『そこのみにて光輝く』 呉美保 2014

韓国映画を思わせる風合い。純文学の強さ。
d0151584_17071823.jpg
小野さんよりリクエストいただきました。ありがとうございました。







本作は2014年のキネ旬ベスト1に選ばれていますね。とりわけ2000年以降、キネ旬は在日韓国人の映画、あるいは在日の監督に票が集まりやすいように見受けます。李相日監督が『フラガール』と『悪人』で一位を獲っていますが、前者はまだしも後者はどうやったって、目の肥えたエイガミのお眼鏡に適うとは思いがたい。2012年のヤン・ヨンヒ監督作『かぞくのくに』に関するぼくの感想は、ここで既に述べているとおりであります。

 これはなぜなんだろう、本当に純粋に映画の出来で言っているのかな、それとも別の要因があるのかな、というのは気になるところです。断言しておきますが、ネット界隈で何かと話題になる、「在日外国人への敵意」のようなものは、ぼくは一切持ち合わせておりません。念のため。それに、本作が一位であることについて、なんら異論はありません。

さて、本作は在日三世の女性監督による作品で、原作は作家の佐藤康志さんの小説です。
佐藤康志さんという人は存じ上げなかったのですが、ウィキによりますと、1990年に41歳の若さで自殺しているのですね。5回も芥川賞候補になっているけれど結局選ばれず、他にも野間文芸新人賞や三島由紀夫賞でも、候補にはなったけれどそれまでという。この人を追ったドキュメンタリー『書くことの重さ 作家 佐藤康志』という作品もあるようで、是非観てみたいと思います。
d0151584_00375698.jpg
『書くことの重さ』のキャプションには、「中上健次や村上春樹とも比較されながら自殺した昭和の作家」とあるのですが、『そこのみにて光輝く』の映画は確かに、中上健次っぽい土着性がありますね。そして韓国映画っぽい。言語が韓国語だったら、これは韓国映画だと言われてもなんら違和感がありません。海辺の家なんて思い切りそんな感じです。

 物語自体を取り出せば特筆すべきものはないですが、描写の大事さというものをあらためて知らされます。純文学というのは物語的面白さより描写の巧さが問われるわけですが、本作は「純文学的な映画」のひとつの見本たり得るんじゃないかと思います。
d0151584_00375805.jpg
 描写と一口に申しましても、心理描写、風景描写など様々にありますが、やはり大事になるのは登場人物ですね。彼らの有り様というのがやはり中心になる。本作の主演は綾野剛と池脇千鶴ですが、この千鶴ちゃんはぼくが今まで観たうちでいちばんいいです。

適切な言い方かわからないですが、千鶴ちゃんは「汎用性が高い」ですね。いろんな顔があるというか、強さと弱さが混在しているというか、女優として理想的だと思うんです。少なくとも本作における千鶴ちゃんは百点であります。ああ、もうこの千鶴ちゃんがいるだけで大丈夫やな、と思わせてくれるものがありました。あらためて考えてみまするに、池脇千鶴という人は今いる日本の女優の中で、相当なトップクラスじゃないですかね。三本の指に入ります。あとの二人はいずれ考えます。
d0151584_00380154.jpg
綾野剛という人はよく知らなかったんですが、本作における存在感としてはこれまたちょうどいいですね。とびきりのイケメン、という感じでもないんです。ちょうどよくやさぐれているし、やる気のない感じが漂っていて、映画の風合いによく収まっている。この人が若い男の菅田将暉と出会うんですが、彼は彼で映画を明るく、テンポよくしてくれる。ここに菅田将暉のキャラを置いたのがとても適切です。彼は本作のMVPです。彼がいなければ完全に辛気くさくなる本作が、ひとつ「明るさの重し」になる。
d0151584_00380454.jpg
話としては、綾野剛と池脇千鶴が惹かれ合っていくことになるんですが、突然っちゃ突然なんです。明白な「好きすき光線」が出ていたわけでもないのに、海辺に行ってその直後、海の中でブッチューなのです。我ながら、なんて品のない言い方でありましょう。
d0151584_00380341.jpg
でもそのブッチューが何の違和感もないんです。この辺は描写の賜です。描写が物語を補う、描写そのものが物語をつくりだす。孤独で何にもない男が、しがらみに苦しむ女に解放を与える。特に台詞が多いわけでもないのに、なんとなく二人の距離感が見えてくる。

 ブッチューもそうですが、ラブシーンもわりとがっつり描いていますね。やっぱりね、特に日本映画の場合ですけど、ぼくは嬉しくなるんです。別にエロい場面だからじゃないんです。映画のエロシーンでおっきするほどのおぼこじゃないです。そうじゃなくて、「本気でやってくれているな」と感じるからなんですね。事務所が乳首NGを出していないな、というのが嬉しいじゃないですか。事務所の配慮よりも、映画の演出第一優先でやっているのが嬉しいのです。李相日の『悪人』がクソなのはそこです。深津絵里の事務所は映画を第一優先で考えていないですから。

