『唇を閉ざせ』 ギヨーム・カネ 2006

詰め込みすぎて各要素が印象に残りませんでした。ハリウッドリメイクに期待します。
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bang_x3さんよりリクエストいただきました。どうもありがとうございました。

原題『Ne le dis à personne』
 前回イタリア映画を評したわけですが、お次はフランス映画です。どうしても日米が中心となる本ブログ、ぼくの好みとしては、ヨーロッパ映画はあまり手が出ないところもあり、フランスからも遠のいていました。フランス映画が持つある種のこってり感を、無意識に遠のけていたのかもしれません。

 ぼくの抱くイメージとして、今回の映画などを観てもはっきりしたのですが、フランス映画ってどうもこってりしているんですね。料理にたとえると、あんかけみたいなとろみがある印象です。脂っぽさとはまた違うんですけど、アメリカ映画ほどからっともしていないし、スマートでもない。ドイツ、スペイン、イタリアの映画にもないこってり感を覚えます。

本作『唇を閉ざせ』はベン・アフレックを監督にハリウッドリメイク、なんてことらしいのですけれど、アメリカでつくられたらぜんぜん違う風合いになるだろうというのもさりながら、わりと脚本も変えてくるんじゃないですかね。少なくともハリウッドでは絶対こんな映画はつくらない。理由は簡単で、あまりにもいろいろと詰め込んでいるものだから、ハリウッド的な脚本の合理性とは対極にあるのです。

 いろいろと詰め込まれている理由はひとえに、原作小説の要素をなるべく盛り込もうとしたからではないですかね。でも、原作小説を持つ映画にありがちなこととして、結局何を見せたいのか、それを見せるためにどの部分を押してどの部分を引くのか、が見えづらくなっている気がしました。なんていうか、要素の強弱がどうも把握しづらい。そのせいでサスペンスが持つ娯楽性が出にくくなっている気がしました。
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 で、内容についてなんですが、これは謎が明かされていくような話でもあるんで、一応未見の方にも気を遣いつつ話すと、ちょっと難しいですね。主人公は最愛の妻と仲むつまじく過ごしていたのですが、あるとき暴漢に襲われ、妻も殺されてしまいます。ところがその八年後、一通のメールが届き、そのリンク先の映像には死んだはずの妻の姿が映されていた、とまあこの辺から話が転がるわけですね。
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 で、いろいろな人が出てくるわけです。なぜか妻の存在を追っている謎の集団みたいなのが出てきたり、妻と過去に接触した人間が殺されたり、その容疑者として主人公が警察に追われたり、いろいろと出てくる。
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 ただ、どうもひとつひとつが頭に残りにくかったです。
 いろいろ詰め込んでいるから、さらっと台詞で済まされることが多かったりするし、しかもわりといっぺんにいろいろ喋ったりするために、あれ、何がどういうことなのだっけ、と戸惑うことがありました。わかりやすいところでいうと、序盤、主人公のもとに警察がやってきて、「奥さんが昔殺された場所の近くで、先頃二つの別の死体が出てきたんです。奥さんの件と何か関係があるかも知れません」みたいなことを言います。でも、この「二つの死体」は刑事の口からさらっと言われるのと、新聞記事として二秒くらい映るだけで、その映像は出てこない。作り手としては、「はい、ここでこういうことを言っています。後々の展開にも筋は通っています」ということなのだろうけど、印象に残らないんです。

印象に残らないということでいうと、主人公を襲う謎の集団、その親玉、動機、その周辺です。やっぱりミステリー、サスペンスの醍醐味ってひとつに、「ああ、あいつがこうだったのかあ!」とか、「ああ、あれがここで効いてきてこうなるのかあ!」というものだと思うのですけれど、その快楽が実に乏しい。要するに伏線ということですね。要素はばらまいているんですけど、印象に残らなければ伏線として機能しない。二つの死体もそういうことです。まあ、「印象」というものそれ自体が個人的な感覚ですから、いやいや自分には十分印象的に映ったぞという方もおられましょうが、ぼくには詰め込みすぎて複雑化して、描くべきことを絞れずにいた気がしてならないのです。

