『ゴモラ』 マッテオ・ガローネ 2008

この手の題材の映画としては、頭ひとつ抜けている印象です。
d0151584_4353227.jpg

 イタリアの犯罪組織カモッラの有様を描いた映画です。海外の犯罪組織というと、「マフィア」という名詞がいちばんよく使われるものだと思いますが、マフィアというのはもともとシチリアから発祥したものなのです。カモッラはナポリから生まれたものであって、別の組織なんですね。だから本来、マフィアというのは一般名詞ではなく、もともと固有名詞に近いのでしょう。マフィアはアメリカで勢力を広げたり、政界に影響力を持ったりなどするうちに、概念のような形になってしまったわけです。
d0151584_438114.jpg

暴力団やマフィアについて書いてみようと思ったのですが、映画と離れたままかなり長くなるのでやめておきます。しかし、この映画を観たら、暴力団やマフィアが社会や世界にどのような影響を与えているのか、どういう背景をもとに生まれてきたかを考えたくなるはずです。「暴力団なんて法律で禁止して、なくしてしまえばいい!」「マフィアやカモッラみたいな組織は警察がもっと取り締まればいい!」なんて言いぐさが、本当に子供じみたものに過ぎないことを知らされます。
d0151584_435545.jpg

 本作ではカモッラに関係する人々、関係せざるを得ないがたくさん出てきます。それはカモッラに入ることに憧れている少年であり、不良の二人組であり、組織と構成員家族のつなぎ手であり、産廃業者であり、洋服の仕立屋であります。このような複数スレッド進行が、いかに地域と組織が深く結びついてしまっているかを効果的に示します。
d0151584_4361442.jpg

それぞれに言及していると一日仕事になってしまうのでさすがにできませんが、これはとても巧みな設定であるなあと思います。子供から大人まで、どの世代がどのように関係してしまうのかを綺麗に映し出していると思います。憧れを抱く少年などには、『ジョニー・マッド・ドッグ』の少年兵に近い背景を見いだします。この世界が奪う者と奪われる者で成立しているならば、奪う者の側に回らぬ手はない。ぜひともそちらに回りたい。そんな世界観が植え付けられてしまうのでしょう。彼がその通過儀礼として銃で撃たれる場面などはとても印象的です。暴力はよくないなんて道徳は、目の前で銃撃が頻発する世界では、意味のない理想論に過ぎない。
d0151584_4362822.jpg

 産廃業者のくだりも見るべきものがあります。これは日本にも通じる話じゃないでしょうか(というか、ほぼ同じような話が日本でもあるのは、よく聞くところです)。この辺が社会のどうしようもないところだなと思いますね。たとえばある業者が産業廃棄物を出してしまう。これを処理するうえでコスト削減のため、別の業者に外注する。そうなると
安い値段で処理を請け負う業者にお鉢が回る。しかしその安さが可能なのはまともな化学的処理を経ずに投棄してしまうからであって、そういった話は闇社会の勢力の温床になる。表社会に生きるもともとの依頼人は、「処理はお任せしているので」と知らんぷりを決め込める。環境を悪化させるような投棄など駄目だ、行政は何をしているんだと言っても詮ない。じゃあ自治体が請け負いましょう、というほどの金もない。こういう連関は先進国、途上国問わず起こることです。
 この映画ではさらにひどくて、子供たちにトラックを運転させて廃棄させる様まで描かれています。どこが先進国やねん、という話です。
d0151584_4364091.jpg

複数のスレッドにおいて、最も組織と縁遠いはずなのは、真面目な仕立屋のおじさんです。何十年にわたり洋服をつくってきて、職場でも信頼厚いおじさん。しかし、彼もまた無縁ではいられない。このくだりはとても興味深いものがありました。
 彼は会社の上司が無茶な注文を引き受けてくるのでいっぱいいっぱいで、しかも上司が信頼の置ききれない人間なもんだから、給金がまともにもらえるかも不安でならない。そんなとき、彼の腕を見込んで近づいてくるのは、中国系移民の仕立て屋。中国人は彼に対して、技術を分けてくれと頼み、十分な報酬を約束する。彼はおそるおそる、彼の工場へと出向いていくのです。
d0151584_4365527.jpg

 聞くところによると、21世紀以降、ヨーロッパで中国移民の増加率が最も高いのはイタリアだそうです。細かい背景はわかりませんが、伝統的にマフィア勢力が強いイタリアならば、治安的な面で考えても、不法(?)入国者が入りやすい土壌があるというのはイメージしやすいところです。ヨーロッパにおける移民問題、というのを織り込んでくるあたり、ああ、この映画は本当に地で行ってるなあと感じます。で、仕立屋さんの行動がどうして問題なのかと言えば当然、会社の技術を他の業者に売っているからですね。それも中国系の就労ビザもあるんだかないんだかわからない連中に売っているとなれば、これは許し難い。そこで登場するのがカモッラで、上司が頼み込み、「あの中国人の連中うざいんで、困るんで、どうかよろしく」と言えば、これを屠りにかかるわけです。真面目な仕立て屋おじさんはそんな状況に絶望することになります。スカーレット・ヨハンソンもこれまたとんだ使われ方をしたものです。
d0151584_437733.jpg

ぼくはナポリにもイタリアにも行ったことがないので、これがどれくらいにリアルなものなのかはわかりません。いや、現地に在住しているという人でも、これらの様相を熟知している人は少ないでしょう。それは日本のヤクザに関しても同じことです。
d0151584_4372139.jpg

 ただ、なるほどこれは確かに十分にあり得そうなことだ、と思わせるくらいに、泥臭いリアルさがあります。カモッラの構成員の人たちはちっとも格好よくない。任侠のにの字もそこには見出せない。三浦友和とか西田敏行が出てくる日本のヤクザ映画みたいに、ばちっと啖呵を切って格好よく決めるような有様もなく、ただ密やかに地域に溶け込み、そして浸潤しているのがわかる。アル・パチーノの演じたがごとき、組織の絆や家族との情愛みたいなもんもない。原作者はカモッラの報復から逃れるべく海外逃亡して保護されていると聞きますが、なるほどやばいものがここにはあるなと思わされる。まかり間違っても、テレビのロードショー枠では流せない。仁義なき戦い、どころか、そこには仁義なんて概念が端から無いかのような、乾いた世界が描かれています。
d0151584_4373273.jpg

ヤクザ映画、マフィア映画というのは数多くあるわけですし、ぼくはぜんぜん詳しい人間ではないですが、ちょっと頭一つ抜けている印象です。一切美化することなく、組織の内幕をドラマティックに描くなんてこともせず、いかに社会に溶け込んでしまっているかを、効果的に描き出しているように思えます。反面、こういうものを観ると、有名スターがいきっているヤクザ映画をあまり観る気にならなくなるので、その点でも注意が必要かもしれません。
d0151584_437521.jpg

[PR]
by karasmoker | 2013-01-16 00:00 | 洋画 | Comments(2)
Commented by クレ神 at 2013-01-21 08:42 x
正直、観終わった後「ふ~ん」という他人事のような感想しか出ませんでした。まぁ元々観客と距離をおいた作りなのですが、なんだか社会科の教科書を読んでるといいましょうか・・・。
それで、どうしてもこの手の映画には「ひぇぇぇえ~」というこちらが凍りつくような戦慄を求めてしまうのですが、それがリアルと言われれば何も言え返せなくなるので(笑)
まぁ、観るタイミングっていうのも重要ですね。


Commented by karasmoker at 2013-01-21 23:17
 コメントありがとうございます。
 映画は観るタイミングに左右されるし、映画は観る側の成熟度を試すのです。
←menu