『悪夢探偵2』 塚本晋也 2008

「大好きな映画」は、オーダーなさらないほうがいいかも……。
d0151584_06254805.jpg

つくしさんよりオーダーいただきました。ありがとうございました。




 塚本晋也監督の作品は『鉄男』と『六月の蛇』だけ観ていて、それ以来苦手な監督だなあと敬遠しておりました。海外でも多数受賞している監督なので、観る人が観ればすごいのでしょうが、ぼくにはどうにもぴんと来ないのですね。

 さて、今回は2をオーダーしてもらったのですが、一応1も観ておこうと思いまして、そちらのほうも併せてお話しできればと思います。言い添えておくなら、今後はいつでもそうするというわけではありませんのでご了承ください。何々の三作目がとてもよいので観よ、と言われたらそれは観させてもらいますが、いつでも前作を観るお約束はできないのです。
d0151584_06244184.jpg
 1のほうはというと、後半は結構すっ飛ばして観ました。途中で観る気が失せてしまったのです。というのも、とにかく演出がくそださいと感じたからなのです。主演のhitomiの演技どうこうの以前に、安藤政信や大杉漣といった実力派俳優の演技もすべっている。「台本が見える」うえに、まるでテレビドラマのごとき、いやテレビドラマでももっと洗練されているであろう演出の不備が随所に観られ、苦痛になりました。テレビドラマ的に撮るならそれはそれでいいけれど、そういうもんでもない。芸術方面の監督が必ずしもエンタメ方面の演出に優れているわけではない好例ではないかと思いました。くわえて、1の場合、敵役に塚本監督本人が登場するのですが、正直松田龍平と比べるとどうしても映画的な華に欠けてしまい、とてもアンバランスでした。あの配役は安藤政信と逆じゃないですかね。塚本監督はやさぐれた刑事が似合いそうな風貌じゃないですか。だから若手刑事の安藤を外してベテラン刑事として登場し、大杉漣と一緒にhitomiの演技を横から支えればよかったと思うんです。塚本監督のドアップカットが延々繰り返されるクライマックス部分は飛ばして観ました。というのが、1で強く感じた点であります。

 さて、2です。
 1に比べるとその点のだささはかなり修正されているというか、落ち着いたホラームービー的風合いが醸されていたので、そこはわりと安心して観られました。でも、うん、ホラー的なことで言うと、ちょっと演出的にどうやねん、というのは大きかったですね。
d0151584_06244485.jpg
 冒頭部の風合いはいいんです。主人公、松田龍平の子供時代が(悪夢として)描かれ、トラウマ的エピソードが明示されるのですが、ここら辺は真っ当なホラーテイストの始まりで、信頼できました。惜しむらくはあの女の妖怪ですね。あれはもう貞子がいるし、『呪怨』の伽倻子がいるじゃないですか。あれと同じですからね。もしかしたら何か意図があって、あえて同じくしてみたのかもしれないけど、仮にそうだとしても「あえて、をつけりゃいいってもんじゃない」ですからね。○○っぽいなあ、はやっぱり減点になってしまいます。あとはあの仰々しいオープニングBGMがようわからん。和風ファンタジーでボスキャラが出てくるときみたいなあれ。
d0151584_06244644.jpg
 ホラーにおいて最も大事な要素は何か、と個人的に考えまするに、それは「空気感」です。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉がありますが、怖いと思っていると何でも怖く見えてきますよね(まさしくこの映画における市川美和子がそう言っているように!)。
これはホラー映画にとってとても大事で、なんならほぼ八割を占めるといっても過言ではないと思います。この映画は言いしれぬ不気味さがあるぞとか、この映画の雰囲気自体が怖いんだよねと思わせればもう勝ちですよ。そういう気分に観客をさせてこそ、いざ幽霊のアタックが来たときに効果的になるわけです。