それより印象に残ってくるのは、R&BみたいなBGMががんがんのシーンだったり、移民たちのいざこざだったり、そういうほうなんですねえ。あの辺にこってり感を覚えます。で、そこでも詰め込みよったなあというのがあって、主人公を助ける白人のおっさんですね。あれ、動機弱くないかなあ、あそこまでするってのは、どうも腑に落ちないというか、もうちょい説得力あってもええのに、なんです。原作ではあるのかも知れないけれど、強引にぎゅぎゅっと詰め込んだ感が非常に強いです。
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クライマックスはある人物と主人公の対峙するシーンなんですけれど、ここもしゃべりが長くて、いろんなことを言うので、正直ぼくは流れを追うのがしんどかったです。ああ、この人の話だとこの人物が鍵を握っているのね、でも、その人物について今までぜんっぜん描写されてこなかったから、あいつだったのかあ感がないんだよね、ということです。 変な例えですけど、学校でも職場でも、自分がそこに来る前にいた人の話をされている気分ってわかりませんか? 周りの人にとっては知り合いでも、自分は知らないみたいな。
「ほら、一昨年の夏にさ、タマさんが石黒さんに怒られてさ」「ああ、タマさんねえ。だってもともと石黒さんとタマさんってあんまり合わなかったじゃないですか」「だけどタマさんってわりといい加減っつうか、仕事荒いとこあったじゃん。石黒さん、タマさんがいないときに結構文句言ってたもん」「ああ、はいはい(笑)」
みたいなことを自分以外の人同士で延々と話されて、自分だけが(うわあ、俺、タマさんも石黒さんも知らねえ。ついていけねえ、面白くねえ)みたいな気分になるあの感じです。

 映画でも、実はこいつがこんなことを! 的なのがあるんですけど、そいつの話それまでぜんぜん出てこなかったじゃん。もっと手前で、そいつのいい感じエピソード放り込んでおかないと、あっと驚くことにはなり得ないじゃん。で、そいつがいる前提であれこれ話されても、あとはもうごちゃごちゃするじゃん、っていうね。どんでん返しっていうかオチっていうか、そのための印象づけが果たされていない。同じことばっかり書いているようですが。

 けなしトーンになるのは避けたいのが本音です。だから、情報をさくさく飲み込んでいける人、カットの切り替えの早い映画が好きな人にはお薦めと言いたいところです。そして個人的な見方でいうなら、もっとシナリオの要点を絞って、描写も無駄を省いて、ハリウディッシュに仕上げるほうが面白くなるんじゃないか、という風に思いました。ここはやっぱりハリウッド的なわかりやすさ、それが支える娯楽性に惹かれてしまう。あれだけ情報量詰め込んで中心をくっきりともさせないで、その結果どんな美点が生まれたのか。何を訴えたいのか。恥ずかしながらぼくには見いだせませんでした。
 bang_x3さんには前回『モンガに散る』をお薦めいただいたにもかかわらずその良さがわからず、今度こそはと思って臨んだのですが、ぼくにはわからなかった。この映画の良さ、むしろお教え頂きたく存じます。そういう意味では、他の方々にもぜひご覧になって頂きたいですね。「いや、ぜんぜんありじゃないか?」という方に学ばせてほしいのが本音なのです。この脚本はまだまだ面白くなる余地が多分にあるとぼくは思う。削るべきところと強調すべきところの配合によっては、その見せ方次第によっては、おう、面白い映画だ、とぼくは言っていたと思うんです。だからリメイクする価値もあると思いますね。
 未見の方はご覧になって頂いて、自分の感じ方、サスペンス劇の捉え方を確認してみるのも一興ではないでしょうか。
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by karasmoker | 2012-04-29 22:00 | 洋画 | Comments(2)
Commented by bang_x3 at 2012-04-30 13:43 x
早速リクエストにお応え頂きありがとうございます。
あらら、またしても駄目でしたか。こうなると時間を無駄にさせてしまっているようで申し訳ないです。

なるほど詰め込みすぎですか。僕は、テンポよく進んでいったのでそういう印象は持ちませんでした。伏線についても十分効いていたと思います。が、これはおっしゃる通り個人的な感覚ですものね。
ただ、ギャングのニーチャンの動機はあれでいいとおもうのですが。アウトローな人達は受けた恩は必ず返す、という定番のパターンで気持ちよかったです。
この映画を僕が気に入った最大の要因はRomanticだという所です。子供の頃から変わらない関係、二人の思い出の場所、そこに彫られた・・・たまりません。
と、ここまで書いていて思ったのですが僕の好みはガキっぽいのかもしれませんね。
Commented by karasmoker at 2012-04-30 23:33
 コメントありがとうございます。
 多くの場合、映画の美点を見いだせぬときはそれを観る者に責任がある、というのが今のぼくの考え方であるため、bang_x3さんにはなんらお気遣いいただく必要はございません。現に本作はセザール賞の監督賞を受賞しているわけで、ぼくの見方が甘いとも思うのであります。
 ぼくは元来、ハードボイルドものやスピーディーなサスペンスとかがあまり得意でないのもあり、たとえば古き名作と謳われる『三つ数えろ』などもさっぱり楽しめず、あるいはヒッチコックのミステリーなどもいまひとつ魅力がわからぬという野暮天なのでございます。
 なおかつ、おっしゃるところのRomanticなるものにも入り込めぬ無粋な野郎でありますので、ああ、無風流な愚鈍がまた何ぞ言うておる、と笑っていただければオッケーなのであります。
予告しておきますと、『情婦』は褒めちぎりますので、ご安心くださいませ。
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