『戦国自衛隊』 斉藤光正 1979

おなかいっぱいにしてやるぞ、という作り手の心意気に感動。
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「あぁ、それ観てなかったんだ」シリーズ。リメイクもされている有名作品ですが、観ておりませんでした。

 原作小説やリメイク版はまったく触っていないので、その辺との比較をしつつ話を進めるような真っ当な真似はできぬのですが、これは大変面白く観ました。映画を観ながら久々に、おおう、わあ、と声を上げる体験をしたのでした。

 活劇として大変よくできていると思いました。黒澤をはじめとする戦国活劇に敬意を払いつつ、自衛隊という存在を映画に落とし込む。日本で戦争映画といえばやはり太平洋戦争ものになりますし、そうでなくても自衛隊の敵は大怪獣だったりするわけで、そのどちらでもないこの見せ方はシュールさと相まって実に映画として面白かった。時代考証うんぬんは正確ではないところも多々あるようですけれどもね、うん、そこはこの映画ではつついてもあまり実りがないんじゃないですかね、うむうむ。
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 千葉真一率いる20余名の自衛隊の部隊が、戦車やヘリ、船もろとも戦国時代にタイムスリップしてしまいます。これは映画のかなり早い段階からそうなるのでして、現代での平和な日常みたいなもんとかは省かれます。ぼくはせっかちなので、このような早々とした展開は好きですね。『バトル・ロワイアル』が好きなのは、もう冒頭からまがまがしさばりばりで行くところ。変なアイドリングをだらだらせずに、さっさと戦国時代の武将の一団と接触します。武将は後の上杉謙信、長尾影虎で、夏八木勲が演じています。
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 見せたいものが非常にはっきりしているのがとてもいいです。とにかくサービス精神に溢れている。敵からの急襲を受けたり、仲間割れが起きたり、ある軍勢に荷担して敵をやっつけたり、やってほしいことを全部やってくれています。おなかいっぱいにして帰らせてやるぞ、という作り手の意気込みが感動的なのであります。
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 部隊の中で、渡瀬恒彦がリーダー千葉真一に反目しています。どうやら過去に何かあったらしく、原作では語られているのでしょうが、映画では台詞でちょいと説明があるくらいで回想などもありません。もしかすると原作ファンには不評かもしれなくて、「あの過去を描かないと二人の確執が引き立たない!」的なことがあるかもしれないけれど、原作を知らぬ立場で言うなら、ぜんぜん問題ないです。この映画は『バトル・ロワイアル』に似ています。あれもこれも、いきなり不条理な場所に放り込まれて命を狙われる羽目になっているのです。で、大事なのはその空間での活劇のほうで、過去のごちょごちょは要らないのです。変に背景を造型して現実味を持たせようとすると、土台非現実的なこの物語がゆらゆらしてしまいかねない。だったら火薬も血糊もなんでもござれで、ばしばしやってくれてよいのです。もちろん背景の意味合いとかを読み取りたくもあるけれど、そこに重点を置くと今度は映画の濃度が低下しかねないのです。
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 で、その渡瀬が千葉のもとから勝手に抜け出し、俺たちの好きにやるぜと言って、その時代の女性を誘拐してレイプするなど好き放題やり始めます。これは自衛隊の協力をほとんど仰げなかったのが吉と出ているように思います。もしもこの映画が自衛隊からたくさん協力してもらっていたら、あんな風に自衛隊員を悪く描くことはできなかったのではないですかね。そこの思い切りがよい。いいこちゃん映画になっていない。

