『ディヴァイド』 サヴィエ・ジャン 2012

面白いけど脚本をもう一歩。それで二十点は上がるはず。
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ponさんよりリクエストいただきました。ありがとうございました。





今回皆様にリクエストいただいた作品の中には、この手のシチュエーション・スリラーがあまりなかったので、わくわくしながら観始めました。『悪い種子』はある意味でシチュエーション・スリラーですけれど、本作のようなアクション要素はありませんでしたし、昨今のぼくが摂取していなかった栄養素を供給してもらった感じがします。
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パッケージを観た感じから、これはさては9人が閉じ込められて、その中で殺し合ったりするアレだな、と思ったらなるほどその通りでした。まず冒頭一分の段階で閉じ込められて、さあ早速始めていこうぜ、という潔さがいいですね。変な前置きは要らないのです。
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マンションの地下シェルターに9人が逃げ込むんですが、外の世界で何が起こったのかよくわからないんですね。何も説明がない。そして序盤のほうで、防護服を着た謎の人間たちに襲撃を受ける。この辺のサービス精神はとても嬉しいです。
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襲撃されたときに、子供が奪われてしまいます。ここがねえ、この映画のひとつのポイントを示しているんですね。
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楽しめなかった人の中には、「外の世界はどうなったんだ」「あの防護服の人間たちが気になる」という声も多いようですが、そこはぼくは気にならなかった。理由は娘を攫われた後の、母親の反応です。普通だったら、「なぜ攫われたの」とか「あの子はどうなってしまうの」とか言うじゃないですか。観客の疑問を代弁させるのが常道ですし、普通の脚本なら絶対そこを書き込む。でも、この映画では、それを言わせないんです。その時点で、この人物たちにはなにがしか理由がわかっているのかな、と思えたんです。彼らの意識が外に向かないように仕向けている。観客の意識も内部に留めるよう仕向けているんですね。
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細かいことを言い出せばそりゃいろいろありますよ。銃を奪われているのになんで敵はあれほど無防備なんだ、先に溶接しなかったんだ、とかね。そこはもう駄目ポイントですよ、はっきり言って。でも、そこを除けばこの映画は、工夫がしてあると思う。あの娘にしたって、生死不明の段階では「助けなきゃ」という風になって、外に意識が向くじゃないですか。でも、あのインパクトのある絵を見せられると、「ああ、こりゃもう駄目だな」とひとつ絶望が与えられる。
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内部の物語として結構楽しめました。面白いから細かいことはいいじゃん、と言えるような勢いはあったと思います。刺激物も豊富だし、悪し様に言う気にはなれないですね。ただ、終盤になるとそうもいかなくなるのですが、ふむ、まあ、ふむ。

 結構真面目なつくりだと思いますね。食糧を独占したくなる地下シェルターの持ち主の気持ちもわかるし、子供を奪われて狂ってしまう母親もわかるし。登場人物の心の動きみたいなもんもちゃんと追っているんです。中盤で暴走する二人組がいるんですが、彼らが「あんたたちは人を拷問するのを楽しんだわね?」みたいなことを言われて、「いいや、あれはあくまでみんなのためだった」と答える。しかしその直後にまた暴走し、今度は坊主になって、いよいよ歯止めが利かなくなる。この辺の段階の踏み方には意識を置いていると思いました。
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ただ、坊主になった男のうち、一人が女装し始めるのはよくわからないですね。極限状態で精神状態がうんぬん、とまあそりゃ言いようはあるだろうけれど、なんとも前触れがない。それと、全員が描き切れている感じはないですね。視点人物となるのは女性で、その恋人がいて、もう一人、善玉キャラがいるのですが、この恋人と善玉キャラがあまり生かし切れていないのはもったいないところです。
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正直、終盤手前くらいまでならぼくは文句がないです。やつれていっている感じとか、悪玉に支配されている感じとか。書きながら思ったんですが、終盤の「どうかな?」という展開にも、肯定的になれそうです。

