「ろくでなし子さん、逮捕」について。

 映画についての更新は休止中なのですが、世間の出来事について思ったことを書きたくなりました。今後も時たまそういうことがあるかもしれませんので、その際は気が向いたら読んでくらはい。


ろくでなし子さんという方は知りませんでした。今回の件で初めて知ったという方も多かろうと思われます。彼女は自分の性器の3Dプリンタ用データを頒布し、それが「猥褻電磁的記録」の頒布に当たるとして逮捕されたそうです。この件について、愚見を述べたいと思うのであります。

 思考の結論自体はまだ出ていないのですが、多少ネット上の情報を見聞して思うことには、「これをOKにしたら、裏ビデオもOKになるのではないか」ということです。

順を追って考えてみますに、まず排除すべきことは「芸術かどうか」という曖昧な議論です。芸術活動だからOK、というのは意味のない議論です。もしそれが通るなら、ぼくは今日から裸で街を歩いていいことになります。警察に咎められても、「これは芸術活動だ」で乗り切れるか。そんなはずはない。つまり、「芸術活動だから逮捕するな」というのは無意味な言い分です。この点について、過去の実績うんぬんというのもまた無意味です。ぼくが今から十年間、男性器のアートについてどんな活動をしてどんな実績を積んでも、裸で歩くことはできません。まずは、「芸術うんぬん」という議論を切り捨てます。

 ではなぜ逮捕されるのかと言えば、「猥褻物」を「頒布」したからです。「猥褻物を頒布してはいけない」という法律は必要なものであろうと思います。際限を設けることは社会にとって必要です。そこで問題となるのが、「猥褻物」とは何か、という線引きの問題です。

 猥褻なものの筆頭たるAV。これまでのAVでは様々な性的表現がなされてきましたが、「性器の無修正撮影」は今も昔も御法度です。肛門はよいのですが、性器は男女問わずアウトなのです。このラインが、逮捕に至る「猥褻物」か否かの完全な分かれ目です。たとえいかほどにくんずほぐれつの営みがなされても、いかほどに変態的な性的遊戯がなされようとも構わない。ただ、性器だけは映すなよ。これが警察による猥褻の線引きです。性器さえ映っていなければ、有償であっても可というわけです。この線引き自体に、ぼくは違和を覚えません。「どんなに淫らで変態的な行為でも構わない。その代わりに、性器だけは映すな」。この取引で、AV界と警察は渡り合ってきたのです。わかりやすい取り決めであると思います。

 では、女性器を模したオナホールはよいのか。男性器を模した彫刻など昔から溢れているではないか。といえば、これはよしとされているようです。つまり、「模したもの」であればよいのです。そのものでなければ、可なのです。

 ひとまず整理します。頒布すると逮捕に至る「猥褻物」とはすなわち、「性器そのもの」であると言えます。性器に似ていても、性器でなければいいのです。

では、「性器そのもの」であれば、逮捕されても文句は言えないのか。性器は「猥褻物」なのか。それはとてもデリケートな領域ですが、少なくともAV界はその線で渡り合ってきました。そうでなければ、これも猥褻、あれも猥褻となって、逆に表現の幅を狭められてしまうかもしれない。だからこそ、猥褻の対象を性器に絞り込んできたのです。そしてその線を越えた業者は逮捕されてきました。性器そのものが映っていますからね、文句は言えませんね、と。

 その線引き自体が不当である、性器が映っていてもいいじゃないか、という場合は、これまで裏ビデオとされてきたものも、よしとする必要があります。この点を留意して話を進めます。

 さて、ろくでなし子さんの件です。
 彼女は「自分の性器の3Dプリント用データ」を「不特定多数の人間に有償で」頒布しています。繰り返しになりますが、その意図や動機、実績などは無意味です。芸術活動のためかどうか、ということは何も意味がないのです(もしその理屈で許可できるなら、裏ビデオ業者も全員無罪放免です)。寄付してくれた人に限って渡している、という部分は弁護材料になりません。それが通るなら、その理屈で裏ビデオ業者も行けます。購入ではなく寄付なのだ、で通るものではありません。
 いよいよ本質的な部分に来ました。
「自分の性器の3Dプリント用データ」は「性器そのもの」に当たるかどうか、という議論です。はっきり言って重要な論点はここだけです。3Dプリンタという新規なものゆえに問題が複雑化しているように思われますが、それは既存の技術に置き換えて考えたほうがシンプルです。

