『ヒミズ』 園子温 2012

原作からの大胆な改変は吉と出ていると思います。
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久々に新作を取り上げる本ブログ。ねたばれがんがん。
 前作の『恋の罪』をうかつにもスルーしてしまったのでその辺の話はできぬのですけれども、『ヒミズ』については原作漫画にも唸らされるものがあり、これは早めに駆けつけておきたいよね、というわけで池袋HUMAXシネマズ。

さて、ふうむ、長くなるか短くなるかもわからずどのあたりから話し始めればいいのか迷っているのですけれども、設定をざっくりいうと、「いわゆる普通の」生活を営めずにいる十五歳の少年を主人公とした、彼の生き方を巡るお話、とまずは言えましょう。ボート屋を家業としている彼の家は両親がまともな教育を与えることをほとんど放棄しており、彼自身もまた学校に普通に通うような暮らしに順応できずにいます。 主人公の住田少年を演ずるのは染谷将太、彼に惹かれる少女茶沢を演ずるのは二階堂ふみです。二階堂ふみは沖縄出身で、「南の島の宮崎あおい」みたいな人ですね。

 原作は四巻あるのですが、その中身を二時間強で描ききるのは難しい、というわけで、この住田と茶沢の話に絞って綴られていくことになります。原作と大きく異なる点がいくつも散見されるわけですが、それらはおおよそ有効に改変されていたとぼくは思いました。土台、あの漫画のトーンで映画をつくるのは難しい。はっきり言って暗いお話なのです。だからそのままやれば下手なナイーブさに走りかねないし、荒涼感やら内面的うんぬんに絡め取られる。そこを思い切り舵を切り、面白い映画になっていました。

 演出としてわかりやすく引っかかってくるのは二階堂ふみのパワフルさです。原作ではもっと物静かな、シニカルな風情の少女なのですが、映画ではライトノベルよろしく、染谷将太に猛烈アタックを掛けます。うん、ラノベっぽいなあという感じを最初受けました。ラノベの一般的手法として、「静かに暮らしたいんだよ俺は」的な少年のもとにパワフルな少女が押しかけてきて引っかき回すというのがあるのですが、それに近しいものを最初感じた。『シガテラ』にせよ『わにとかげぎす』にせよ、古屋実の作品では女性側からアタックを掛けてくるのですが、本作はそこでまずどーんと押してきます。おいおい大丈夫か、と思って見始めたのですけれども、途中からそのテンションがこの映画の熱量を確かに高めていると気づく。原作にはないやりとりも加味されていて、ああ、これは原作に見られるような冷静なコミュニケーションからは大きく飛ぶのだね、とわかって、わくわくしました。

 二階堂ふみの演技はとにかくパワフルパワフル。なおかつ主役二名の間で交わされるやりとりには、幾度も暴力が挿入される。そこで本作が、ラノベ的な甘え合いとはまったくもって異質なものであると気づかされる。二人は語りを通し、暴力を通してぶつかりあい、わかりあう。これは第二の、『愛のむきだし』なのでした。

 パンフレットで佐藤忠男氏が書いていることで、はあなるほどその通りと膝を打ったのは次の箇所。
「日本人には周囲を気にして言うべきことも言わないで暗示ですますという傾向が強い。この映画の会話は、だからこそ逆に、普通なら言わずにすますことを声を大にして言う」 この点は原作から大いに改変されているところでした。主人公二人以外でも、そうした演出がかなり前面に押し出されています。

 たとえば光石研演ずる父親がそうで、彼は原作に輪を掛けて最悪の男です。あれ、こんなにひどい父親だっけ、と記憶を探ってしまうくらいに光石研が最悪。なにしろ息子に向かって、「早く死んでくれよ」「おまえなんか本当に要らねえんだ」としつこくしつこく言うのです。原作では数ページしか出てこず、ろくに会話もしない父親の像がかように増幅されている。他方、これまた原作にはなかった茶沢の家族も場面も挿入される。黒沢あすか演ずる茶沢の母親は、なんと娘の死を渇望して首つり台をつくるという有様です。園子温は『奇妙なサーカス』『紀子の食卓』で壊れた家族を描いていますが、そのような最悪の背景を持ち出すことで、主役二名の造形をより立体的にして見せているのです。

演技テンションが高い本作においてバイプレイヤーとして光るのは、まあ誰もいいのですけれども、やっぱり窪塚洋介を語らずにはおれません。窪塚洋介には本当にわくわくさせられるというか、この人の放つ躍動感とか攻撃力というか、他の役者とは明らかに異質なものを感じます。渡辺哲を引き連れて泥棒に入るシーンがあるんですが、ここはすごくぞくぞくしました。「脱! 原! 発!」などと叫んであんな跳び蹴りをかませる役者は、日本には他にいないのではないでしょうか。『凶気の桜』とかにしてもそうですけど、ああ、この人はちょっとおかしいところあるんかなあ、と思わせるくらいの役者は観ていて気持ちがよい。今後も是非園子温作品に出ていってほしいです。

 本作は暴力表現において、過去の園作品の中でも最も充実していたのではないでしょうか。映倫区分はPG-12なんですけれども、乗ってる韓国映画みたいな泥臭さや乱暴さがありました。その点ははっきりと原作超えしていると言っていいのではないでしょうか。なおかつ、その話で言うと、この映画ではまあ、キチガイな人たちというのも出てくるんですね。キチガイといえば白石晃士ですが、彼にも匹敵するようなぞくぞくするキチガイが出てきました。彼らの場合、人物背景がまるで読めないんです。ただ、彼らのような存在は確かにこの国にいっぱいおろう、という実在感があり、迫力で言うと『冷たい熱帯魚』のでんでんより怖い。で、染谷将太がそれこそ『気狂いピエロ』のジャン=ポール・ベルモントみたく顔にペンキを塗りたくり、包丁を紙袋に入れて街を彷徨する。原作だとわりとこまめに住田少年の内面が語られるんですが、語らないところは語らずにおくこの映画では、彼が何をしでかすのかわからないという緊張感が高められます。

