『羊たちの沈黙』 ジョナサン・デミ 1991

真面目さが心地よい。高みを狙うジョディがレクターにぶつかって生まれる快感。
d0151584_1293844.jpg

もちのんさんよりリクエストいただきました。どうもありがとうございました。
 
 原題『The Silence of the Lambs』
映画をよく観るようになる前、今からかなり前に観たので、忘れていることばかりでしたね。いまさらぼくが褒める必要もないとも思いますが、実に程よく楽しめる作品です。

 ハンニバル・レクターのモデルとなったのは大量殺人鬼のヘンリー・リー・ルーカスとかアルバート・フィッシュとかと言われていますね。平山夢明の『異常快楽殺人』という本を結構前に読みましたけれども、えげつなさがフィクションを遥かに超えていますね。『悪魔のいけにえ』のモデルであるエド・ゲインとか、もう「人を殺すことが何でもない人たち」ってのがいて、いや何でもないならまだしもですが、それが快楽と結びついてくるってのは、笑えなすぎて笑えてくるくらいにどうしようもない。

 その生まれ育ちがそもそもぐちゃぐちゃだったりしますからね、よく「狂ってる」とか言うけれど、狂う狂わない以前に、倫理や道徳が端からインストールされていないんです。貧困やら虐待やら度重なる不運やらでぐちゃぐちゃのまま大人になって、その状態で野放しにされたら、そりゃあどうしようもない存在になってしまうかもしれません。
d0151584_1301367.jpg

レクター博士はそれをあくまで背景にしつつ、さながらホームズ的な知性をもって迫ってくるため、見ている人間は否応なく身構えてしまうわけですね。登場シーンでジョディ・フォスターに対面し、高い洞察力を示す。ホームズ登場のパターンと同じです。服装やら喋り方やらでその人の背景を見抜くというのは、現実的な「かまし」としてこの上ない手法と言えるでしょう。そういえば『踊る大捜査線』の映画版第一作でもぱくっていましたね。まあなんとも綺麗なぱくりです。あの頃のぼくは『羊たちの沈黙』を知らず、ふわあきょんきょんは怖いなあすごいなあと思っていましたけれど、このレクターを知ってからはもうださいんですね。
d0151584_1302554.jpg

こいつは何かしでかすぞ、さて何をしでかすんだ、と思わせた時点でこの映画はもうほとんど勝ちじゃないでしょうか。観客は可憐なるジョディ・フォスターに感情移入して、怯えながらも手がかりを求め、彼の傍に行きたくなる。この頃のジョディは素敵ですね。『コンタクト』のときにはもう自信がみなぎりすぎて手がつけられない感じになっていたし、『パニック・ルーム』のあたりではもう頼れるママモードでガン押ししたい感じが酷いことになっていた感があるのですが、この頃はまだまだ高み狙うのよあたしはという野心がありそれがレクター博士とぶつかりあって、あの対面シーンの良さが生まれたのでしょう。
d0151584_1304174.jpg

d0151584_1305377.jpg

今観ると、結構「レクター接待モード」がどうやねん、というのもあるんですけれどね、たとえば外に出される途中でペンを盗んだとわかるところも「あんながちがちにされていてどうやったのだ」という話ですし、檻に入れられている場面も警官のぼんくらさがまずいから、さあレクターさん脱走してくださいみたいな展開にも映るし、皮を剥いでまんまと抜け出すシーンも、あれは警官たちのぼんくらさに助けられているから綺麗に映るけれども、あればれてたらもうそれで終わりやんけかなりすれすれやなというのもあるし。まあその辺は映画的ご愛敬なのですね。
d0151584_131498.jpg

d0151584_1312069.jpg

クライマックスにはぜんぜん絡まないレクター、というのは、久々に観て新鮮に映ったところでした。あれ、これどうやってレクター絡むんだっけと思ったら絡まなかった。ジョディの映画になりました。あの犯人は敵役としてはレクターよりもずっと格が劣るわけですから、映画のつくりとしては結構危険な一手だと思いますね。途中でレクターが見事に脱走して、さあどうなるねん、ジョディにどう接近していくのかな、それとも何か別のあれがあるのかな、と思いきや、それはないですから。ストーリー的には最初から目的とされていたことを成し遂げたわけで、なんら突っ込みたいこともないのですが、勇気あるなあとも思ってしまいます。あれ、なんとかレクターを絡めたいと誘惑されると思いますもん。せっかくあんないい感じで中盤まで引っ張ったダークヒーローを出さないわけにはいくまいと思いたくなりますもん。そこを、「いやいや、当初の任務遂行が先です。レクターはそれからの話です」という真面目さはいいなあと思います。それでいて最後に、さらっとにおわせるところで観客を惚れ惚れさせてしまうってのは、これはかなりの高等技術ですぞ。

