『ゴッド・ブレス・アメリカ』 ボブキャット・ゴールドスウェイト 2012

ニューシネマを現代風にアレンジした快作だと思います。
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2235さんよりリクエストいただきました。ありがとうございました。







 諸事情によりまして、今回はキャプチャ画像がございません。非常にいいショットが多い映画なので残念ですが、ご了承くださいませ。

 主人公は冴えないおっさんです。離婚して独身生活の身の上で、妻に引き取られた愛娘もちっとも自分を恋しく思っていない。隣人は赤ん坊が泣き叫んでうるさいしで、面白くない生活をしているのが序盤でひしひし伝わってきます。

 序盤から好感が持てました。心地いい間なんですね。映画はテンポが大事ですけど、同時に間も大事で、この映画の間は相性ぴったりでありました。うじうじしている感じではありながら、演出はからっとしている。この映画の色合いはある種の作品群に似ていて、とても好きです。

 おっさんは会社勤めをしているのですが、そこでも同僚に銃を向ける真似をしてみたりして、どうにも周りに溶け込めていないんですね。で、傍にいた同僚に愚痴るんです。みんなくだらない話ばかりしていて何なんだと。芸能人のゴシップだのテレビの話題だのつまらない話ばかりで、ちっとも面白くないって。
 で、そんなおっさんはこの日、突然に解雇されてしまうんです。受付の女性がおり、おっさんは前々から親しくしていたつもりなのですが、どうも向こうは迷惑に感じていたらしく、コンプライアンス的にまずいみたいな感じで、クビにされてしまうんです。

 もうぼくはこのおっさんが大好きです。この哀れな感じがとても愛おしいというか、だって可哀想すぎるやんというね。別にこのおっさんが受付嬢に過度に入れ込んでいる様子もないんですよ。仲良くしたいな、くらいの感じなんです。でもそんな風に思われてしまって、周りとも馴染めずにいてというのが、なんかねえ、他人事とは思えませんね、はい。

おっさんは人生に絶望して死のうとするんですが、なんとなくテレビを観ていて、憤りを感じるんですね。女子高生スターみたいなやつがいて、そいつがあまりにも高慢ちきなのにむかついてしまう。そして、殺しに行くんです。

 これね、描き方次第ではとても危険なやつとして描けるわけじゃないですか。この絶望に満ちたおっさんを毒々しく描くこともできるんです。でも、そうじゃないところがこの映画の危険な美点ですね。テレビにむかつく奴が出ていた、ぶっ殺してやりたい、そういうなんとも単純で浅はかな考えは、それでも時折頭の中に去来する。それを実行してはいけないけど、この映画はそんな夢想でしかない夢想を描き出して、すかっとした感じを与えてくれます。

書きながら思ったんですけど、ゲームの『グランドセフトオート』みたいな快楽にも近いのかなと思いますね。あれなんかも道徳的に言えばめちゃくちゃですよ。街を歩いている人をぶん殴ったり、車で暴走したりひき殺したり。でも、そんな危険な営みにどこか憧れてしまうのも事実としてあって、このおっさんはそれを体現していくのです。

 その折り、ある女子高生に出会います。彼女は彼女でいかれているんです。おっさんが殺しを決行したのを見て、やったわ! みたいなことを言う。そしておっさんのモーテルを訪ねてきて、すばらしいわ、最高だわと興奮して飛び跳ねるんです。

 彼女のキャラクターがいいですね。ほとんどラノベみたいなぶっ飛んだキャラなんですけど、可愛らしくもあり、この映画がさらに好きになります。おっさんが自殺しようとしたときも、それをすぐ傍で見届けようとするんです。そのとき、「ちょっと待ってて」とビニールの衣装袋みたいなのを被り、「さあ、どうぞ」と言ってのける。要は血しぶきを浴びないようにという行動なんですが、すごくいい感じのぶっ飛び方なんですね。この造型と間合いは本当に言うことなしです。深刻ぶるより笑い飛ばしてしまえ、というコメディ的な部分がとてもよく機能している。