 やっぱりですね、たくさんの人間が不条理で危険な状況に置かれたとなれば、闇の部分というか、負の側面というか、そういうのをきちっと描いてほしいわけですね。そんな品行方正にやれないだろう、ひどいことを始める奴も出てくるだろう、という部分があることで、人間がよく描かれるわけです。その点で渡瀬は素敵なヒールでした。そしてこの映画はドンパチ活劇と見えながら、最後には暗い部分をちゃんと描く。あっぱれです。
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 重火器や戦車を要する自衛隊と、戦国の軍隊との戦い。
 ここはとても白熱するものがあって、日本映画でも屈指なのではないかと思います。非常に贅沢に描かれていると思いました。で、攻めと引きのバランスもいいんです。自衛隊側が手榴弾や機関銃で一斉に掃射したかと思いきや、今度は数で圧倒的に勝る敵方に押されたり、そうかと思えば戦車で突き進んだりして、ところが敵は敵で燃えさかる炎を積んだ荷車をぶつけて必死に応戦。互いが全力でぶつかりあっている様子が真摯に描かれております。武田信玄の軍と戦うくだりは活劇的快楽が十二分です。
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 別の映画を引くなら、『ブラックホーク・ダウン』もちょっと連想したんですね。あれもすごい映画でしたが、あれと似ているところがあるんです。というのは、不条理な中で目的もわからずにただ戦い続けるほかない、というのがあるんです。千葉真一は夏八木勲と仲良くなって、互いの戦功を約束しあってうんぬんみたいなのがあるにはあるけど、他の連中は非現実的な状況におかれて、ただ仲間同士が手を取り合って、何が目的なんだかわからないままに目の前の敵を倒すことにのみ全力を尽くしている。
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 活劇的な魅力が大きいのでそちらに持って行かれるけれど、ふと思うわけです。何のために戦っているんだ? というね。一応の理屈はつけられるんですよ。自分たちが天下を取って歴史を改変したら、その歴史の異常によって再び時空間に異変が生じ、帰れるんじゃないか、みたいなね。でも、そんなの気休めの理屈っぽくしか響かない。だから何のための戦いなのか、よくわからない。
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 話はそれますが、『ブラックホーク・ダウン』なんかもその辺に感じ入りました。あれはソマリア内戦におけるPKOの介入を描いていますが、平和をもたらすために来たはずなのに、現地人は自分たちを見るや即座に殺しに来る。そんな中で目的がわからなくなる。はて、いったい何のために戦っているんだ? というね。お国のためとか家族を守るためとかそんな大義もない。ただ、戦わないと命を落とすから戦う。戦争の中で起こる意味の消失。その辺の不条理感も、映画に濃さをもたらしているように思います。
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 本筋とは関係ない、ちょっとした部分もぼくは好きでした。夜這いをするシーンとかね。ああいう、戦士としてではない、生身の男としての下卑た部分をちゃんと描いているのは信頼できる。それと、一切喋らない女性と隊員との恋ですね。あの辺はなんだか強引に持って行った感もあるんですけど、そんな中で女性に一切喋らせないのはよかった。あれね、喋らせるとあの展開の変さが気づかれちゃうんです。一切喋らせないことで、なんか最後まで雰囲気で持って行けちゃうんですね。あの辺は今の映画が見習ってよいところじゃないでしょうか。雰囲気でごまかしきった感があります。ごまかしきったので、いいです。
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 最後もいいですねえ。
 千葉真一がね、自衛隊のあり方に疑問を投げるようなシーンがあるんです。もとの時代に行ってもどうせ戦うことなんかないんだ、この時代だからこそ戦いに生きることができるんだ、みたいな。戦争に憑かれた男に成りはてるんです。でも、生き残った隊員が苦しそうに言うんです。「俺は嫌だっ。女房や子供がいるあの昭和の時代に戻りたいっ。あの平和な時代が大好きだっ」みたいなことを言うんです。これね、なんら修辞のない率直な思いとして、いいなと思うんです。「平和な時代が大好きだっ」っていうのが、なんか、すごく響いたんです。

 途中途中、現代の風景が挟まったりするんですが、それもくどくどしくなく、短く効果的に入っていました。現代の風景で、お祭りみたいなシーンで、戦国時代の戦いの様子を催しでやっていますみたいな場面があって、なんだかちょっと鳥肌が立つような、言いしれぬ気分になったりしたんです。劇中でも、敵の軍を見ながら隊員がぼそっと、「あの中に自分のご先祖がいたりするのかなあ」とか言ったりする。押しの演出一辺倒ではぜんぜんなく、ふっと引く瞬間を作り出す。なかなかの芸当であるなあと感じ入りました。

演出で引っかかったのは一点。音楽ですね。なぜだか妙に甘い音楽を流すんです。あれはあの時代としてはありだったんでしょうかね。今観ると、「なんでこの状況で英語の歌やねん」と言いたくなるところもあり、奇異な感じでした。まあ、それはそれでカルト映画的な要素になっているとも言えるのですけれども、

 とても見応えのある傑作でした。未見の方にはぜひにぜひにと申し上げましょう。
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by karasmoker | 2012-10-21 00:00 | 邦画 | Comments(4)
Commented by うぼで at 2013-02-17 07:36 x
鈴木京香さんも小学校卒業前に観て感激(?)したてリメイク版のパンフレットに書いてましたね。そういう映画だと私も思います。
Commented by karasmoker at 2013-02-18 23:13
コメントありがとうございます。日本らしさに充ち満ちた傑作ですね。
Commented by うぼで at 2013-05-15 21:23 x
先日景虎役の夏八木勲さんが亡くなりましたね。城からヘリコで脱出する場面怖くなかったのかな(笑)。この作品や「白昼の死角」での勲さんて光ってたと思います…。
Commented by karasmoker at 2013-05-17 23:48
コメントありがとうございます。
夏八木さんに限らず、亡くなった俳優が映画に出ていると、なんだか不思議な気持ちになりますね。ああ、もうこの人はいないのだ、と思うと、なんとも、いやはや。
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