『悪の教典』 三池崇史 2012

ショットガンの出てくる映画は、ショットガンに頼る癖がある。
d0151584_23502624.jpg


気づけば二ヶ月以上放置しておりました。近頃は映画をほとんど観ない日々を送っているのでございます。映画とのふれあいを強いて挙げれば、『バトルロワイアル』を繰り返し観て、なんて完璧な映画なんだろうとつくづく思い直す、というくらいのものなのでございます。パクリ疑惑が醸された『ハンガーゲーム』などを観て、これはとんだ駄作だと飛び上がったりしたくらいなのでございます。あとは近頃ゾンビものを観ようと思っているので、誰か教えてください。

 ところで、『バトルロワイアル』がえらいのはその作品中に、サービス精神が溢れかえっている点でございます。あの辟易するほどの長さを誇る原作から、映画にとって何が必要で何が不要かを適切に選別し、抽出している。構成もかなり几帳面にできていて、様々な地獄巡りを楽しめる。栗山千明のシーンと、女子たちの灯台のシーンはくりぬきで観られます。限られた上映時間内で、あのようなシーンをあの辺でぶちこむというのも、構成の妙が光っております。ぜひとも再見をお薦めする次第なのでございます。
d0151584_6434860.jpg

 さて、ほしたら近頃のんはどうかいのう、ということで、似たようなテイストも香っている『悪の教典』でございます。原作を楽しんだので、なるほどここはこう切るか、こう編集するかとあれこれ考えながら観てみたのでございます。『海猿』のヒーロー伊藤英明にサイコパスを演じさせるあたり、三池監督はやはり悪趣味で良いなあと思ったのであります。

 伊藤英明扮する高校教師・蓮見が、担当するクラスの生徒の大虐殺に踏み切る話です。映画的に言うと、どう転んでもそこが見せ場になるわけですね。そこさえオッケーならこの映画はもうオッケーなのです。上下巻ある長い原作では蓮見の過去や人間性であるとか、それぞれの生徒の背景や内面などがたくさん描かれますが、それをすべて入れ込むのは無理。だとするならこの映画ではクライマックスの虐殺がいかに描かれるかが勝負になってきます。

 その話は後でするとして、前半から中盤に至る日常描写はどうかといえば、高校生の描き方などはちょうどいい案配であったなあと思います。
d0151584_6441167.jpg

 二階堂ふみがますます宮崎あおいに見える本作ですが、彼女のちょっとべたっとした声色などはとてもいい感じであります。この作品の醸すちょいと暗い雰囲気によく合っている。友人のちょっと声が低い女子もいいですね。あの子のあの感じはなんだか、すっげえちょうどいい。『ヒミズ』コンビの染谷将太の小生意気な感じも存分に発揮されており、原作と違ってほとんど出番のない養護教諭役、小島聖のうさんくさい感じなども、この作品のテイストに合っている。
d0151584_6442842.jpg

 学校描写、生徒描写の場合、リアルかどうかなんてことよりも、その映画のトーンにどれだけ合致しているかが大事だなと思いますね。ちゃんとその枠の中に収まった振る舞いができているか。そこを考えずに今時の高校生像みたいなもんに寄り添おうとすると駄目なんでしょうけれど、この作品の場合はトーンと人物の温度がちゃんと合っているし、その点には何の文句もないわけであります。生徒たちがどこかAKBくさいところなども、ある意味とても正しい。蓮見と肉体関係になる女子生徒などは、昔のアイドルみたいな顔でこれはこれでよろしい。

 作品が進んでいく中で、いくつかの事件が勃発します。蓮見の正体に触れるような人が死んだり、厄介者が排除されたりするわけですね。この辺はねえ、うん、ちょっと難しいところがありますね。気に掛かるのは、殺される人たちに、「端からの負け役くささ」が漲っているところです。文句を言いに来る父親とかね。こいつら殺されるんだろうなあ、ああ、やっぱりやられたなあというのがね、盛り上がりのための段取りくさい。映画的にはクライマックスがあって、そこに向かうまでの盛り上がりが必須になるわけですが、その過程でちょっと段取り化している。いざ殺すところもささっと終わらせてしまったり、見せなかったり。こいつ生き延びるのかな、どうなのかな、うわ、やられちゃった、というドライブがないので、一方向的になるんですね。
 
