『ダイナマイトどんどん』 岡本喜八 1978

しっかり野球をやってほしいし、そうでないなら殺し合え。
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2235さんよりオーダーいただきました。ありがとうございました。



 最近はとんと、自発的に古い映画を掘り出すようなことはしておりませんで、久々に岡本喜八監督作品を観ました。10作くらいは観ておるのですが、いちばん好きなのは今のところ『肉弾』で揺るがないです。本作は野球をモチーフにとった作品ですが、野球映画というと好きなのはベタベタで『がんばれ! ベアーズ』、それと最近観た『マネーボール』というあたりです。

 さて、菅原文太主演の本作。戦後、占領下の北九州が舞台で、ヤクザ同士の抗争から話は始まります。街中をどんぱちやって走り回る様はルパン三世のようでもあって、のっけから岡本喜八監督のテンポある演出がかまされます。一方、菅原文太と彼を慕う宮下順子の艶っぽい場面なんかもあって、これはええ感じやな、という風味が序盤から漂います。
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 ヤクザ同士の抗争がひどいので、警察は彼らに野球大会で決着をつけろと提案します。この辺のコメディ的なノリは小気味よく、嵐寛寿郎のコントチックなキャラクターも古びない面白さを持っています。ヤクザが健全なことを始める、というギャップはわかりやすい設定でして、近頃でも『タイガー&ドラゴン』や『任侠ヘルパー』のようなテレビドラマがあったりしますね。暴力的な人たちがそこをぐっと押さえ、不器用に何かに取り組む様はおかしくもあり、それでいていつ暴発してしまうのだろうかと絶えず緊張感を孕んでいるため、物語に綾が付いてくるんですね。
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 どやどやした感じ、賑々しい感じというのはコメディにとって大事で、個人的にはあのパンパンの女性たちがいい味を出していたなあと思います。ヤクザ映画といえばどうしても男臭くなるし、そうでなければ女は艶っぽい立場に置かれるわけですが、そんな中であんな風なあけっぴろげな存在がいると、非常に画づらが華やいで見えてくる。野球大会の賑やかさを生むうえでも重要な存在でありました。
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 ネット上で評判を見ても、この向こう見ずな感じ、一種のお祭り感があるような映画、はちゃめちゃさに惹かれる人も多いようですね。ぼくが好きなのはあの、『七人の侍』あるいは『ロンゲスト・ヤード』のように、少しずつ仲間が増えたり一つにまとまっていったりするくだりです。ああいう風な物語のギアの上げ方はとても好きでした。
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 …と、褒められるのはそういったところでして。うーん、どうなんでしょう。ここからはちょっと、文句モードに入ってしまうんです。正直言うと、観終えた後の感想としては、何だよこれ感が拭えないんですね。前半は文句なしによかったのに、なんというか。
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 ちょっと嫌な気配はあったんです。田中邦衛が敵チームの投手として出てくるシークエンスですね。あそこは面白かったんです。田中邦衛は優れた投手として登場し、菅原文太チームを圧倒するのですが、どうにもアル中状態らしく、菅原文太が「酒を用意してやったぞ」というと野球を放り出し、回の代わるごとに酒ばかり飲んでしまうんです。最終的にはべろべろになってしまい、菅原文太チームが勝ちを収めます。
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 正直、ちょっとやり過ぎ感がないですか? あんなにべろべろならもうどうやっても交替するしかないのに、しないんです。あそこがねえ、どうにも引っかかったんですね。

