『ムカデ人間』 トム・シックス 2010

この監督は変態じゃないですね。 
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 原題『The Human Centipede (First Sequence)』
 インパクトの強さから昨年の公開時に各所でざわざわしていた本作でありますが、なんかぼくはぜんぜん興味が引かれなくて、白石晃士が評価していなかったこともあり、バーのマスターもお気に召さなかったようで、「ははーん」と思っていたのですが、まあそうですね、なんでこれで皆さん、騒いでいたんですか?

 どうして騒いでいたかというとやっぱり見た目のインパクト、発想の珍奇さなんでしょうけれど、それに惹かれて観に行ったら、「あれー?」と思わなかったのでしょうかね。観る前に騒ぐのはいいけど、観た後は騒ぎたくなるかなあこれ。いや、でも、それは公開からしばらく経っているから思うことであって、自分はめざとくもかくなる珍妙映画を見つけたり! と思ったら人に言いたくなるのでしょう、たぶん。
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そんなことを言いつつも、序盤はわりと面白く観たというか、さてこの後何が起こるのだ、という期待感は持ちました。お化け屋敷でも怪談でもそうですけど、くるぞー、くるぞーと思っている間が実は一番楽しい、ということがあって、その種の楽しさはありました。おっさんが変だし、おどろおどろしさみたいなもんは香っていたのです。あまり期待していなかった分、およ、これはことによるとええ感じになるのでは、と思わせるものはあったのです。
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 ただねえ、実際にムカデ人間化してから、つまりはこの映画の肝の部分ですね、そこがどうにも、うーん、予告で観たものを超えていかないんです。予告から期待するものを超えないんです。これは大きいです。

 ムカデ人間の造型自体もね、そんなには面白くないというか、2ではもっと人数を増やすみたいなことらしいんですけれど、なんか、そういう問題なのでしょうかねえ。
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 日本にはほら、あの『家畜人ヤプー』っていう小説があるじゃないですか。あの強烈さ、もう変態の極みみたいなもんを既に頭で描いたことがあると、この造型は別になあという感じなんです。『ヤプー』では、白人女性の排泄物がヤプーの栄養になる、みたいな設定があるんですけど、そういう段階まではぜんぜん行かないんです。なんだろ、アイディアはぶっ飛んでいるくせに、ディテールはぜんぜん飛ぼうとしていない。リアリティなんて端から度外視なんだから、その辺ももっといじくっていいのに。
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 この映画は工夫がないんです。ムカデ人間のインパクトを脇が支えていない。後ろの女性もずっと泣き叫んでいるだけ。あれだってね、いろいろやりようあると思うんですよ。たとえば後ろの連中には覚醒剤を打って、えげつない状況なのにアハアハになっているとかすれば、あの状況がよりやばく見えるじゃないですか。そんな風に狂わせるそぶりもない。前の男はいいとして、後ろ二人の役割が一緒です。なんでそこに役割を持たせないのか。接合部の包帯は百歩譲るとして、いちばん後ろの女はなぜ下着を着けているのか。あと、たとえばいちばん後ろの女なら、「おまえには目は要らない」みたいに抉るような場面があってもいいんです。そこを振り切ってくれない。やるならそこまでやれよってことです。

なんていうか、すっごく中途半端な女装っていうか、女性用の服を着ているのにメイクも手入れをぜんぜんしていない感じです。スカートの下にすね毛が生えまくっている感じなのです。どうせやるならできる限りぴしっと決めてほしいわけです。
「女装をするなとは言わない。ただ、ひげくらいは剃っていったらどうなんだ?」という。それでいうと、きっと監督は変態じゃないですね。変態じゃない人が変態の映画を撮っているように思えます。そう考えると、封切り当時結構客が入ったというのも頷けますね。マイルドですから。
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 物語運びにしてもなあ、細かいことを言い出すといろいろありますけど、ひとつには「きちんととどめは刺せよ」ってことです。なぜメスで狂ったようにざくざくやらない? 絶対やられるやん、追いつかれるやん。

 それで、最後にあの男があんな風になってもなあというね。要は、「人殺しをするくらいならば」みたいなことなのかもしれないですけど、あの状況でやらないと、後ろの二人は確実にやばいですからね。それはおかしいだろってことです。もう監督はどんだけ真面目っこちゃんなのだと言いたくなります。あの最後の口上もねえ、『グロテスク』の長澤つぐみを知ってしまっているものでねえ。目の前で恋人が腸をぶちまけて死に、拘束されて斧をつきつけられている状況で、挑戦的に笑う彼女を観ているのでねえ。この監督はぜひ『グロテスク』を観るべきでした。
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インパクトでは相当上位に来る映画ですよ、それはそう思います。だから人目は引くし、騒がれるのもわかる。でも、それではテレビ局のお手盛りでつくられているアレな映画と、そんなに変わらないんじゃないですかね? こんなおいしそうなアイディアなのに、なぜこんな風に? と思うところ随所です。

 久々の辛口評でございました。
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by karasmoker | 2012-02-09 22:00 | 洋画 | Comments(4)
Commented by pon at 2012-02-10 10:34 x
こんにちわ。おお、DVD発売と同時に見て頂いたのですね。カタジケナイ。どうやらトラウマ化していないご様子でほっとしました。でわ、私も安心して見てみます。見たらまたコメントしますね。
Commented by pon at 2012-02-10 14:29 x
こんにちわ。今見終わりました。ⅠとⅡを続けて見ました。結果から言うとⅡの方が数倍面白いです。Ⅱは管理人さんの思った通りの展開になっていると思います。ただ僕はⅠもよかったです。この映画にグロテスクのような徹底した変態ぶりを見たいなら、がっかりだと思います。僕は真っ当なホラーだと思いました。映画として非常に真っ当に楽しませてくれる作りになっていると思いました。監督はこのフリークスな主人公を描きたかった。成功してると思います。この作り手はグロテスクを見ていると思いますよ。日本よりも海外で評価されてる作品です(UK版ならすぐに買えました)。主人公のキャラクターの作りとか医者の設定や地下の手術室、日本ヤクザをあそこにもってくるなどグロテスクのリスペクトをあちこちに感じました。彼女の目も奇麗だから潰したくないというセリフも有りましたので目をえぐる展開は無いと思いました。まぁ、「クソ映ハンター」の僕ですから褒める所を探してるのかもしれませんが(笑)。Ⅱは凄いですよ、僕はもう見ないと思いますけど。おすすめします。
Commented by pon at 2012-02-10 15:45 x
あ、すみません何度も。家にある「Grotesque」はUKからのUS Import版でした。
Commented by karasmoker at 2012-02-10 21:38
 いつもコメントありがとうございます。
 記事でも書きましたとおり、ホラー映画としての手つきは確かに真っ当で、期待を持たせてくれるんです。でも、ぼくはムカデ人間の造型にせよ博士のキチガイ感にせよ、どうにも満たされなかったんですねえ。『グロテスク』に観られたような身体性への言及も希薄に思えたんです。まあ、ほどよくマイルドではありますね。
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