『亀は意外と速く泳ぐ』 三木聡 2005

女性が「笑える映画」を求めたら、これがよいでしょう。
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あつもりさんよりオーダーいただきました。ありがとうございました。




 ゼロ年代半ばくらいから、「脱力系」とか「おバカ」みたいなのを耳にするようになって、その種の作品群とは距離を置いていたのですが、その中でもタイトルが印象に残っていたのが本作です。ウィキによれば「一部から熱狂的に支持されている」そうですが、なんとなくわかるなあと思いました。

 監督は放送作家の三木聡という人で、あの『ごっつええ感じ』にも携わっており、『トリビアの泉』にも加わっていたそうです。なるほどそう言われると、二つのテレビ番組に相通ずるものがある気もします。

 上野樹里が主人公で、彼女のちょっと変な日常を巡るお話なのですが、脇役陣が豪華ですね。蒼井優、若松了、ふせえり、温水洋一、伊武雅刀、嶋田久作、村松利史などなど。蒼井優以外は、いわゆる「豪華俳優陣」として華やかに取り上げられるタイプではないですが、実力派を揃えたなあという感じがします。役者がかなり助けているというか、役者の力を感じる作品でありました。
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 本作の良さとしては、「すべらない」ところですね。外していないというか、その辺のさじ加減がうまいなあと思いました。笑いというのは実に因業なもので、下手に仕掛けるとすべってしまうわけです。笑わせようと頑張った結果がむしろマイナスに転んでしまうことがあるわけですね。ところがこの映画はその辺をさささっとかわしてくる。どや顔をしないで、小さなパンチを積み重ねてくるのです。
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 世界観というか、映画のトーンがきちんとできているのですね。漫画で言うと吉田戦車やつげ義春に似ているなと思いました。上野樹里と温水洋一の絡みがまさしくそんな感じです。伊武雅刀たちのくだりもそうですね。なんか変だなーという感じのまま、ずっと観ていられる。

笑いがすべらずに持続されたのは、役者陣の力が大きいと思います。あまりカットを割らずに定点で押さえているので、役者同士の演劇的なやりとりが多くを占めるのですが、その辺りの間の取り方なんかはすごいなと思いました。こんなこと言ったら普通は寒くなるよな、というのがうまく中和されているんですね。若松了のキャラクターなんかは特にそう感じました。
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 画的にも結構気が利いているというか、ある意味CFっぽいですね。三木監督はCMの仕事なんかはしていないのでしょうか。この作品を観たら依頼する人間もきっといるだろうなあと思う画づくりです。「はったりを利かせない中島哲也」という印象を受けたりもするのです。蒼井優との過去のくだりとかね。
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 さて、先ほどから「すべらないすごさ」について語ってきたんですが、実はここまでで「面白い」という言葉は使っていないのです。では、面白くなかったのか? ぼくの感想を一言で言うと、「つまらなくない映画」です。面白い映画ではなく、つまらなくない映画。それがすなわち、すべらないということの意味です。
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個人的な感覚で言えば、笑った場面というのは実は少なくて、感心が大きかったんですね。「ああ、これを無事故で(すべらずに)切り抜けるかあ、岩松了はすごいなあ」とか、「オーザックのくだりをあんな風にするとはなかなかの手腕だなあ」とかは思いつつも、笑ったかというとぼくの琴線には触れませんでした。唯一あったとすれば終盤の、夜のシーンです。村松利史が持ってきたお菓子か何かが酸っぱくて、「うわ、何これ酸っぱい」とみんなで言い合うあのくだり。なんでここに酸っぱいものを持ってきたんや、というつっこみがよぎり、笑ってしまった。ただ、全体の笑いで言うとぼくの好きな感じとは微妙に違っていた。笑いとは難しいものであります、うむうむ。
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 全体を通して感じたのは、ああ、これは女性ウケするだろうな、ということです。前に取り上げた『危険なプロット』もそうでしたけど、世の中にある映画を男性向けと女性向けに分けるとすれば、本作は間違いなく後者です。女性が「何か笑える映画ってなぁい?」と聞いてきたら、これを薦めておけばよいでしょう。まず文句は言われないと思います。
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 どの辺がそうなんだね君、と言われたら、つまるところ下品さと過剰さがないのですね。別にそれが悪いというのではなく、この映画はそういうつくりなのです。差し挟まれる上野樹里のモノローグが映画のトーンを崩さずにいるし、どの笑いにしてもくどくならない処理を施している。まさしく、「そこそこの味」を提供し続けてくれる。
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 ではどういう映画はそうじゃないんだね君、と言われたら最初に思い浮かぶのが井口昇の『恋する幼虫』です。同じような低予算映画で、不条理性というところでも似通った感触を覚えるのですが、向こうは下品さと過剰さに満ちていて、女性に薦めたらきっと品性を疑われる。でも、その分だけ忘れられないインパクトがある。こっちの予想をぶっちぎってくるところがある。主人公の女性が異常になった頬から飯を食うくだりとかね。なんやねんというね。

『亀は意外と速く泳ぐ』は失点がない映画です。とてもよくできていると思いました。公園のばばあが伏線になっているのもいいし、小ネタをただの小ネタとして浪費していないところは素晴らしいなと思いました。ただ、書きながら何かが引っかかっていて、何だろうと思っていたらわかりました。この映画には爆笑させてくれるポイントがないんですね。このシーンは腹を抱えて笑っちゃう、というのがなくて、そこに惹かれないというのはあります。いろんなことがテンポよく進むし、役者の動きも何もかもがつつがなく描かれている一方で、えーっ、びっくりしちゃうぜっ、ということは何もない。スパイの話にしても、最終的に何なのかがよくわからない。全体を通していいんですよ、つまらなくないんですよ、だからこそ、食い足りない感じがあるんです。
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 これは多分に好みの問題じゃないかと思います。ぼくは個人的には、「すべろうが馬鹿げていようが関係ねえ、これを観よ!」というエネルギーを欲してしまうたちなので、「脱力系でちょっとお茶目な」みたいなのにそれほど興味が湧かないのですね。


 ぜんぜん話は違いますけど、ここ数年「ゆるキャラ」というのが流行っていますね。ぼくは基本的にキュートなものが大好きなんですけど、あの手のものに一切心動かされないのです。なぜなのかなあと思いつつ、最近藤子・F・不二雄先生のアニメをネットで観ていたんですね。『チンプイ』とか『21エモン』とかね。それでわかったんですけど、あそこに出てくるチンプイやモンガーが可愛いのは、藤子先生が物語を作るうえで、キャラクターに魂を込めて躍動させているからなのです。ゆるキャラにはそれを感じなくて、「こんなの可愛くない?」とか「これがこんな風にしたらちょっと笑っちゃうでしょ」みたいな顔色を窺う作り手のにおいをものすごく感じるんですね。ラインのスタンプとかを愛でている世代はある意味で可哀想だなと思う。キャラクターの魅力って、見た目の面白さとかそんなんじゃないよって。
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 作り手がセーブしているから端正なものはできあがる。ただ、そこに「物語の暴走」がない。物語自体が爆発しそうなエネルギーをぼくは観たい。脱力しきれぬぼくは、そんなことを感じたりもしました。つまらなくないし、よくできているし、女性に薦めても絶対文句は言われない綺麗なつくりになっている作品。ぼくがどんな映画や物語に対しても常に求めているものが決定的に欠けているけれど、ある種の職人芸をそこに感じてやまない作品。そんなところでありました。意外と長く書いてしまったので、この辺で。

 


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by karasmoker | 2015-02-17 00:00 | 邦画 | Comments(0)
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