『オーディション』 三池崇史 1999

女子供向けではないホラーとしてお薦めします。
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何年も前に「三池崇史なら『オーディション』がよい」と薦められ、しかしレンタル市場にはあまり流通していないようで、置き去りにしていた作品です。某動画サイトでたまたまフルバージョンを発見し、観ました。無料動画サイトで映画全編が氾濫している現状は問題ではないかね、という話もあるわけですが、それを語り出すともはや映画の話ができなくなるので、回避します。

  Jホラー界隈の話題にはてんで疎いのですが、この辺の時代だと『リング』『黒い家』あたりが思い起こされます。『呪怨』のビデオが出たのも1999年で、国内のホラー映画界隈がにわかに活気づいてきた時代と言えるのかもしれません。その中にあって本作『オーディション』は、「知る人ぞ知る」的に埋もれているようにも見受けます。あるいはぼくが知らないだけで結構話題になったのでしょうか。ちなみに、原作は村上龍です。
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 石橋凌演じる会社員の男が、死んだ妻に替わる再婚相手を探そうと思い立ちます。それを映画会社に勤める國村準に相談すると、「映画の主演女優のオーディションをするから、そこで見つければよい」などと言いだします。そして、石橋は相手探しに乗り出すのです。
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  映画全体にはいかにも90年代の日本映画的な陰気さと、石橋・國村のおっさんくささが充満しています。それがある面でいい香料になっているとも言えます。商業的に見ればこのおっさんくささは決して有意ではないんですね。『リング』が話題になったのも、松嶋菜々子・真田広之のような美男美女に負うところが大きいわけです。でも、だからこそ『リング』にはどこか絵空感が漂ってしまう。ホラー映画の怖さを求めるなら、やはり登場人物にはある程度華がないほうがいいんです。

 その点で言うと今回のホラーな相手、椎名英姫はいい感じでした。石橋は再婚相手候補として椎名英姫に接触し、仲良くなろうとするのですが、彼女が恐怖の存在だったのです。後年、彼女は『東京残酷警察』で主演しますが、このときの活躍から見出されたんじゃないでしょうか。
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 顔立ちが、いわゆる美人という感じではないんです。何を考えているかわからない良さがありますね。ちょっと朝鮮系の顔かなあとも思います。本名かわかりませんけれど、名前の英姫も朝鮮風だし、在日の人でしょうか。ともあれ、映画の中で微妙な異物感が常に漂っているんです。石橋がザ・おっさんである分だけ、いい距離感が生まれている。
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  彼女の声がこれまた小さいんです。ぼそぼそ喋って、耳を澄まさないと聞こえないくらいの声で、それはそれで美点です。ホラー映画の演出として、効果的でした。ぼそぼそ喋ると、観客は無意識に耳を凝らします。そうやって映画の世界に入り込ませようという意図があったのならとても正しい判断でした。そういう演出をちゃんとやっているホラー映画は信用がおけます。逆に言うと、その辺に鈍感なものは駄目です。
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  映画の進み自体はかなりもったりとしています。いわゆる怖いシーンというのは序盤ほとんどない。ただ一部、明らかに狂気な存在を観客に示してもいて、そこで引っ張るスタイルですね。後半三十分で一気にアクセルをふかしています。
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 石橋凌が変な幻覚世界というか精神世界というか、現実を離れた空間であれこれ恐怖に遭遇する場面があります。今までほのめかしていた場所もそこで謎が解かれるような形式になっていて、ここがまず大きなインパクトです。正直な話、これだけだと、駄目なんです。あれ、変な方向行ったなあ、大丈夫か、と一瞬思わされる。しかしその後で、しっかりと現実に戻ってきて、物理描写で観客を再びびびらせる。
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 この辺では構成の妙を感じました。理に落とさないまま、観客をぐらぐらしたアンバランスゾーンに放り込んで、恐怖描写に出会わせるんです。かつての園子温的な野蛮さもありました。強いて言えばちょっとお喋りが過ぎているきらいもあって、単に絵で見せてもいいのにと思う瞬間もありましたが、見応えは十分です。石橋の体を椎名が動かす場面でも、ワンカットで取っていたりして、現実感を際だたせる。一回夢オチっぽくするのもあれはあれであり。

  韓国映画みたいな生っぽさがあったのも美点です。石橋凌のおっさん感と椎名英姫の異物感は韓国映画の風味に似ていて、昨今の日本映画にはない生臭さがあります。
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 ラストはよくわからないですね。石橋凌の高校生の息子が帰ってきて、おや、ここに来てツイストをかけてきたぞという展開になる。彼もえらい目に遭うのかと思いきや、椎名英姫の攻撃がかなりしょぼいんです。ぐだぐだじゃないんですけど、それでええんかいと思わなくもない。ただまあ、ある意味ではリアルっちゃリアルなので、面白いんですが。

  日本のホラー映画の中では、上位に置かれてよい作品であると思います。一方で、『リング』や『呪怨』のように話題にならないのもわかります。こちらは女子供をほとんど置いてけぼりにしていますからね。女子供ではない方向けのホラーとして、お薦めいたします。

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by karasmoker | 2014-05-01 00:00 | 邦画 | Comments(0)
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