『まぼろしの市街戦』 フィリップ・ド・ブロカ 1966

 「反戦」って何だろうってことを考えさせますね。
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原題『Le Roi de Cœur』
「長らく観たいと思っていた」シリーズ。アマゾンで三枚三千円キャンペーンのひとつになっていたので買いました。『映画秘宝』で評価が高く、町山さんのオールタイムベストテンのひとつにもなっている作品です。

DVDパッケージよりあらすじを拝借。
 第一次戦争末期、フランスの小さな村を追われたドイツ軍は、進撃してくるイギリス軍への置き土産に、強力な時限爆弾を仕掛ける。その事実を知ったイギリス軍は、爆発を未然に防ぐため一人の兵士を村に送り込むが、村人たちはすでに全員避難しており、誰もいなくなった村は精神病院から抜け出した患者たちの楽園と化す……。
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「市街戦」とあって冒頭から軍隊が出てくるので、戦争映画かと思いきや、そこからは大きくかわしてくる作品です。ドンパチはあくまで背景になっていて、メインは精神病院の患者たちとアラン・ベイツ演ずる主人公の話でした。精神病院の患者がたくさん出てくる話だと、『カッコーの巣の上で』がぼくは好きですが、あのような抑圧感は皆無で、患者たちが好き放題やっている映画ですね。弾け方は『トゥインクル・トゥインクル・キラー・カーン』も連想しました。おかしな大人たち、コメディアン仕立ての登場人物をたくさん出したいときには、精神病院の患者という設定にするとやりやすいというのはあるのでしょうね。その辺をまじめに考えたらナイーブな領域にいくだろうけれど、コメディアン的な突飛なキャラにしたいならば、格好の対象と言えるのかもしれません。『パコと魔法の絵本』もおそらくそういうことなのでしょう。現代日本のポリティカリーコレクトとしては「精神病院」ではまずいので、「変わり者が集まる病院」みたいになっていたようですが、限定された空間でコメディを形作るときには、確かに有用な設定です。個々のくせもつくりやすくなるし。
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 銃を持った兵士や装甲車も出てきますが、患者たちが街に繰り出してからはものものしさはありません。ドイツ兵たちまで巻き込んでコメディ要員にしてしまい、むしろ患者たちの織りなす虚構世界の進行が真ん中にある。戦争の深刻さから離れたわいわい感という点では『M★A★S★H』にも通じています。どちらの映画もベトナム戦争の最中に公開ということで、それをリアルタイムで感じつつ観る気分と、現代に観る気分では見方が違うのでしょうね。戦争による緊張感みたいなもんはこの映画の中だけで言えばそんなにないので、今観るとコメディ部分にも緊張感が乏しいなと感じたのですが、当時としてはこれくらい弾けておいて丁度良かったのかもしれません。何かにつけて、わっしょいわっしょいみたいな雰囲気になります。思い思いの扮装をして、わっしょいわっしょいです。
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作品テーマとして「反戦」っていうのが広く受け止められているようですね。DVDパッケージにも「平和の狂気か、戦争の正気か?」なんて一文があります。ここからは終盤の展開にも言及していきましょう。
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 作品の終盤で、村でイギリス軍とドイツ軍がはち合わせするんですが、そのときにほとんど機械的なテンポで両軍が全滅してしまうんです。その場に居合わせた精神病院の患者たちに「冗談が過ぎるなあ」みたいに言わせているところからも、「戦争のほうがあの患者たちよりよほど狂っているんじゃないのか?」というニュアンスが読み取れるわけです。
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爆弾の恐怖から開放された村には人々が戻り、この世の春を謳歌していた患者たちはまた病院の中に戻ります。任務を達成し生き残った主人公は街から軍隊の拠点に戻り、勲章を与えられて次の戦地に赴けと命令されます。しかし彼はその途中、兵士を乗せた車から降りてしまいます。彼が向かった先はかの精神病院。そこで患者たちとともに暮らしていくことを決めるのでした。
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 この辺の意味合いが、ベトナム戦争只中の公開当時、あるいはこの舞台となった第一次世界大戦の時代においてどう活きてくるのかというのは、幸いにして平時を生きるぼくとしてはわかりかねるところです。ヒッピー・ムーブメントが盛った時代においては、戦時下における患者たちの奔放な狂態が、反戦的態度として輝いたのかもしれません。ただ、何か引っかかるなあ、というのがあって、それがなんだかよくわからなくて、先ほどから文章が進まずにいます。

 うーん、観ながら「あれ?」と思った場面があって、それは主人公が村の外に出て行く場面なんです。主人公は患者たちに王様として扱われ、わっしょいわっしょいになっているんですが、ひとたび彼が外に出て行くと、それまでのハイテンションは急転して、誰もついていこうとしない。戻ってこいよー、外の世界は危ないよー、みたいになる。で、戻っていくと、またわっしょいわっしょいになるんですけど、その中でふと冷静に、患者の一人が、「あなたが王様じゃないってことはわかっているんだ」みたいにぽろっと言うんですね。この映画がちょっと惑わせるのはひとつにそこで、「あれ? この患者たちはどこまでマジやねん?」と思った箇所でした。この患者たちは現実とどう向き合っているのだ? そして、ラストの主人公はどうなのだ? というね。

 主人公は最後、戦地に行くのをやめて精神病院で過ごすことを決めます。彼はどうも精神病を偽装していたように思えるわけです。現実から、彼は逃げたのでしょうか?

