『ゴーストライター』 ロマン・ポランスキー 2010

二時間かけて語られてもなあ、でした。
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 巨匠ポランスキー監督作で、受賞も多く、高評価の作品と見受けますが、ぼくにはどうもぴんと来なかったのが本音でございます。

 イギリスの元首相と、彼の自伝を書くことになったゴーストライターの話です。首相の名前は架空です。イラク戦争と思しき戦争にまつわる報道が出てくるのでいちばん近いのはトニー・ブレア元首相ということになるのでしょうが、イラク戦争に対するイギリスの政治的責任、とかそういう話にもあまりなっていかないので、それはそれ、「政治をめぐるサスペンス」みたいに観ればいいのですね。
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 ユアン・マクレガー扮するゴーストライターは、ピアース・ブロスナン扮する元首相と出会い、彼の自伝を書く作業を始めます。しかし、この首相が戦争時、捕虜の拷問に携わっていたぞ、という報道が出てきて、彼の身辺がにわかに騒がしくなります。そんな中でマクレガーは自分なりに元首相の過去をいろいろ調べ始めるのですが、その過程で首相の話したことと出来事のずれなどが発覚したり、前任のライターの不審死がきな臭いものに思えてきたりして、彼は「政治の裏」にどんどんと首を突っ込んでいくことになります。
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 うーん、ただこれねえ、中盤から「この程度の話になるなあ」感を覚えてしまうんですね。映画は二時間観るなら二時間の中で、やっぱりなんというか、何か考えの種がほしいんですね。もちろん、たとえ何も残らなくても二時間ばっちり愉しませてくれるものもいいんですけど、これはなまじ政治の裏の話とかしているんでねえ。だから、現実を忘れてその二時間を愉しめばよい、というものでもないし。そう考えると、政治に何の興味もないよ、という人ならいいのかもしれないですね。褒めているのはそういう人じゃないかなという気もしてしまいます。今のぼくは「ポランスキーのこの映像美学を観よ!」と言われても、そちらにはとんとインポテンツなので。

ネタバレーション警報。結末の話をしますね。
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 この映画に大きく絡んでくるのはCIAです。ざっくり言うと、CIAが(つまりはアメリカが)イギリスの政治を裏で操っているのだ! みたいな結末です。このマクレガーもそこを追及する形になっていくんですね。CIAと関係していると思しき人物が元首相との関係を隠していたりするし、その関係に触れたから前任者は死んだのだ、みたいなにおいをさせたりもするし。で、最後には、「首相の妻はCIAの人物だった!」というところでびっくりさせるみたいなね。
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この結末に至ったところで、ああ、やっぱりつまらない話になっちゃったな、と思ったんです。っていうかこの話って、日本人からすると、何の衝撃もない話じゃないですか。そんなこと言い出したら、こちとらずっとアメリカに操られているぞ! ってなもんですから。こちとら憲法も米国人製で、「戦力は、これを保持しない」はずだったのに、朝鮮戦争があって保持することになって、その結果違憲状態のまま半世紀以上が経過したぞ! この国の保守は親米がメインなんだぞ! なんか知らないけど親米的な内閣ほど長続きしてきた国だぞ! 日本の従米・属米をなめるな! ですから。だからねえ、イギリスがアメリカに操られているのだ! って言われてもねえ、なんです。
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そもそもぼくはどうもこの、「操ってる系」の話、「陰謀論的」とでも申しましょうか、この手の話が好きじゃないんですね。

 わかりやすいんですよ、陰謀論というのはね。この世界には絶大な影響力を持つ組織なりなんなりがあって、世界はその組織の考えで動いている、みたいなのってわかりやすいじゃないですか。でも、それはちょっと見方が拙い気がしてならないんです。実態なんて何もわからないぼくですが、要するにアメリカにせよCIAにせよ、抜群に手回しがうまい国家、組織だと思うんです。いくつものシナリオのシミュレーションがあって、どこがどう動いてもいいように早めに手回しをしている。相手がぼんやりしているうちに早めに動いて、自分たちがうまくやれる方向に仕向ける。そういうのがうまい国だと思うんです。

 その外交能力、処理能力にめちゃめちゃ長けているんだと思う。だからこそ、傍目からはすべて彼らの仕組んだことに見えてしまったりもする。アメリカがどこそこの国と実は裏で手を組んでいるんだ、とかいうのは、「手を組む」じゃなくて「手を回す」が正確なところじゃないかと思うんです。向こうの国がこう来たらこう返す、こう出てきたらこのように対処する、あちらがどのように動いてきてもこちらの国益を損なわないように準備しておく、みたいな構えがあるんだと思うんです。そういうことをまるで考えない人たちが「陰謀」という話に飛びつくんじゃないでしょうか。そこで考えるのをやめれば楽だから。

 この辺の話をすると膨らみますけど、政治的陰謀論って、「自分が不幸なのは世の中が悪いんだ」的な心性と結びつきそうなんですよね。誰々が悪いから自分は不幸だ、あの組織がこうだから自分は不幸だ。そう考えるとそこで楽になれるんです。でも、それはあまりにも単純だよねってことです。もちろん実際にそういう場合もあると思いますけど、こと国家同士の話になったときには、そんなに単純とは思えない。
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 陰謀論を膨らませてしまうのは、外交能力の無さを、あるいは自分の弱さを見ないようにするための、悲しい慰撫に見えたりもするんです。「仮面ライダーのいない、仮面ライダー的世界観」とでも申しましょうか。
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 映画から遠く離れました。そのうえでこの映画を考えるとね、やはりどうしても物足りない。ラスト、この映画における「衝撃の真実!」に触れた主人公が殺されたことを暗示して終わるわけですが、国家が個人の告発を握りつぶすなんて、もうそんなのいくらでもある話でしょう。政治運動をしただけで投獄される国だってあるわけです。そこをねえ、ラストに持ってこられてもねえ。敏腕きわまる国家の連中に対して、個人が闇雲に動いたらそうなるよ、というのは案の上の結果です。二時間以上あって、こちらの思考を何一つぶらしてくれない。
 
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 興味が湧くとすれば、この映画の結末に驚いたり満足したりしている人の頭の中です。 その人がどういう目線で、日頃政治というものを考えているのかには興味があります。 
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by karasmoker | 2013-01-28 00:00 | 洋画 | Comments(0)
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