『エスター』 ジャウム・コレット=セラ 2009

チャイルド?プレイ
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golow5060さんよりリクエストいただきました。ありがとうございました。






原題『ORPHAN』
『悪い種子』と同様に、「悪い子供」の作品です。これはとても面白かったですね。
 
 タイトルにあるとおり、実子ではなく「孤児」エスターをめぐるお話なのですが、ある種のモンスター映画としても、またミステリーとしてもいいですし、三幕構成の段取りもきちんと追っている。映画として大変見所のある作品で、非の打ち所はないんじゃないでしょうか。
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 編集でどんどん切っていくのが功を奏しているな、と思いますね。突っ込んでいけば設定的に言いようはあるかも知れないけど、問題が起こってから次の展開までの、余計な説明をばんばん省いている。観ている側を引き込んでくれます。
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孤児を引き取る話だから子供のない夫婦かな、というとそうじゃなくて、先に二人、実子がいるんですね。こことのやりとり、距離感が面白いし、妹のほうが難聴であるという設定が利いている。とてもよく設計されている感じがします。妹を置いたことによって、エスターの大人っぽさが引き立つようになっているし、この妹が「無力の重り」として機能する。家族のバランスもよくできていて、とても優れた脚本だと思います。
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『悪い種子』というより、『チャイルド・プレイ』に近い感じもしますね。明らかな悪があって、でもそれは一見して無辜の存在で、告発者が悪者にされてしまうという構造はあの映画とよく似ています。この映画に元ネタがあるとすればむしろそちらでしょう。舞台も同じく、冬の雪の中に設定されています。
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好感が持てる点としては、こちらの予想を超えてくれたというところです。やっぱりどこか、子供が絡むと油断してしまうんですね。それほどひどいことにはなるまい、という感じでいたら、おお、ここまで突っ込むか、というのがあって、このエスターの底知れなさが観ている間中びんびんに漲っている。難聴の幼児、マックスをすぐ傍に置き続けたのがいいところで、彼女は常に死のリスクを負っているんですね。それがこの映画の緊張感をより引き立てる。
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 マックスが難聴であるというのが活かされる場面もあって、そこがまたいいです。もちろん、障害として彼女の弱さや危機を表すことにも使われるんですが、たとえばスーパーのシーンでは、読唇術をしてエスターを手伝ったりしているんです。他にも、これは一瞬ですが、母が深刻な話をしている傍らで、黙々と料理の手伝いをしていたりして、非常にうまく彼女の存在を映し出している。エスターの犯行を絵に描いて隠し持っているのも小技が利いています。
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 あえて難点を言うなら、完全にエスターにやられとるな、というのがあるんですけどね。兄貴が頑張るんですけど、ことごとくエスターにばれていて、いかにも引き立て役に回されている感はある。兄貴がマックスに「あいつはやばいやつだ」と相談するシーンでは、エスターの立ち聞きは見せなくてもよかったんじゃないかとは思った。でも、これは極些細なことです。子役の動きは全員見事です。
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 エスターの謎めいた感じを観客にうまく伝えていて、それがあの学校の聖書のくだりです。嫌な同級生に絡まれるんですが、彼女は異常な絶叫を見せます。エスターがどういう存在なのかを捉えがたくするため、巧みにぶらしていますね。決して冷静沈着なだけじゃない、という見せ方をするのは面白い。最終的な正体には素直に驚かされました。
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設定、脚本、演出、編集。その細部の設計に至るまでとてもよく練られていると思いました。子供同士のやりとりの一方で、夫婦間のぎくしゃくも映していて、家族全体の物語として綺麗に浮かび上がっている。ここをもっとこうすれば、と思わされる点はほぼ皆無であります。これはいいですね。あまりあれこれと言う気も起こりません。真っ当に面白い作品として、お薦めいたします。


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by karasmoker | 2015-02-11 00:00 | 洋画 | Comments(3)
Commented by golow5060 at 2015-02-13 04:22
レヴュー読ませて頂きました。karasmokerさんはこちらの一本がヒットされたようで、補助的にお勧めしたものですが楽しんで頂き良かったです。僕もこの映画に付いては良く出来ていると思いますが、ブラックライトをあてて不気味な絵が浮かび上がって来るシーンの見せ方が少し不満なのです。絵の内容はアレで良いのですが、蛍光色は自ずと明るくポップに見えてしまい勿体ないなあ、と感じました。あそこは映った瞬間だけカラーにして絵の詳細が解る場面ではモノクロっぽく処理する、とかの方がより不気味さが増すかと。(続く
Commented by golow5060 at 2015-02-13 04:36
続き)などと言う事も個人の趣味の範疇なので、完成度には影響ないでしょう。この『エスター』は伊集院さんの番組でくりいむしちゅうの有田さんが薦めてました。話の構成がお笑いの人が造るコントや漫才に近い様に思い、後からなるほどなあと納得しました。 リクエストに応えて頂きあいがとうございました。 追記/川崎市在住の男です。
Commented by karasmoker at 2015-02-15 22:42
コメントありがとうございます。壁の画のくだりはポップな色合いでいい、とぼくは思います。モノクロだといかにも陰惨な風味は醸されますが、それだと悪意や恐怖ばかりが現前してしまう。彼女の狂気を演出するには明るい色のほうが適切かなと思われます。話のつくりはとてもよくできており、あっぱれでございました。
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