『バグダッド・カフェ』  パーシー・アドロン 1987

この手の映画には哀しさがほしいのです。
d0151584_840186.jpg

原題『Out of Rosenheim』
 1980年代終わりの日本(おそらくは東京)でミニシアターブームを引き起こしたと言われている作品です。前から名前だけは知っていたのですが、どんなもんかいのうと思って観てみました。

 タイトルにあるバグダッドカフェとは映画に登場するモーテルの名前ですが、舞台はアメリカの砂漠地帯で、観るところイラクとは何の関係もありません。何か深い意味があるのかもしれませんが、これはむしろ日本の街角にもあるような、「喫茶 パリ」とか「スナック モンテカルロ」とか「ホテル イスタンブール」とかそんな感じの店名だと捉えたほうが、むしろ風合いを感じられるようにも思います。

大まかな印象から言うと、これはもう風合いをどれだけ感じたかということに尽きるんじゃないですかね。ぼくは実はそれほどぴんとは来なくて、方々のレビウを散見したのですけれど、どれもこれも映画の印象を褒めているようなものばかりです。1980年代終わりの東京では、なんかこれを褒めたほうがもてるんじゃないか、少なくとも『ロボコップ』とかを愛でるよりはるかにもてるに違いない、と思った男が続出したことでしょう。かく言うぼくだって、たとえばその時代に大学生だったりして、小粋なガールを連れて映画を観に行ったとなれば、無理矢理にでも褒めまくってハイセンスを気取ったに違いないのです。
d0151584_23422515.jpg

ストーリーはというと、ドイツからアメリカに来ての道中、太ったおばさんが夫と仲違いし、一人バグダットカフェに泊まるところから始まっていきます。このモーテルを仕切っているのはいつでもぷんすか怒っている黒人の面長おばさんで、急に訪れたドイツおばさんを怪しんだりもするのですが、いつしか打ち解けて家族ともどもハッピッピー、という映画です。
d0151584_23423555.jpg

 大した出来事が起こらず、日常の変化を淡々と追っていくような映画、でいうと、ぼくはここで幾度も述べているとおり、アキ・カウリスマキが好きなんです。風合いということでいえば彼の描き出す世界がなぜだか妙にしっくりと来るのでして、それをちょいと思い出したりもしました。で、それと引き比べるのは違うのだろうと思いつつ、どうしてアキ・カウリスマキがぴんと来てこの映画はそんなにぴんと来ないのかなというと、これはわかりました。うん。
d0151584_23424662.jpg

 あのー、うん、この映画は哀しくないんです。
 ぼくが惹かれなかったのはそこですね。哀しい感じがどうも足りない。
 別にこの映画が悪いんじゃなくて、というか一部で絶大な支持を得てすらいるわけで、この映画はこれでいいのだと思うのですが、ぼくにはもっと哀しみがほしいなと思ったんです。
d0151584_23425751.jpg

 わりと事がとんとん運んでいくんです。最初はぎすぎすしていたモーテルの中、そして素性知れずで怪しまれていたドイツ人女性、そういう初期設定があるのに、彼女がとんとん受け入れられていって、最終的にはモーテルで手品ショーを開いて大盛況、老人男性とも恋が芽生えて、結婚して永住権も獲得できちゃうのかな、という展開。寂しい風景があるにもかかわらず、哀しみが足りない。
d0151584_23431025.jpg

 これはそういう映画じゃないんだ、哀しみなんか要らないんだ、と仰る方はそれでよいのですけれど、別の言い方をすれば、背景がないんです。主人公のドイツ人女性にしても、彼女がどんな人間でどういう生を歩んできたのかが見えないのです。
 冒頭、アップテンポなカットで刻んで、彼女が夫と別れる場面を描くのですが、なんであんな描き方なのか、あの手法がどういう効果を生み出すのかがぼくにはよくわからなかったんです。
d0151584_23431851.jpg

 いやそりゃ確かに、激しい口論と喧嘩があって、けばけばしいメイクとぴちぴちの服装をまとってという部分で彼女のある種の荒みが描かれ、それをあの場所で癒されていくような展開というのもわかるんですけど、そこで気にかかってしまうのが主題歌の『Calling You』です。なんかちょっと幻想的な感じなんです。あの主題歌はすばらしいですね、というレビウがちらほら見受けられたのですが、ぼくにはこれまたわからなかったです。まあ、それがわからないというのは、つまりぼくがこの映画の魅力、よい見方を決定的にお見それしているということなのかなと思いますが、あの仰々しい、神々しい感じの曲と僻地における彼らの日常がどうシンクロしているのか。ぼくにはわからないのでした。
d0151584_2343302.jpg

