。このノリは最近の日本映画では観ることができません。なにしろ主人公の刑事がシャブを打ってレイプするわけですから、こんなのを公開したら真面目な人たちに怒られてしまいます。
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 でも、だからこそ岸谷五朗が輝いているのです。90年代の薄暗い画面と非常によくマッチしていました。HIPHOPを随所でかますのも90年代的な古くささとしていいですね。こと日本映画において、HIPHOPは90年代的映像ととても相性がいい。宇多丸さんは「日本語ラップやヒップホップを格好いいものとして描く日本映画」について難を示していましたが、それが古さと結びついたら「だささ」として昇華する。男の髪型にしても、センター分けでその分けた前髪がもっさりしているというあのだささ。ああ、90年代だなあというのに満ちていました。おわかりかと思いますが、ここでいう「だささ」は肯定語です。
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 一方、大杉漣はというと、うーむ、この大杉漣がいいという声もネットであるんですけど、ぼくには大杉漣じゃないよなあという気がして仕方ありませんでした。大杉は岸谷に頭が上がらないような、弱気なキャラクターとして出てくるんですけど、存在感がありすぎるんです、個人的な感じ方ですけどね。もっと弱っちそうな人のほうがいいと思えてならず、観ながらどうもノイズになりました。だって大杉漣は岸谷五朗よりも十歳以上も上ですし、背だって高いし、それなのにあんな浪人生みたいな格好をしているのがどうも合わない。それとあの変なSMのシーンもよくわからない。岸谷のシャブ打ちバー破壊はキャラに合っているなあと思って楽しかったけれど、大杉のSMシーンは何なのでしょう。あれを入れた意図がぼくにはわからないんです。この映画において、彼の性格を描写する場面たり得ているかというと、ぼくにはどうもそうは思えないというか、うん、よくわからないんです。教えてほしい側の人間です。
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 冨樫真演ずる中国人娼婦の死で物語が大きく動くんですけど、ここもぼくにはよくわからなかった。すっごい唐突に死ぬ、というか死んでいるんです、あの人が。あれね、冨樫真がどんなことをやっていたのかもうひとつよくわからないんですよ。一応台詞で説明されますよ、ヤクザに目をつけられるようなことをやったってのも言われているし。でも、そーんなに存在感がないというか、ああ、この人が殺されちゃった、えらいこっちゃ感が実に乏しい。簡単に言うと、死体としてのほうが活躍してしまっている。死体をあちこち引きずり回すことになるんですけど、そっちのほうが出番としてはむしろ長いっていうね。それだとどうも、もっと序盤で、大きな役割を担ってもらわなくちゃいけないと思ったんです。岸谷五朗にしても大杉漣にしても、冨樫真を弔う精神がなさ過ぎる。ただの邪魔な死体扱いですからね。それでいいのかよ、と思わされる。いや、それならそれでいいけどさ、でも、死者をそういう風に扱って、最後にあの展開来られても、ぐっとは来ないよと思うんです。
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 それと、これまたよくわからなかったのは、最後の「防弾チョッキ、着てないのか」ですよ。え、なんで大杉が防弾チョッキを着ていると思ったんですか? ネット上の解説で、岸谷と大杉がヤクザ摘発のために一芝居打ったのだ、みたいに書かれていたんですけど、え、どこでわかるのそれ? ぼくが聞き逃したんですかね? だってその直前のシーンで、大杉はヤクザに脅されていたんですよ散々。そこから説明無しであの新宿東口大疾走に行くんですよ。どうして岸谷は大杉が防弾チョッキを装備していると思ったんでしょうか。
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 それに、だったら、その伏線をどこかに入れておくべきでしょう。いざってときは防弾チョッキが役に立つぞ、みたいなことをどこかで大杉に吹き込むなどして置くべきでしょう。そう、それがないんですって。クライマックスまでのどこかでね、大杉漣が、「防弾チョッキを着ておくと安心だ」と思えるシーンが必要なんです。そうしないと観客を導けないですよ。それがあって初めて、「おい、おまえ着てないのかよ」になるんですよ。いっくらでもあったはずですよ。岸谷と二人でヤクザの事務所に乗り込むくだりが前の段階であるんだし、そのあたりで岸谷に確認させたっていい。着てるな、よし、みたいなやりとりがひとつでもあればぜんぜん違っていた。それがないのに、あれで何か驚きを演出みたいな風に持って行かれたって、それは無い話ですよ。「だってあれ、蒸れるし……」って、着たことないじゃん大杉漣!
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 と、延々書きながら少しだけ不安です。「あったじゃん、そういうシーン」と言われたら終わりです。あの空き地で岸谷が着ているのがわかるのは違いますよ。あれを持ち出さないでくださいよ。あの展開より前で、という話です。いや、あの風俗の短いシーンで、もしかしたら岸谷に大杉から電話がかかっていたのかも、あの電話はそういうことだったのかも。もしもそうだとするなら、そこは絶対カットしちゃ駄目だって。あれが最後のチャンスだったのに、伏線を張るためのさ。

 韓国、中国の人々の生き様みたいなもんももうひとつよくわからなかったです。冒頭にあの部屋で拉致されていた人たちの話も、わかる人には何のことかわかるんでしょうけれど、もう少しでいいから説明してくれないかなあと思いました。それはおまえの知識不足だって言われるかも知れないけど、ああいうことにまつわる知識は、まっとうに生きていくうえでは入ってこないものなんですよ、そこで知識不足を責められても困りますよ。韓国、中国の人の生き様ってことでいうと、ジャッキー・チェンの『新宿インシデント』がすごくよくて、あの映画だとあの人たちの目線もわかった。でも、この映画ではわかりませんからねえ。自国から出稼ぎに来た人々の人生っていうのが、この映画では何もわからない。モチーフとして利用されているだけに思えた。

 岸谷五朗を軸とした映画の風合い自体はいい。そこはとてもよかったと思います。ただ、細かい部分でよくわからないところがあって、あるいはぼくにはこの映画を正当に評ずることができないのかもしれません。だからむしろ、教えてほしいことが多いですね。自分にはこの映画の良さが大いにわかったぞ、という人、大募集です。
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by karasmoker | 2011-11-08 00:00 | 邦画 | Comments(3)
Commented by DD at 2011-11-28 11:47 x
取り上げていただいてありがとうございます。
防弾チョッキの件はあのセリフで二人で召し合わせていたのか
と分かる描写なのかと思ってました
Commented by karasmoker at 2011-11-29 20:34
 コメントありがとうございます。
 防弾チョッキの描写はおそらくそのような意図なのだろうと思うのですが、その直前までの展開を考えるに、どうも不親切すぎるように思ったのでした。
Commented by 犬嶋 at 2013-12-13 10:01 x
映画評拝見しました。
筆者様はわりと、お天道様の下をまっとうにというか、あまりややこしい世界は見ないで生きてきた感じですね。
大杉漣が年上でガタイもいいのに、岸谷にへいこらしているのが不自然というのは、むしろこの作品ではこれが自然なのだと思います。いい歳で身体もある男が、なにもできないまま負け続け歌舞伎町で生きながらえた姿が大杉だからこそ出せるのかと思うのですが。さらには、公開当時、大杉はそこまでメジャーな俳優ではないので、大物感はないです。今観たら役者角の先入観が入るので違和感は仕方ないかと。多少気になったので、無駄な長文をでは失礼。
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