 この映画がすごいのは、本来なら最悪の行動を、むしろ楽しげに見せてしまうところなんです。先に殺した女子高生スターの家に殴り込み、両親まで殺害してしまうんですが、その動きをコミカルに描き出すんですね。不覚ながら、ぼくは彼女が母親を殺したとき、笑ってしまった。観ている側の倫理観を、ふとした瞬間に壊してくる。危険な映画ですが、なぜだかどこまでも愛おしいです。

この映画のよさとして大きいのはアメリカン・ニューシネマ的風合いですね。二人は自分たちを「ボニーとクライドみたいだな」というのですが、まさにそんな感じ。それでいてまったく嫌味がない。映画館のくだりはまさしく70年代的な秀逸さすら帯びているのであって、あのシーンは絶品でありました。

 ところで、ぼくはこんな思想を持っています。
「この世には無条件で殺していい存在がいる。映画館での鑑賞中に、携帯電話で喋り出すやつだ」

 おそらく多くの人々が密かに共感してくれると思うのですが、本作はそれを地で行きます。二人は映画館内では終始無言なので、余計な台詞無しで凶行が描かれる。ああいうのははっきり言って痛快です。

ぼくは映画館に行きません。いろいろ理由はありますが、そのひとつにはこれがありますね。マナーの悪い人間を観たとき、ぼくは殺したくなるんです。文字通りに受け取っていただいて結構です。いい年こいて映画鑑賞中のマナーを守れない人間がいたら、そいつを殺すのはぼくにとって正義であり、そいつが生きていること自体が赦されざる現実です。でも、そいつを殺したらぼくは悪になるわけです。これはおかしなことです。正義を行使できない現場に出会うことになるのです。そういう倫理的問題に晒されるのはあまりにもしんどいですので、ぼくは映画館に行かないです。別にそれだけが理由ではないですが。

「こんなやつってむかつくよね」と、二人が会話し続ける何でもないシーンも、観ていて心地いいんですね。銃の練習をする場面も素敵です。二人の間に性的な感じが何もないのがこれまたよくて、このおっさんが他人とは思えぬくらい好きですね。

 テレビを観ているシーンが地味なところですがお気に入りです。事件の報道がないじゃないの、どうなってるのと女子高生が憤る。それに対し、おっさんはこんなことを言います。
「現代っ子の問題だな。なんでも記録に残したがる。君は体験した。それでいいじゃないか。カメラで撮らなくても、自分の脳に焼き付けたらそれでいいじゃないか」
 これはぼくが感じていることとまったく同じです。この台詞って、自分の娘に対するものともちょっと掛かっているのかなと思いますね。娘は「ブラックベリーは嫌だ。iPhoneじゃなきゃ嫌だ」と泣きじゃくるんです。あの娘は腹が立ちますね。その分だけこのおっさんにまた惹かれるのですが。

わりと現代社会とか、政治問題みたいなのを盛り込んでくるんですね。同性愛差別の話とか、障害者を嗤う風潮とか。その辺の面白みもずいぶんと大きいです。この二人が愛だなんだにかまけて逃避行する話だったり、社会に反抗してやるぜみたいな話だったら面白さは減じたと思うんですけど、それとは毛色が違うんです。なんというか、まあ、観てもらうのがいいでしょうね。

 最後のほうの展開は気になりましたけどね、あの女子高生の背景みたいなもんは必要だったのかなあとちょっと思う。もう『テルマアンドルイーズ』的にぶっちぎっちゃっていいような気もしましたね。それと最後のシーンは、ぜひとも爆発させるべきだったと思います。せっかくダイナマイトを巻いてきたのに不発で終わってしまった。あれが爆発していたら、アメリカンニューシネマ的快楽は『バニシング・ポイント』のごとく、燃え上がっていただろうにな、とそこだけは残念です。