グロ描写も短い時間ですが随所に挟み込んでいくし、幼虫とかを出して観客に生理的嫌悪感を抱かせる。しかしそれもやり過ぎていることはなく、とても真面目なつくりですね。ジョディが井戸の中の女性と話したいのに、犬がワンワン吠えていてうるさいという部分も、えらい状況だぞというのを示すのに地味に効いているし。願わくばあの犯人役にもう一押しのインパクトを、というのはありました。『悪魔のいけにえ』で女性がレザーフェイスの家に踏み入ったときの「しゃれにならない場所」感はすごかったじゃないですか。羽根やら骨やらが散乱していて、狭い場所だけどしゃれにならない場所だって感じがあった。あそこまでのえぐみはなくて、井戸っていうガジェットに頼った感がなきにしもあらずですが、まあ好みの問題でしょう。
d0151584_1313452.jpg

d0151584_1314211.jpg

 レクター博士のようないわば「サイレント・サイコ」な人物でいうと、ぼくは『SAW』シリーズのジグソウ、トビン・ベルが好きですが、ああいう存在がどっしりしていると映画自体の重しになりますね。「映画の中の存在としては」今後もまだまだ出てくることを期待したいのであります。そういえば続編で『ハンニバル』『レッド・ドラゴン』『ハンニバル・ライジング』がありますが、『ハンニバル』はテレビで観た覚えがあります。変になったオールドマンの「コーデル!」の声が妙にこびりついています。『レッド・ドラゴン』はなんかタイトルがださいのと評判がよくないのとで観ておらず、『ハンニバル・ライジング』にいたってはその存在をすっかり忘れていたのでありました。「そういうのを観たい」ときに観ることにしたいと思います。
[PR]
by karasmoker | 2011-11-24 02:00 | 洋画 | Comments(2)
Commented by もちのん at 2011-11-26 21:53 x
こんばんは。
『羊たちの沈黙』を観てくださりありがとうございます。
今回のレビューも、なるほどなぁと感心してしまいました。アンソニー・ホプキンスの素晴らしさは勿論のこと、ジョディー・フォスターの初々しくとがった感じも良かったですね。クライマックスをレクター博士推しで作らなかった点についても、言われてみれば確かに勇気がいるシナリオですよね、納得です。

さて、最近私が観た映画の中から、オススメを2つほど。1つ目は『告発』です。以前、なにさまさんが褒めていた『フィクサー』と同じようなテイストの映画かな~と思います。2つ目は『アフタースクール』です。こちらは全く期待せずに観たのですが、非常に楽しめました。以上2本、お時間があるときにご覧いただければ幸いです。

それと、以前にオススメしてくださった『ばかのハコ船』、ツタヤディスカスの予約リストには入れてあるのですが、まだ観ておりません…ごめんなさい。
なにさまさんのレビューから拝察するに、かなりどよーんとした映画のようなので、心身ともに余裕があるときに挑戦しようと思っております。
では、今後も素敵なレビューを楽しみにしております。
まずは御礼まで。
Commented by karasmoker at 2011-11-26 23:36
 コメントありがとうございます。
 レクター博士は格好よすぎるんですけれど、ここまで格好いいと下手な亜流を寄せ付けない強さが生まれますね。レクターが街に放たれたのは現実で考えれば最悪ですけれど、それでいて妙なすがすがしさを観客にもたらしてしまうという、危険な映画でもあります。

 『告発』というのは知りませんでした。そのうち観てみることにいたします。『アフタースクール』は別の方にもお薦めいただき、観てみたのですが、ふむ、ふむむ、ふむ、というところで(どういうところだ)、レビウは気が向いたら、ということにさせてもらえればと思います。仕掛け手の「ふふ、だまされたでしょ?」という感じがちょいと鼻につきまして。

 またのコメントをお待ちしております。
←menu