 この映画はそこをしくじっているように思えてなりません。随所随所効果的演出が観られはするものの、ある演出によって空気感を決定的に損なっている。
d0151584_06244829.jpg
 人の夢の中に入って問題を解決する松田龍平。彼のもとに女子高生の三浦由衣が訪ねてきて、悩みを解決してくれというところから話が始まります。恐怖を受けるのはもっぱらこの三浦由衣です。彼女は悪夢を見たりして、いろいろ怖い目に遭うのですが、やたらと顔をアップにするんですね。目の前でまがまがしい事が起きているのに、数秒に一回以上のペースで彼女の顔を映す。そんなことをされたら観客は没入できません。そのシーンに食い入ることができない。
d0151584_06245644.jpg
 怖いものがぞぞぞぞっと迫ってきたり、何かが出てきそうだという緊張感を持続させたり、そうしたシーンを効果的に映すにはどう考えてもその対象をある程度じっくり撮らねばならないし、そうでなくても距離感には気を遣わなくてはならない。それがことある事にアップアップです。三浦由衣の顔は恐怖心を煽るようなか弱いものでもないし、あれでは彼女の表情演技に負荷が掛かるだけで、得るものが少ないのです。
d0151584_06244967.jpg
ホラーというのは空気が大事で、その空気の醸成とはいわば「監督の術中にはまる」ことで得られる。監督にぜひともこちらの感情を操ってもらいたいわけです。ところがこういうことをされると、監督に信頼感が持てなくなってしまう。術中にはまれなくなる。1よりはまだマシだったけれど、とは申し上げられますが。

 映画は三浦由衣に迫る恐怖と、松田龍平の過去にまつわる話が織りなされていくのですが、後者はもうなんか中途半端な感じだったんです。人様のブログを拝見しますと、あれは松田龍平を巡る多重構造のうんぬん、夢の中で夢に潜ることでうんぬん、とあるのですけれども、うん、ええと。あのう、そういうのは大変結構なのですし、ぼくには読み取れていない数々の哲学的な何事かがあるのでしょうけれど、そういうものをぜひとも読み取りたくなる、と思わせてくれるような面白さがないんです。底知れなさがない。

 なぜか。先ほど触れた話です。市川美和子も菊川という女子高生も、「怖い怖い」を連呼し、見えているものが何でも怖いみたいに言うのですが、こちとらそういう感覚をちっとも味わわせてもらっていないんです! この映画が怖ければ、見えるものが何でも怖くなる恐怖演出をしてもらっていれば、彼女たちに言いしれぬ共感を覚えて本作を観ることができたのに、「おまえらは何か怖がっているか知らないが、こちとらはちっとも怖くないぞ」としか言えないのです。いみじくもホラー映画の本質を登場人物に物語らせたうえで、しくじっているんです。「森林で相手を抱いて解決」みたいな斜め上の結論を提示されても、どうしていいやらなのです。
d0151584_06245195.jpg
細かいところで口を挟みたくなって仕方ありませんでした。
 たとえばあの「心が読める」という設定は何なのでしょう。1でも出てきてほったらかしにされていた。夢の中に入れるというのとそれはまた違うでしょうし、菊川の親父の心が読める場面は、違う見せ方の方がいい。別に効果的に活かされるでもないあの設定が邪魔をしている。
d0151584_06245777.jpg
それに菊川の顔は終盤まで見せちゃ駄目でしょう。三浦由衣を襲っているような状況の時は顔を黒塗りにしていてもいいし、せっかくあの生理的に不快な顔割れを出したのならあれにしてもいい。救いに行ったときに初めて顔が見えればいいのに、タイミングが中途半端すぎる。あと、訪ねていった同級生の家の人がいわくありげにぬぼうっとしているのも結局何なのかよくわからない。松島初音の顔があんな感じになるのもよくわからない。
よくわからないから怖い、になれば最高なのに、そうはならない。掘り下げていけば何か意味があるのかなーというのはあるんです。顔割れの法則性とかね。でも、ごめんなさい、ぼくには読み取れませんでした。
d0151584_06245449.jpg
酷評してしまいましたが、これは中学生くらいのときにたまたま深夜に観たりしていたら、そこそこいいのかもなとは思います。何の覚悟もなく、夜更かしの楽しさも相まっている最中に観ていたら楽しめたかもしれない。随所にはいいところもある(特筆すべきというほどではないのですが)。B級映画というのがありますが、それと似た部類の「深夜にたまたま観るとよい映画」というジャンルに入りそうです。あるいはホラー映画として観ることがそもそも違うのだ、これは塚本監督独特の技巧が随所に凝らされていてあのモチーフは何とかのメタファで、というのならそれはそれで結構ですが、うーん、ぼくには興味が持てませんでした。
d0151584_06245359.jpg
 大好きな映画としてオーダー頂くと、こういう場合、本当に申し訳なくなります。しかし、今のぼくは「いいところを積極的に見つける」よりも「思った通りに書く」ことしかできません。非生産的な営みという気がしなくもないのです。今後、大好きな作品をお薦め頂く場合は、ぜひ自分で「ここがこういう風だからよいのだ」というのを、各々に語ってもらうがよろしかろうと思うのであります。ぼくはそれを読みたく思います。