2Dプリンタ、すなわち写真だったらどうなのか、と考えてみましょう。写真そのものではなく、ネガのほうがわかりやすい。つまり、今回の件はこれと同じです。

「自分の性器を映した写真のネガを、不特定多数の人間に売った」 

 さて、これは逮捕すべき「猥褻図画頒布」に当たるのかどうか。
 もうひとつ言うならば、「裏ビデオ」というのもいわば「データ」ですね。
 モニターで再生すれば性器が映るデータ。それを売ると、逮捕されるのです。
この路線で行けば、前例に照らして言えば、彼女の逮捕は正当であると言えます。

 しかし、3Dプリンタのデータは「性器そのもの」ではない、という立場に立つなら、この論は成り立ちません。彼女を擁護する人間はこの点に立脚して勝負する必要があります。彼女を擁護する人間の言い分は「あれは性器そのものではない」という立場を意味しています。問題は本当にこの一点です。

 中には、「あれは性器そのものだ。だが逮捕は不当だ」という人もいらっしゃるかもしれません。OK、であれば、ぜひ裏ビデオをも擁護してもらいたく存じます。いやあるいは、AVのモザイクを取っ払う方面の主張も重ねてお願い申し上げます。もちろん、別の「線引き」を提示する必要がありますが。

すごく嫌な言い方をしますが、AV界は今回の件を格好の試金石と見ているはずです。
「彼女の頒布したものは性器そのものではない。ネガやビデオデータとは異なる」という擁護派の主張が通るならば、AV界は新たなマーケットを生み出せる。すなわち、「有名女優の性器データを堂々と売れる」ことになるからです。元手が安く住む分、それなりに大きな利益が生まれることでしょう。くどいですが、それが芸術かどうかなんて話には何の意味もない。
 あるいは、女子大生やOLがちょっとしたこづかい稼ぎに、性器のデータを売るなんていう新たな地下マーケットもつくられることでしょう。顔を隠して匿名性を保持しつつ、顔以外の身体データを売って金を儲ける。そういったことも問題ないわけです。
 今回の件で彼女を擁護するのであれば、そういった可能性ももちろん許容する必要があり、そうした商品が定着しても一切問題ない、と宣言することになります。フェミニズム的に彼女を擁護する向きもあるようですが、この点ご一考いただくのがよろしかろうと思います。今ここで彼女を擁護すれば、性の商品化はいっそうその土壌を広めます。ぼくとしてはそれでも何も問題ないですが、フェミニスト的にどうなのかは疑問です。

彼女の逮捕が不当かどうか、ぼくにはわかりません。3D用データが性器そのものか、ぼくには結論できません。ただ、逮捕が不当であると主張する場合は、その影響も加味したうえでのほうが、よろしかろうと思います。

