『インシディアス』 ジェームズ・ワン 2010

おおっ、と思わされるところに乏しかったのです。
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ジェームズ・ワンの作品は『デッド・サイレンス』が未見ですけれども、『SAW』も『狼の死刑宣告』も好きですので、どんなもんじゃいと思って、『インシディアス』。

ネットで見る限り結構評判が高いというか、褒めている人が多いように見受けますね。 ……うーん。そうなのか。
 ぼくは正直、あんまり面白さがわからなかったですね。少なくとも『SAW』と『狼の死刑宣告』に比べると、ぜんぜん印象に残らないです。

 低予算の家中ホラーで、中盤くらいまではかなり王道を進みますね。『エクソシスト』よろしく、夫婦の子供が異常事態に陥って、悪魔的なものの影がちらついてということになります。夫婦には三人子供がいるんですが、下の二人は結局のところぜんぜん話に関係ないですね。いちばん下の赤ん坊は泣き声要員になるんですけど、後半以降は一切出てこなくなってしまいます。なんなら子供は一人でもよかったんちゃうんか、そのほうがもっとフォーカスできたんちゃうんか、という気もします。
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うーん、脚本の流れ的にはわかりやすいんですけれども、子供への愛着がわかないんですね、このつくりだと。やっぱりお話として、あの長男坊を救いだそうっていうのが主軸になるわけで、だとするとあの長男坊の存在感が必要になるわけです。ところがほとんど何もしないうちにあの子は昏睡状態に落ちちゃうし、一方で弟たちに危険が波及するのかと思いきやぜんぜん出てこなくなるしで、そうなると観ている側としては結構どうでもいい感じになってしまいます。弟たちに割く時間があったら、もっとあの子の日常なり性格なりを描いておいたほうがよかったように思うのです。少なくとも次男坊はぜんぜん要らない。
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 中盤まで、家中ホラー映画の常道として、家の中に何か奇異な存在がいるぞという部分で見せていくのですが、目新しさがないというか、「ここを見よ!」というのがないように思うのですね。褒めトーンのレビウで、「オーソドックスで真っ当なホラーづくりだ」みたいなのがあったのですが、いまさらなあ、というのが率直なところです。ジェームズ・ワンはデビュー作の低予算映画『SAW』で、インパクトのある画づくりをぱしっと決めてきたし、『狼の死刑宣告』でも駐車場の長回しは絶品だったんですが、今回は目を見張る部分が少なかったんです。
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 と言いつつ、後半はホラー映画としては異質な方向に行きますね。霊媒師がやってきて、あららこれはもしや悪霊退散活動を行っていくのかな、だとしたら最悪だなと思っていたらそこはすいっとかわし、クライマックスではなんと父親が幽体離脱をするのです。幽体離脱をしてなんかよくわからないけれども悪魔の世界的なところに突入するのです。映画として非常に攻めている部分ですね。
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ただ、うーん、この構図もねえ、『マトリックス』とか『インセプション』とか、あっちの方向で既に花開いているってのもあるのでねえ。あれらの映画の世界の広がりを観ていると、本作はなんか唐突に放り込んできたなあと思うのです。だからあの異世界もあまり面白くなかったですね。ファンタジー系だとギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』なんかも異世界にふっと足を踏み入れて、現実とのギャップがあってというのが面白かったけど、こっちはそこまでぱしっとつくられた世界でもなかったですし。
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 うん、クライマックスの異世界描写になんか、あんまりこだわりがない感じがしたんですね。奇異なもん、珍奇でおどろおどろしいもんはいろいろ出してきたけど、なんか薄っぺらいんです。たとえばあの銃を持った女とか、ソファに腰掛けて動かないやつらとか、そりゃあまあそういうのを出せば異世界っぽく映りはするけれども、映画全体を通してみると効果的には思えないんです。
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 そう、結局あの子供にまつわる蓄積がないんです。だから最大公約数的な悪魔世界になるんです。異世界をさまよったり動き回ったりの快楽だけ切り取るなら、『エンジェルウォーズ』などのほうがよほどいいです。少なくともあの映画は監督のフェティッシュなこだわりがあるじゃないですか、ガキっぽいところも含めてね。一方、どうもこの映画の異世界には監督のフェティシズムを感じないのです。
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なんならもっと深みを持たせられたと思うんですけどね。あの悪魔世界にしても、子供と交信している風の設定があるのだから、あの子供の見ている悪夢みたいにしたりとか、もしくはあの子供の世界を悪魔が歪めているなんてのもできたと思うんです。たとえば登場人物の誰からしき人物が出てきて、でもそれが醜怪な姿に変貌してしまうとかね、あとはせっかく弟たちを出したのだから、悪魔のつくりだした弟たちの幻があるとかね、いろいろと前半までにできることがあったし、それを活かす世界づくりもあったはずなのに、中途半端なゴシック風味。
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コメディタッチの部分なんかもあるんですけどね、それはどう機能するんだろうってのも疑問でした。あの二人組の技師の振る舞いがおかしかったりするんですけど、ちょっとコントタッチにされてもなあ。あのガスマスクとかね。中途半端に笑いを取りに来ている感じがぼくは困惑させられるんです。
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 ガスマスクはガスマスクでいいんです。ただ、「ここはもう絶対ガスマスクが必要なんだ!」という確固たる考えで被せていないと思うんです。「なんか、ガスマスクとか被せたら面白くね(笑」「霊媒師のおばあさんにガスマスクとか(爆」みたいな、中途半端なおふざけ感、半笑い感を覚えるのです。うーん、でも、どうなんだろう、本当にガチンコでガスマスクを被せたのかなあ。ジェームズ・ワンはそんな人じゃないと思うのだけれどなあ。

映画として整っているところはきっちり整っているし、一方で見せ物的な部分も配合しているのは確かなのですけれど、どういう映画にしたいねん、というのがちょっとわからなかったんです。怖かった、ということはぜんぜんないです。まあぼくの感じる怖いものというのは世間の人々と大いにずれているのでありましょうが、しかしこれで怖い映画だって言えるならなんて幸せなのでしょうとは思います。辛口になりました、ここまでです。
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by karasmoker | 2012-03-24 22:00 | 洋画 | Comments(2)
Commented by pon at 2012-03-29 12:10 x
こんにちわ。ああ、僕もけっこう前にみました。僕もだめでした。ジェームズ・ワンの名前に期待しすぎたのでしょうか、なんか軽く作ってますよね、お仕事モードたっぷりでパッションの無さを感じてイラッとしました。ポルターガイスト風なのかと思ったら最初だけで、あとはホラーと言うよりは、モンスター映画。部屋の中で暴れる子供は、隣の家のイタズラガキだったって言うオチなのかと真面目に思いました(笑)。後半は、80年代のカルトホラー(たとえば、サスペリアとかヘルレイザーとか)のコピーで、管理人さんがゴシックと表現したのはその辺でしょうね。オチにいたっては、なんのひねりのないカビが生えた餅でしたね。少しでも考えたのでしょうか?後味が悪いだけで意味不明です。
Commented by karasmoker at 2012-03-29 23:11
 コメントありがとうございます。
 『SAW』の監督として名を挙げているため、どうしてもこの手の映画だと何かしらのアレを期待してしまうんですね。この監督なら先のほうへ連れて行ってくれるんじゃないか、と思いきや、言ってみれば古くさいスタンダードに向かっているので、「それはあなたの仕事じゃないのに」と思いました。
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