[PR]
by karasmoker | 2015-03-21 00:00 | 邦画 | Comments(2)
Commented by つくし at 2015-03-21 12:24 x
非生産的…いえいえblog主様には悪いですが、好きな作品ほど欠点が見えにくいもので主様の指摘は大変勉強になりました!
『インセプション』を観た時に西洋的な夢の捉え方が、何だか気に入らなくて、その後に『悪夢探偵』観て、日本人的な「夢」の捉え方(壮大なビジュアルではなく、現実と地続きだけどどこかチープ)にむっちゃ共感してハマったんですけど、作品自体あまり知られてなくて、色んな人に観せたんですけど評価が低い割には悪くはないとか言われてモヤモヤしてたんですけど、成る程納得しました。確かにホラー映画としてはあんまり怖くないですね笑。空気感…あーそうか…ホラー映画って言うより……確かに安いお化け屋敷みたいになっちゃってる感じはあります。でも、ちゃんとびっくりさせるし(これは恐怖という感じではないけど)、ついでに少し感動させるよ!っていう変なサービス精神みたいな所が良かったんですが (塚本監督の比喩、暗喩はさっぱりです) 。うーむ。
ラストの幸せな夢を見た後に現実に引き戻される描写は秀逸で、そこまでの超展開はただのプロセスというか。
人の心の声が聞きたくないけど聞こえてしまうが故にホームレスが如き相貌で人が近寄らない立ち入り禁止とあるボロ部屋で寝るだけの朝も夕も分からない男が松田龍平というだけで面白いと感じてしまうのでそもそもにして、そういう人向けの作品なのだろうか…うーむ。
夢が人間に与える影響って実はかなり大きいんじゃないのか?にも関わらず皆、ないがしろにしてないか?とか結構考えさせられる映画だと思ったですが…。素晴らしいレビュー有り難うございました!(一作目は正直駄作ですし、そんなに話も繋がっていないので観なくてもいいですって書くの忘れてました…すみません)
Commented by karasmoker at 2015-03-21 23:58
コメントありがとうございます。
そう言ってもらえるとほっとするのでございます。
夢をどう捉えるか、という部分について、ぼくは疎い人間でありまして、そこももしかしたら肌の合わなかった理由かもしれません。ぼくはなにしろ夢を見ているとき、「これは悪夢になりそうだぞ」と予感したら嫌になり、おのずから目覚めに至る、という自己抑制機能が働く人間なのです。なおかつ夢の中で過去のトラウマに直面した記憶も乏しく、その辺りで心揺さぶられるものが少なかったかもしれません。
 夢に思い入れのある人が観たら、また違うのかもしれませんね。
←menu