これがこの映画の最大の弱点である気がします。
d0151584_6445048.jpg
 
第三幕としての時間はたっぷり取ってあります。四十分くらいありますから。
でも、その間伊藤英明が徹頭徹尾余裕の攻めなんですね。ここがもったいないところなんです。一方向的になる。クライマックスも半ば段取り的になっている。
d0151584_6451111.jpg
 
山田孝之扮する教師は原作の二人の人物を足して二で割ったような感じなんですが、原作ではそれなりに格闘するんです。これってとても大事なことです。別に原作との異同なんてどうだっていい。純粋に映画としての話です。やはり、伊藤英明はどこかで一度は追い込まれるべきなんです。そうすることで、映画に波が生まれるんです。その波が興奮を生み出す。ところがこの映画では彼が着々と殺していくことになる。 なんであれだけの尺をとって、山田孝之をあっさり殺したのか。ここにこの映画の弱点すべてが集約されている気がします。
d0151584_6452237.jpg

複数視点化するこのシークエンスをテンポ良く移動しているし、あの校外に出た女子生徒のように、「最期の台詞を言い終えられないまま死ぬ」なんてところも小気味よい。でも、でも、いやあ、難しいのですねつくづく。この種のクライマックスはひとつ選択をミスっただけで高く上がっていたボルテージが下がる。あの東大を目指している少年がそうですよ。あの場面であんな台詞のやりとりを入れると、熱が逃げてしまう。それに、これがどうにもわからないんですけれど、(あ、ネタバレをしますよ。というかもうしまくっているけれど)
d0151584_6453737.jpg

 どうしてあの「生存者二名いました」の前の段階で、二階堂ふみたちが生き残っているとわかるようにしてしまったのか。あれ、原作だとちょっと曖昧なまま勢いで読ませてしまうみたいなところがあるんですが、映画ならばあの警察のシーンで初めて明かせばよかった。そうしないと観客の思考が伊藤英明の思考を追い抜いてしまうんです。あれは後でネタをばらすようにしてよかったはずなのに。
d0151584_6454873.jpg

 この映画に限ったことではないですが、「ショットガンの出てくる映画はショットガンの銃声に頼る」という癖をどうしても持っていて、それと格闘する必要があるのですね。 ショットガンは確かに映画を盛り上げる最高の道具の一つだし、であるがゆえにそれなりにクライマックスは楽しめる。けれど、けれど、けれど。
d0151584_6455960.jpg

 この映画のもうひとつの弱点は、野蛮さに欠けるところです。
 野蛮じゃない。だから、シーンが焼き付かない。あれだけの凶行を並べながらそれは致命的です。どうも理に落ちてしまう。そうかと思えば二階堂ふみの目にCGを入れたり余計なことをする。そうじゃない。この手の映画に大事なのは、焼き付くような一瞬です。
d0151584_646953.jpg

 それが漲っているのがたとえば『バトルロワイアル』の全シーンであり、たとえば『プライベート・ライアン』の序盤であり、たとえば幾多のゾンビ映画であり、たとえば『リング』のテレビから出てくる貞子であり、たとえば『悪魔のいけにえ』における朝焼けのレザーフェイスなのです。何かひとつあればもうこの映画は何だってよかったのに!

 総じて言うに、細部はおおむねよく配慮されているのですが、一番盛り上がるべきところで大事なものが決定的に欠けていた、という印象です。既に古い話ですが、AKBの人がこの映画を嫌いですと仰っていたそうです。しかし、大丈夫です。嫌わせてくれるほどのものではございません。人のこと嫌いになるってのは、それなりの覚悟しろってことだからな。
d0151584_6461828.jpg