 他にもいいところはいっぱいありましたので全部語るわけにもいかないのですが(たとえば謎の魔物が出てこないことなどについては他の人にお任せします)、一方ちょっとどうなのや、というのが終盤でした。わりと平和に着地するというか、しっとりしてしまう節があります。主人公二人が寝そべりながら未来を語るなどしていく場面は原作にもあるのですが、場面場面で狂い咲き、時として愛をぶちまけていた二人が語るには、いささか退屈なやりとりだったように見受けました。原作とは違うトーンで攻めまくっていた本作が、終盤の肝心な場面で原作通りに静かに語り合うというのはなんだか、戸惑いを感じた。これね、でね、終わり方が原作と真逆なんです。それはそれは真逆。だったらもういっそのこと、あれだって絶叫しながらやってよかったんじゃないかなあと感じるのです。熱量を持続させながらやってきた本作の最後の語りがあれだと、ちょっとしょぼんとしちゃうんじゃないかしら、というのが個人的な感じ方です。

 本作は3・11を受けて大幅に内容が変わったようなのですが、あの終わり方はそれ以前から設計されていたんでしょうかね。ラストのラストで、「がんばれ!」を連呼しながら走るんですけど、そこの前で一回しんみりしているのでねえ。「がんばれ!」で終わる、うん、うーん。うん、いや、でも、ここはちょっと判断保留というか、もう少し時間をおいて考えておきたいところです。それと、どうなんだろうと思うのは、あの肯定的な終わり方をするならば、せめて茶沢さんにもう少し優しくしたってもええんちゃうんけ、というのもあるんです。茶沢さんに支えられっぱなしなんです。最後も「住田がんばれ!」と一方的でしょう? もうくさくなってもかまわないから、「茶沢がんばれ!」があってもええんちゃうかなあと、ふと思いました。住田は自首するかもしれないとして、茶沢は茶沢であのあとどうしていくねん、ということですから。

いやあまだまだ語りきれぬこと多しですが、いろいろ詰め込んであるし、人の語りも読みたくなるし、ちょっと整理しきれていないというのも含め、存分な熱量を感じる作品でありました。お薦めであります。

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by karasmoker | 2012-01-17 23:00 | 邦画 | Comments(6)
Commented by 世田谷の男 at 2012-01-19 12:38 x
いつも面白い映画評有難うございます。
さて、さかのぼった評を拝見していると、
どなたかのリクエストなる映画も評されているようで。
もし可能であれば『ビー・デビル』という昨年公開の韓国映画を評して頂けないでしょうか??
小生、見たんですが『ん~、いまいち』ってな感じだったんですが総じて評価が高いんですよね。
まあ可能であればってことで。
どうもすいませんです。
では、頑張ってください!
Commented by karasmoker at 2012-01-19 23:20
 コメントありがとうございます。
 『ビー・デビル』は観ようと思っているのですが、先日行ったツタヤでは貸し出し中で、ディスカスでも借りづらい状況ゆえ、しばしお待ちくださいませ。忘れた頃にレビウが載ると思います。
 リクエストはいつでも受け付けておりますので、今後もお気軽にお薦めいただければと思います。評価が割れている作品、というのはそれだけでも観るのが楽しみであります。
 またのコメントをお待ちしております。
Commented by pon at 2012-01-22 18:03 x
こんにちわ。ひさしぶりの新作ですね。好きですね園監督(笑)。『恋の罪』はだいぶ前にSUSHI TYPHOONレーベルを大漁買いしたときに一緒に買いましたが、肝心の水野美紀はほとんどカットで呆然としました。日本版が出るまで見るのを待とうか?と思っています。SUSHI TYPHOONの中では園子温はちょっと異質ですね、どうしてあそこにいるのかわかりません。
Commented by karasmoker at 2012-01-22 19:58
 コメントありがとうございます。
 新作は『さや侍』以降そういえば取り上げていないという、なんとも世間ずれしたブログでありますが、今後もその調子で参ろうと思います。
 確かに園子温とスシタイフーンというのは志向が違うように見受けますね。スシタイフーンは秘宝風味が強く、園子温作品とは違うように思うのですが、『愛のむきだし』がエンターテインメント作品として極上であったために親和性が高くなり、グロテスク描写もある『冷たい熱帯魚』で協調したのでしょう。
Commented by なめこ at 2012-01-31 23:41 x
新宿バルト9で見たのですが、あまりの満員振りに驚きました。いま封切りで見に行きたいと思わせる日本人監督があまり浮かばないなーと思う中で、頑張ってるなと思いました。ラストが肯定的だったことは私も少し引っかかりましたが、膨大な宣伝を見るにつけ、多くの人に受け入れられるものを目指したのかなと思いました。それにしても園子温組大集合でしたね。茶沢さんが自分の家庭の話をして、私も辛いんだってならないのが良いと思いました。あと、細いわりに胸のある子が頑張ってる様子にワクワクしました。
Commented by karasmoker at 2012-02-02 01:28
 コメントありがとうございます。
 日本に作家的な監督は多くいますが、作家的でありながら商業的な目線も保持している人というのは確かに希有で、園子温の作品が話題になるというのは映画産業にとって大いに喜ばしいことであると思います。映画を監督名で観に行く、という文化が(タレントが映画を撮る場合を除いて)日本では弱いので、その辺の底上げになることがあればなあと願っています。
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