 などと言いつつも、確かにずうっと観ていられる映画ではあるんです。風邪気味でぼうっとしていたのもあるかもしれませんが、なんだかずっと観ていられました。その点で言うと、この映画の風合いが自分にはびびびっと来たぞ、という人の気持ちもわからなくはありません。
d0151584_23434954.jpg

 ぼくはこうした映画に対して、「哀しみのおもり」を求めてしまう。もちろん、寂しげにピアノを弾き続ける少年や、彼がつくってしまったという赤子の泣き声などは哀しみを担うものであるけれど、そこはそんなに膨らむこともなく、マジックショーシーンは多幸感に充ち満ちていたりして、哀しくない。そんな感じでした。

自分の感じ方を確かめる意味でも、観てみるとよいのではないでしょうか。
[PR]
by karasmoker | 2012-11-04 00:00 | 洋画 | Comments(9)
Commented by pon at 2012-11-05 23:45 x
こんにちわ。この映画に哀しさを見る?何故?この映画にわざわざ哀しさを見ようとしたのが間違いじゃないでしょうか。この映画はむしろ自分の中に既にある哀しさを埋めてもらう為にみるのぢゃないでしょうか?そうすれば、午後のまどろみのようにどことなく幸せな気分になれて、耳の奥に「コーリング・ユー」が耳鳴りのように残る、そんな映画です。当時このテーマ曲に衝撃を受けて、ジェヴェッタ・スティールという聞いた事が無い歌手のアルバムを探し歩いた結果「バグダッド・カフェ」のサントラしか入手できなかった事を懐かしく思い出しました
Commented by karasmoker at 2012-11-06 02:09
コメントありがとうございます。
 映画は観るタイミングもありますから、違うときに観たらまた別なのかなとも思いますね。
 ただ、この映画に限らず、ぼくはもしかしたら映画全般に対して、哀しみや痛みを求めるたちかもしれません。その哀しみや痛みを核に据えつつ、希望を模索するような映画が好き、というかなんというか。劇中でカウリスマキについて述べましたが、同じフィンランドを舞台にした映画でも、『かもめ食堂』なんかには一ミリも反応できません。ぼくは、「ああ、こいつらはどうしようもねえなあ」「そして、だからこそたまらなく愛しいんだよなあ」という振り子を求めてしまうのですね。
Commented by pon at 2012-11-06 13:09 x
こんにちわ。カウリスマキは「ル・アーヴルの靴磨き」しか見た事がないのですよ。ハッピーエンド好きの僕にとってはおもしろかったです、でも管理人さんの嫌いな「かもめ食堂」の方が印象に残ったんですよね〜、あ〜ごめんなさい、怒らないで。なんか食べ物に弱い僕なんで(笑)。なので、管理人さんの印象を聞いてみたいんですけど、「ル・アーヴルの靴磨き」を語ってもらえませんか?それによって、カウリスマキの過去作を見る機会にしたいです
Commented by pon at 2012-11-06 13:50 x
ああ、ごめんなさい。今、調べたら日本版DVDは来年発売だそうです。
Commented by karasmoker at 2012-11-07 19:59
 dvdが出たら必ず観ようと思っています。
 『かもめ食堂』が印象的というのは実に瑞々しい感性でいらっしゃるなあと思います。そして、「『バグダットカフェ』を褒める人は『かもめ食堂』を褒めるのではないか」、そうでなくとも多くの場合、「褒め方がかなり似てくるんじゃないか」という仮説が浮かびます。
 カウリスマキはぼくも全作品を観ているわけではないのですが、『マッチ工場の少女』『過去のない男』『街の明かり』あたりが好きです。
Commented by callaswentaway at 2013-03-22 03:28 x
まぁ、哀しさが欲しいのなら・・・、バイオハザードシリーズでも観てなさい。私にはこの映画、実に痛くて直視できないぐらいのシーンがいくつかありますよ。
Commented by karasmoker at 2013-03-23 18:32
コメントありがとうございます。
Commented by ranopano at 2013-04-13 12:43 x
同じくこの映画にピンとこなかった身として、哀しみが足りないという評になるほどと思わされました。評判の良い「Calling You」は湿っぽくてベタっとして重たい雰囲気で効果的どころか浮いて聞こえたし、ホントこの映画は合わなかったです。
カウリスマキはまだ見たことがないのでこれから手をつけてみようと思います。
最近あまり更新されていないようですが、よかったらまた映画評書いてください。
Commented by karasmoker at 2013-04-13 22:41
コメントありがとうございます。
 映画と合う合わないは難しいですね。違う精神状態のときに観たらぜんぜん違うかもしれないし、「観る側はいつも試されている」のです。
 更新は気づけば二ヶ月ほど停止しているのですが、明日更新するかも知れないし、二度と更新しないかもしれない、という感じです。楽しみにして頂けるのはとても光栄です。ありがとうございます。
←menu