今一度、『俺たちに明日はない』を見返したくなりました。久々に、「ニューシネマの快楽」を味わった思いであります。

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by karasmoker | 2015-02-01 00:00 | 洋画 | Comments(5)
Commented by 2235 at 2015-02-01 21:29 x
リクエストさせていただいたものです。ありがとうございます。
私自身もこの映画を見た時好印象を抱いたのでkarasmokerさんも気に入って頂けたようで何よりです。

主役2人の距離間、映画館でのシーンは私もとても大好きです。
ラストシーンに関しては割とあっさりした印象でしたね。
というのもあの少女の背景にもっと踏み込んでほしかったというのがありますし。
ただ、あの障害者の少年のあの台詞が私には絶品だったので私としましては最後まできちんと楽しめました。

素敵な映画評をありがとうございました。
Commented by karasmoker at 2015-02-02 00:35
コメントありがとうございます。
いい映画を教えてもらい、感謝しております。
少女の背景については、ぼくは逆に一切踏み込まなくてよい、と思って観ていました。おっしゃるとおり、普通映画のキャラクターには背景がほしくなるものですが、それが気にならないくらいにいいドライブが掛かっていたな、と思ったのでありました。
Commented by pon at 2015-02-04 13:43 x
こんにちわ。見ました 面白かったです 冒頭のおっちゃんが赤ん坊をぶっばす所はあたりは相当期待しました でもちょっと違うんですよね このおっちゃんいい人すぎるんです 中盤からヒロインのカワイイ娘との旅がボニー&クライドを彷佛させて哀しい気持ちになっちゃうんですよ 言ってみれば映画として出来が良すぎるんです 明らかに作り手が「俺たちに明日は無い」にリードするあたりちょとあざといなと思ってしまうんですよね 洗車場で二人のカワイイはしゃぎ方とか中盤のヒロインのアリスクーパー賛美とかが可愛くて死んでしまうだろう二人を彷佛とさせてイヤだなと思ってしまうんです 名シーンだと思うんですがベッドでヒロインがおっちゃんに感謝すると無視されて「ふぁきゅーフランク」って言うとこでグッときてしまってこいつら死んだらだめでしょうって思ってしまう TV局で無慈悲にガンガン関係ない人を撃つのはいいんですが間違ってるとはいえグタグタごたくを並べたりいい気でバカなアウトローの域を最後まで出ないのがむしろ想像を越えないって思ってしまって 「殺すのに理由なんてないやバーカw」みたいな、僕の好きな「キチガイが不条理に狂い回る映画」とは一線を画す映画ですね この映画がラストで主人公達が何の改心もせず生き残って、またさらに殺人を繰り返すオチであったならブラボーでした でも映画としては面白い映画を教えて頂いたなぁと思っていて感謝してます これから続いて「スーパー!」を見ますw
Commented by karasmoker at 2015-02-05 00:14
コメントありがとうございます。
アメリカンニューシネマの様式はひとつに、「反抗と敗北」にあるのでありまして、「ああ、こいつらはラストに死ぬな」と容易に想像できますけれども、それはそれでひとつの様式ですから、ぼくはぜんぜん問題なかったです。キチガイが暴れ回る映画もそれはそれでよろしかろうと思いますが、ぼくはやはり悲哀とともに消えていく様が愛おしいのですね。『イージー・ライダー』で、デニス・ホッパーたちにそのまま荒野を駆け抜けてほしくは、ないわけです。
『スーパー!』は観ておりますが記憶はだいぶ薄れております。そろそろエレン・ペイジが鼻についてきたな、という印象であります。
Commented by pon at 2015-02-05 10:53 x
そのとおりですね(笑)
『イージー・ライダー』で、デニス・ホッパーたちがそのまま荒野を駆け抜けていく図を想像してしまって爆笑しました
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