 そうなると、反戦って何やねん、とも思えてくるんですね。戦争の世の中は嫌だと言って引きこもることは、反戦とは違うだろうと思ったわけです。だってそれは無関心と同義ですからね。お国のためだ家族を守るためだと言い聞かされ、たとえ不条理だとわかりながらも戦っていた人もいるでしょうし、あるいは、絶対に戦争は駄目なんだと主張して殺された人もいるでしょう。それに対して、この映画の結末は、「引きこもっちゃえ!」ですからね。「現実から逃避しちゃえ! ここなら徴兵を受けることもないし安全だ!」ですからね。戦争から逃げることと戦争に反対することは違うだろうと思ったんです。

 個人が逃げても戦争は続きますからねえ。いや、ぼくもね、偉そうなことを言いながらね、あの状況で次の戦地に行けと言われたら、あの方法ありやな、と思ってしまうと思うんですよ。ただ、その態度それ自体は決して人に吹聴できるものでもないとは思いますね。何のリスクも背負わずに、逃げているだけですから。

 ああ、だからだんだんはっきり見えてきたんですけれども、「戦争という行為は精神病よりもずっと深刻に狂っている」みたいなのが嫌いなんですね。そういう風な見せ方が嫌いというか。ほな何かいと、戦争を起こさないためにはみんなこの患者たちみたいに夢見心地でおったらええんかいと。人のブログから無断で転用して恐縮ですけれども、
「偏見のない観客であれば気が付くだろう――彼らが正気に見えるのは、戦争という現実から隔離されているからだ――ということを。」
 と言っている人がいて、なるほどと思ったんです。「戦争なんて、まったくおかしいよね」という態度を社会の外側から言われてもなあ、という気がして仕方なかったんですね。 
 うーん、うーん、はっきり見えてきたと書いておきつつやっぱり見えていないことに気づいたんですけれども、結局ぼくは、「反戦って何やねん」ということについて、まだまだよくわかっていないのですね。戦争反対って言うのは簡単だし、誰にでも言えるけれども、戦争っていう物騒な行為だけを見つめて反対を唱えるだけで何が解決するねんってことでもあるし、そこに至るまでのいろんなことがあってまずそこをもっと早めに問わないと駄目なんじゃないかとかも考えるし、ぜんぜんまとまっていないのでした。

 ただ、映画自体はそういったことをごちょごちょと考えさせるいい映画だったなあとは思います。あの結末、どう思う? ということだけでも人といろいろ話せることがあるだろうし。映画の中だけではなく、映画の外まで考えをめぐらさせるという点で、お薦めできる一品であります。
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by karasmoker | 2011-11-16 00:00 | 洋画 | Comments(3)
Commented by pon at 2011-11-16 11:47 x
こんにちわ。学生時代にレイトショーで見ました。当時の反戦は逃げるが原則です。
管理人さんの様な若い人が見ると、潔くよくないみたいな気持ちになるのでしょうが、それ以外に抵抗するすべがなかったのです。だからこそ、非国民と呼ばれて、吊るし上げられて、へたしたら殺された訳です。いまは地下に潜ってテロを引き起こしますが。
逃げなくて戦争に行った人たちは潔いと思いますが、参加しないで無抵抗で殺された人たちを、ただ逃げたとは思いたくは無いです。この映画の場合、重いテーマをあえておちゃらけた表現の一部と考えました、筒井の小説の様に。どちらにしても当時は違和感なく見れました。
ただ、ー「戦争という行為は精神病よりもずっと深刻に狂っている」みたいなのが嫌いーと言い切ってしまう人はこの映画にむいてないかも(また怒らないでくださいね 笑)。
Commented by karasmoker at 2011-11-16 23:06
 この映画の見方については自分の若さを積極的に認めるところであります。自分でも生煮えだとわかっている考えを提示して、指摘を受けることを期待していたので、大変ありがたく思います。まだまだこの辺に議題に関しては思慮が足りぬのであるなあとつくづく感じるのであります。
 またのコメントをお待ちしております。
Commented by ピアノ買取 at 2015-11-25 04:40 x
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