銃を構えた男が、悪玉二人に追い詰められます。観客は「どっちを撃つんだ、どっちかを撃て」と思いながら見守ることになります。一方、その二人の間に、「撃っちゃ駄目だ」と止める男がいる。彼は善玉で、いわば男の味方になれる存在です。
 そんな場面で、あろうことかこの男は、その善玉を撃っちゃうんです。これはものすごくアホな選択だけど、それまでの場面で、彼が精神的に支配されている演出があるんですね。犬の真似をさせられたり、卑猥な言葉を言わされたり、精神的に服従体勢になってしまっている。そういう状況も加味していくと、あのアホな選択にもなるほど道理は通っている感じがするんです。
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さて、褒めるのは大体褒めましたので、ここからはちょっと文句を垂れますが、まずあの火災ですね。ランプを落としただけであんなに燃え上がるのは変です。あれをしたければどこかの場面で、うっかり油を撒いちゃったみたいな伏線が必要でしょう。あれはもう、どうにか無理矢理ラストに持っていくためにやったな、というのが丸わかりです。少なくとも本作では、シェルター内部はリアルでなくてはならない。そこをずっと守ってきたのに、いきなり守れなくなったのがとても残念でした。
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あとねえ、これはその話が出たときからちょっと気になっていたんですけど、シェルターの持ち主が、「出口はあるぞ」って言っちゃうんです。え、と思いましたね。出口があるならさっさとみんなに教えて、出て行かせればよかったじゃないですか。食糧を独り占めしようとして、殺されそうにまでなったのに。ぼくは本作を好きで観ていたので、「出口はないのだな。地下シェルターだしそういうものなのだな」と思って寄り添っていたのに、あれで結構冷めます。なんで出口を隠していたのかがさっぱりわからない。
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女が男二人を捨てて逃げる、というのはいいです。そりゃみんなで助かればカタルシスになるけど、あれはあれでいい。そうならざるを得ない状況もあったし、信頼の崩壊もあったわけですからね。おまえが同じ状況になったらどうだ、と言われると、自分もああいう風に逃げ出すんじゃないかと思います。いや、逃げ出す自信があります。つくづく自分が小物であるなあと感じます。
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 ただねえ、ラストですね。お笑いにたとえると、「最後にひとボケあれば」という感じ。漫才のコンテストなんかで、審査員が「全体的によかったんやけどねえ、最後になんかオチを決めてくれたらもっとよかったねえ」と評する感じです。ラストで街中が崩壊しているイメージがどーんと出るんですけど、いやいや、そんなもんは何ももったいつける必要ないやないかと。初めからわかってたような話やでと。あそこでなんかもうひとつ、あの行動に出た女をさらなる絶望に追い込むようなことができたらね。

 たとえばこんなのはどうでしょう。
 攫われた娘が、人体実験によって奇怪な生物に変貌させられてしまいます。それを伏線にして、ラストでは崩壊した街中を、奇怪な生物たちが歩いているというような終わり方。ああ、あの実験はこの世界を生き延びるためのものだったんだ、とわかるみたいなやり方。
 思いつきなので、きっと何かを無意識にぱくっているんでしょうけど、とにかく何かしらのオチがほしいわけです。

 そうでなければ、あの女が暴走して、出口があると男に無理矢理吐かせたことにする。でも、実際外に出ようとしたら、永久に出られない肥だめの中を彷徨うことになった、とかね。そんなんでもいいんじゃないでしょうか。外の世界がどうなっているかの答えは、この映画の絶対条件じゃないですよ。『CUBE』みたいな映画だってあるわけですし。

 全体を通して悪くないのだから、もうひとつ頭を絞ってくれよと言いたくなる作品です。
 脚本をもう一段階詰めたら、二十点くらいは上がったと思うので、その点にはもったいなさを感じもするのでした。深夜、何も考えずにはらはらしたい人には、悪くない味だとは思います。


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by karasmoker | 2015-01-30 00:00 | 洋画 | Comments(3)
Commented by pon at 2015-02-01 13:52 x
こんにちわ。さっそく素晴らしいレビューありがとうございます 僕なら「あーこいつらむかつくわー」ですませてしまいそうですが流石に深く読み解きますね ちょと見てから日が経つので記憶が曖昧なんですが出口を内緒にしていたのは食料庫にあったトイレだったからじゃなかったでしたっけ?出口を教えると食料も見つかってしまうみたいな 僕は普通の映画人(作る側の人)のモラルを無視した映画が好きです 子供は殺されないとか悪い人は最後に死ぬとか そう言う意味では今作は以外な拾い物でした 良い母親が悪い奴にめちゃめちゃにやられるとかそれだけでブラボーです(サイテーな人間の言う言葉ですねw)でもこれはまだマシな奴だったのでこの次はもっとサイテーなZ級クソ映画を見つけたらお知らせします(笑) またよろしくお願いします
Commented by karasmoker at 2015-02-02 00:32
コメントありがとうございます。
出口の件は確かにそうでしたね。ただ、食料庫が見つかった以上はさっさと教えてやればいいのに、と思ったのです。ずっと居座られるよりいいはずじゃないかと。
 
 モラルに反した映画、というとこの次の記事で取り上げた『ゴッド・ブレス・アメリカ』はよかったです。
Commented by pon at 2015-02-03 00:47 x
はい 僕もレビューを読んで「おおこれは見なけりゃ!」と思いまして我が家の在庫(笑)を見た所有りました 英語字幕ですけど 同じテイストの「スーパー!」も見てなかったので一緒に見るつもりです 見たらまたコメントします
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