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by karasmoker | 2014-07-16 07:07 | 社会 | Comments(9)
Commented by go-low at 2014-07-16 17:08 x
ツイッターから来ました。僕も今回の件には思うところがあり、呟いたりしましたがkarasmoker様の考えの方が、より掘り下げられております。一応僕の考えを書きます(アートか猥褻かの議案は判断出来ません)。この件は「その歌を歌うな」と言われた者が「私の歌を歌わせろ」と主張するので在れば、共感し賛同もしようかと思って居たのです。が、署名活動の文面によると「芸術活動の一環」らしく、そこは賛同出来ませんでした。「この本を出版させろ」「この映画を上映させろ」「このAVをこのままのカタチで販売させろ」等等の主張に手放しで賛同するつもりは在りませんが、耳を傾けることは出来ると思うのです。
Commented by golow5060 at 2014-07-16 19:17
(続き)僕が共感しつつも署名にサインしなかったのは上で述べた「私の歌を歌わせろ」ではなかったからです。どこで自身の立場を分つのかは(なかなか伝わりにくいのですが)その一点だけです。歌を禁じられて銃殺された人が居る。禁書処分の末に投獄や処刑された人が居る。そのような事態を目の当たりにしたなら「歌わせてやれ」という気持ちが自分には取り敢えず起こるのです。それが「芸術の弾圧」とか「表現の自由」とかを持ち出すのは、少なくとも僕とはちがうなあ、と。 長々とすみませんでした。なにか御意見を頂けると有り難いです。では。
Commented by karasmoker at 2014-07-17 01:23
 コメントありがとうございます。
 この件について、署名というのは一切する気が起こりませんでした。「芸術」だの「表現活動」だのという議論には意味がないからで、ぼくはあくまで「線引き問題」だと思います。たとえば擁護者は「あれは猥褻物ではなく芸術だ」「警察の恣意的な判断だ」と言いますが、彼や彼女は他方で、「裏ビデオは猥褻物だ」と恣意的な判断をするのでしょう。どのみち判断など恣意的でしかあり得ない。釈放を訴える人は、はっきり言って今回はかなり分が悪い。本文で述べたように、これを無罪にすれば性的市場はさらに広がる。商品化は加速する。それでも構わない、性は開放されるべきだ、というならそれまでですが、じゃあ線引きは誰がどう決めるのか?
 残念ながらぼくは今のところ、彼女の擁護者にはなれないのです。
Commented by karasmoker at 2014-07-17 01:27
「彼女の逮捕は見せしめ的だ」と警察を批判する意見にも疑問です。
ある程度見せしめ的にやるのは当たり前。風俗店の摘発にせよ芸能人の薬にせよ当たり前。目立つ存在を突くことで、類似犯の増加を防ごうと警察が考えるのは自然なことです。詳細な経緯まで知らずに話しているので恐縮ですが、今回の件については警察の逮捕にぼくは何の問題性も見出せません。表現の自由を侵害している? だったら裏ビデオが摘発されたときも同じこと言えよな、という話です。
Commented by golow5060 at 2014-07-17 17:30
返信有難う御座います。なにやら僕の浅い考えを露呈させたみたいで、恥ずかしく思ってます。karasmorker様の仰る言説には,ほぼ同意であります。上に述べたように「性表現を拡張させよ/縮小させよ」や「性産業に対する規制を強化させよ/緩和させよ」や「芸術ならば不問/猥褻ならば規制」等の判断、更に「作品としての優劣、巧拙、美醜などの評価」や「釈放の為の署名活動の是非」等の作品や運動についての判断、加えて取り締まる側の「妥当/不当」の処置に対する判断、これらの事を一先ず置いて先ず「言い分を聞こう」と言う姿勢を僕は採る。と、書いたつもりでした。自分でも表記を誤ったなあ、と思ったのが「共感」と書いた事です。共感よりも手前の「興味」位の動機でした。→
Commented by golow5060 at 2014-07-17 18:09
→karasmorker様と僕との考えで異なる部分をあげるとすれば「署名をする気」に成ったか否か、だと思いますが、その時点では「言い分」を聞きに行ったくらいの動機でした。結果、その主張に賛同出来ずサインをしませんでした。例えばもし、上で言われているような「無修正AV」の監督が逮捕されて「表現の自由」等を持ち出して「マ○コビロ〜ンやズッコンバッコンは私にとってはアートです」と言うような主張をしていたとしても「言い分だけでも聞いてみよう」と言う気持ちは起こると僕は思います。
言葉足らずでスミマセンでした。これからもなんでも記事にしてくださいね。
P.S ツイッターも休止なのですね。なにか思うところ在ったのでしょうか?  では、失礼します。
Commented by eaccess1979 at 2014-07-17 22:53 x
この事件について、ネット上で様々な人の意見を読みました。
karasmokerさんの意見が一番納得出来ました。
感情論ではなく、冷静に事の本質を言い当ててると思います。
要は「性器の3Dデータ」が刑法175条の「わいせつな文書、図画その他の物」に当たるかどうかですよね。
ろくでなし子さんの擁護者の方々には悪いのですが、
彼女が配布すべきはデータではなく絵画や彫刻のような作品化したものであるべきだったと思います。
Commented by karasmoker at 2014-07-18 00:01
golow5060さん、コメントありがとうございます。
メディアイメージに流されず、妙な同情にも与せず、言い分を聞いてみようというのがまずは始まりですね。当然、その場合は権力側の言い分も同時に考える必要があるわけです。
 ツイッター休止は、時間の使い方、ものの考え方を変えようという、ささやかな生活変革であります。
Commented by karasmoker at 2014-07-18 00:05
eaccess1979さん、コメントありがとうございます。
今回の件で「警察の横暴だ」とか「あれは芸術だ」とかいうのはあまりにも筋が悪いと思いますね。単に線引き問題、終わり、です。
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