性の要素がこの映画では三つ出てきます。ひとつには綾野剛との幸福な性。ふたつめは高橋和也との嫌な性です。高橋和也は千鶴ちゃんを愛人にしています。彼女の弟である菅田将暉の弱みも握っていて、だからこそ千鶴ちゃんは逃れられずにいるのですが、彼と千鶴ちゃんの車のシーンは絶品です。幸福な性を知った彼女が、嫌な性の嫌さに耐えかねる場面。物語図式としても真っ当です。高橋和也の佇まいも、うさんくさくていいんです。「社会的にきちんとしているおっさん」が抱えている暗黒面みたいなもんを、きわめてちょうどいい色合いで表現している。特別に暴力的なにおいがするわけでもないし、犯罪者の香りを漂わせているわけでもない。でも、飴と鞭を使い分けながらばっちり処世してきた人間のにおいだけは、たっぷりと醸されている。あの色はすごく絶妙です。
d0151584_00380683.jpg
 もうひとつの性は脳梗塞で寝たきりの親父です。寝たきりだけど性欲だけはあって、千鶴ちゃんが手コキで抜いたりしているんです。幸福な性、嫌な性とは別の、「どうしようもない業のようなもの」としての性。原作にもあるのでしょうが、あの重みは作品中で相当大きいですね。正直、先の二つの性だけだったら、ありふれているじゃないですか。好きな男と嫌いな男の話ですから。でも、そこにあの親父という要素もかませてくることで、深みがぐうっと増してくる。

d0151584_00381050.jpg

 綾野剛は菅田や千鶴ちゃんに比べると、それほど大きな障害に出会わず進んでいくのですが、彼に託された役割は「家族の構築」です。冒頭で、妹からの手紙で、「兄ちゃんは家族を持たないから」うんぬんと言われる。そんな彼が菅田と出会い、千鶴ちゃんと出会う中で、家族を持ちたいと考えるようになるのですが、この辺は『息もできない』だなあと思いますね。人との関係を拒んだ人間が、外に開かれようとしていく。
d0151584_00380817.jpg
 観ながら感じていたことですが、本作は『息もできない』に似ていますね。あれも、愛を知らない者同士が愛を見つけ合うというような話で、家族がひとつのしがらみになっている。女性のほうの父親が問題を抱えているというのも似ています。うん、本作が好きな人は『息もできない』がきっと好きだし、向こうが好きな人はこっちも気に入るはずです。
d0151584_00381297.jpg
 他にも細かい部分でいいところがありますが、全部言い出すときりがありません。物語的配置にしても、いろんな要素がよく絡み合っている。本作は日本映画よりも韓国映画からの影響を多分に受けていると思いますね。こんなことを言うとあれですけど、これからの日本映画は韓国映画に教わらなくちゃいけないんじゃないかと思ってしまう。そのほうが絶対いいものができる。もしかしたらそのような期待から、キネ旬は在日系の作品や監督に、高い評価を与えやすいのかもしれません。
d0151584_00381491.jpg
 これはとてもよかったです。今回のキネ旬一位に間違いはありませんでした。

[PR]
by karasmoker | 2015-02-13 00:00 | 邦画 | Comments(4)
Commented by 小野 at 2015-02-13 13:17 x
レビューありがとうございました。
近年観た邦画の中では、作り方から役者の選び方、選ばれた役者の生かされ方にいたるまで、「映画」としての完成度がすごく高い「作品」だなあと思いました。
とくにキャスティングのすばらしさは近年の邦画で随一。

映画は原作からいくらか脚色がされていますが、原作もおもしろいので、なにか機会があれば。
Commented by pon at 2015-02-15 14:33 x
こんにちわ。これはですね 僕は不満があります 非常に良い映画だとおもいますが、冒頭のインパクトから私はこれ逃げ場の無い話だと思ったんですよ サイテーのクズの話 いえ僕が勝手にそう思ったので私が悪いんですけど 途中でいきなり綾野剛が実は優秀な人材で部下を無くした衝撃で立ち直れない人だって事がわかるじゃないですか これって今まで何度も見た定番の展開ですよね こいつはほんとはクズじゃ無かったってわかったとたんに腹が立ちました なんだよこの程度でグズッテタのかよ、みたいな だったら最初に発破で事故のシーンを見せておいて欲しいと思いました そしたら最初に見る方向が決まるじゃないですか どうしようも無いクズがかすかに希望を見いだす様な映画だと期待して見ていたのにほんと肩すかしです いえ、僕が勝手にそう思い込んだのが悪いんですけどね
Commented by karasmoker at 2015-02-15 22:54
小野さん、コメントありがとうございます。
とてもいい映画でございました。女性監督の作品は合わないことが多いのですが、本作は文句なしでございます。

ponさん、コメントありがとうございます。
記憶の限りでは、わりと序盤のほうで日野正平が出てきて、「綾野剛には何かしらの過去があるのだな」とほのめかすようなやりとりがあったと思います。むしろ「本当のクズ」であったのなら、池脇千鶴との運命的な情愛に説得力が出ない気がします。ぼくは「クズ野郎が千鶴ちゃんとチュッチュするなんて!」と憤ったかもしれません。「クズの話」ならば『ばかのハコ船』の風味こそ至高なので、この映画にそれを求めようとは思いませんでした。
Commented by 辰夫 at 2015-05-23 19:44 x
「そこのみにて光り輝く」はクソ映画だと
思うのですが。キネ旬も胡散臭いですね。
←menu