[PR]
by karasmoker | 2013-07-02 00:00 | 邦画 | Comments(9)
Commented by pon at 2013-07-04 14:19 x
こんにちわ お久しぶりですね あの「マック・ザ・ナイフ」の問答無用さは邦画では見た事がないなと思いました 三池監督は以前ホステルにちらっと出ていてそれを見た時にこいつはこんな映画を作るんじゃないかと思ってたんですよ それからショットガンの扱い方が妙にリアルでしたね上下二連ってとこがなかなかわかってるなと思いました 僕もあのラストはちょっと変だと思いました AEDの録音で主人公が窮地に陥るというオチならば、あの二人も生き残りそうで、やっぱりだめだったみたいな方がAEDが再生されたときのカタルシスが増したのにと思いました
Commented by pon at 2013-07-04 14:23 x
ゾンビ映画をご所望ということで何かご紹介しようと思ったのですが 管理人さんクラスの人ならゾンビ映画ベストテンに入ってくるような奴はほとんどみておられると思いますのでちょっと薄味なのですがこんなのはどうでしょう『デッドガール』 ヒューマン・キャッチャーに出てくる高校生達とどっこいのバカ学生達でイライラすること請け合いです8月2日からレンタル開始みたいです 後、王道の方はというと僕はゾンビ映画とPOV系の映画が大好きなんです、なのでREC1とREC2を一本の映画として見るというのはどうでしょう きっちりとお尻と頭が繋がっているので続けて見ると一作目のかったるい始まりと2作目の「これもう佳境にはいってるじゃん」感がぴったりとはまります REC3はもうコメディなのでおすすめしません あとロメロじいの新ゾンビ3本の中では「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」が佳作だと思いました
Commented by karasmoker at 2013-07-04 22:53
 コメントありがとうございます。『悪の教典』は正直、クライマックス以外がどうであろうと構わない映画で、あの第三幕にすべての負荷がかかるんですよね。そうなると呼吸も忘れてしまうようなものを期待するのですが、わりと小綺麗に収まっちゃった感じがします。
Commented by karasmoker at 2013-07-04 23:00
 ゾンビ映画のめぼしいところは一通り観ており、ロメロや『REC』はここでも取り上げたのですが、『REC2』は観たいのと違ったのでスルーしていました。一応観ておこうかと思います。あとは『ワールド・ウォー・Z』がありますので一応アンテナを伸ばしておきます。
 ところで、映画に限らず広くゾンビものといったときに、特殊能力を駆使して逃げ回ったり戦ったりというものは、何かありますかね? たとえば主人公だけなぜか襲われないとか、ゾンビを操って攻撃をかわしてしまうとか。そういうのがあったら面白いのになあと、最近ぼくは考えているのです。お時間があれば。
Commented by pon at 2013-07-05 12:41 x
こんにちわ ああ、ごめんなさいね 王道の2本は評価済でしたか しかも酷評されてるし(笑)僕はモキュメンタリーが本当に好きでモキュであればほとんど許せるというタイプなので失礼しました  でもRECは是非Ⅰと2を同時にめしあがってみて下さいw ところで「特殊能力を駆使して逃げ回ったり戦ったり」っていうのは「クロニクル」みたいなやつですか そうするとバイオぐらしか思い浮かばないですが 「ステイク・ランド 戦いの旅路」とかどうでしょうかゾンビじゃなくてバンパイアなんですけど見た目も機能もゾンビです 主人公は皆に尊敬される「ハンター」ですねそれに弟子入して旅する少年の話です ザ・ウォーカー+ザ・ロード+ゾンビみたいな話です キャラも熟女&ピチピチねーちゃんてな感じで僕的にはかなりおもしろかったです 思い出したらまたコメします
Commented by karasmoker at 2013-07-06 09:14
ゾンビものに一種の飽和を感じているのです。たとえばゾンビを撃退する武器はいつだって銃や鈍器になってしまう。もっと魔法的な能力のものがあってもいいのに、というね。いや、それは既にファンタジーの世界であるわけですけど、派手派手しいものではなく、現実世界に軸足を置いたうえでのそういうのがあってもいいのになと。あとは「終末世界で逃げ回る」にも飽和を覚えるんです。何か違う出し方が、もっとあるんじゃないかなって。『ゾンビーノ』的コメディとは違う方法論で。一人でいろいろ考えているのであります。
Commented by ローラ at 2014-01-20 20:57 x
むしろAKBのファンに遭遇したことがないんだけど 泣いてるのか?
Commented by mel at 2014-05-18 20:49 x
もともとバトロワが好きで、昨日悪の教典を見たので、同じように感じた人はいないかなと探し、こちらのページにたどり着きました。
とっても共感しました。悪の教典の話はとても面白いのに、生徒が全く反抗しないとか、色々先が読めてしまう展開に残念だなと思っていました。その点やっぱりバトロワは完ぺきでしたよね。
>人のこと嫌いになるってのは、それなりの覚悟しろってことだからな。
にやっとしました。
Commented by karasmoker at 2014-05-21 01:30
コメントありがとうございます。
バトロワの偉大さをあらためて知る作品でございました。
←menu