 で、ここでぼくは決定的に好きになれなかったというのが、クライマックスなんです。ヤクザの縄張りを賭けた大事な試合、ということになるのですが、なぜ皆さんはあの最後の試合を楽しめたのか、ぼくにはよくわからないというのが正直なところです。 
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もう最初からめちゃくちゃで、危険球は投げまくるわ、チームワークはばらばらだわ、守備妨害は平気でするわ、という状態。はては「あの審判は邪魔だ」みたいにしてボールをぶつけて気絶させちゃう。観ながらこの思いを禁じ得なかったんですね。
 えっ、何これ? って。皆さんの高評価が、ぼくにはわからないんです。野球好きで有名な伊集院光さんは、野球映画のベストワンだとまで言っている。
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 どうしてなのでしょう。ぼくは逆に、野球好きな人は観ていて不快になるんじゃないかと思ったんです。だってぜんぜん真面目にやろうとしないし、殴る蹴るみたいなことをしまくっているんです。途中、試合を見に来ていた占領軍のアメリカ人が、「This is not baseball!」と文句を言うんですが、もともと野球を仕掛けたはずの警察の人は、「うるさい黙ってろ」みたいになる。ぼくにはついていけなかったんです。
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 だったらいっそ、殺し合いをしてくれ。それだったらぼくは面白く観ましたよ。バットに短刀を忍ばせていたんだし、どうせならそれで首をぶった切って血をぴゅーぴゅー吹き出してくれ。ボールの代わりに爆弾を持って、バッターにぶつけて爆発させちまえ(冒頭ではダイナマイトで車を爆発させていたじゃないか!)。機関銃をMPから奪って振り回し、観客を皆殺しにしてくれ。そこまで行ったらぼくは、なんてすげえ映画だ、突き抜けてやがると圧倒されたはずなんですが、なんか中途半端な乱闘とかラフプレーみたいなことをしているだけです。そんなの野球映画じゃない? じゃあ、これが野球映画ですか?
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 何が嫌かっていうと、作品全体が「ヤンキー映画」っぽいんです。途中、菅原文太が刀をもって敵の屋敷に殴り込みにいくのですが、ちょっと切られるくらいで、殺されないし誰も殺さないんです。ああ、甘やかしてるなあ、です。その前には、北大路欣也と殺し合いに程近い戦いをしていたのに、いざ刀を持ったら誰一人死なない。この辺がたまらなくヤンキーくさい。
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 良心的な存在として、フランキー堺がいます。傷痍軍人で、皆に野球を教えるんですが、彼だけは信頼できたんですね。試合の前日、野球道具に武器を仕込んでいる連中を目にして「そんなことはするな」と叱るんです。でも実際は、武器こそ使わなくてもめちゃくちゃな試合になってしまう。何もわかってないじゃないですかそれじゃあ。
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 教条的なプロットを踏まえた映画が、常に正しいわけではないけれど、この映画にはそれがなさすぎたんです。頑張って野球を覚えようとしたのは前半だけ。最終的には結局、正々堂々戦う精神を持っていない。逆じゃん。絶対に逆じゃん。最初はずるして勝とうと思っていた奴らが、次第に本当に勝ちたいと思うようになるのが物語じゃん。でも、結局はなんか暴力的な出来事に抗えずに、暴力的な気持ちに流されてしまい、馬鹿な結末に落ちってしまうというのが悲哀じゃん。いつだってそれが正しいわけじゃないよ。でもそれが定型ってもんじゃないか。その定型を打ち破りたいなら、もっと徹底して打ち破ってくれよ。そのくせ最後はきちんとホームランを打って勝って良かったねみたいな、定型ばりばりの甘やかされた終わり方ですよ。菅原文太はぜんぜんまともに練習してなかったってのに! 彼がホームランを打てるキャラクターだっていう説得力描写もなしに!

 フランキー堺は戦争に行って身体の自由をなくしてるわけですよ。圧倒的な暴力を経験してきたわけですよ。その彼の教えもまともに守れないで、中途半端に誰も死なないヤンキー映画的暴力。それがコメディ? だったら最初からあんな設定出さなきゃいいのに。

 しっかり野球をやるならやればいいし、ヤクザを描くなら描いてほしい。もちろんこれはコメディだから、殺し合いのクライマックスが正しいわけじゃないけれど、だったら中途半端に刀振り回して殴り込みにいっちゃいけない。ヤンキー映画みたいなことをしないでほしい。野球のほうも、暴力のほうも、どっちもゆるゆるです。2時間20分かける必要はない。

 フェアに観て、本当にいい映画なのでしょうか。今これと同じ映画がつくられたら、ぼろっかすに叩かれる気がして仕方ないです。野球なんかやるもんか、と言っていた菅原文太なのですから、途中で野球の良さみたいなもんに絶対触れるべきだし、そうでないならあの最初の設定自体が邪魔。振り返ってみると、要らないところが随所にある。

……と、前半と後半の感じ方が本当に真逆になってしまいました。きっと、ぼくの見方が悪かったんだろうなあと思います。野球やシノギの削りあいという真剣勝負があるのだから、少しは真剣に観ないとな、と思ったぼくが悪いのです。ぜひ皆さんの目で、お確かめになってほしいと思います。
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by karasmoker | 2015-05-08 00:00 | 邦画 | Comments(7)
Commented by karasmoker at 2015-05-15 00:27
コメントありがとうございます。
『大誘拐』はおそらく5、6年前くらいに観たのですが、前半はよくて後半は大味という印象だけが残っています。
Commented by karasmoker at 2015-05-16 02:33
コメントありがとうございます。
岡本監督のすごさには同意であります。
Commented by 2235 at 2015-05-28 08:51 x
今回のダイナマイトどんどんはkarasmokerさんには合わなかった、ということなのですが、大変楽しく記事を読ませていただきました。

確かに言われてみればヤンキー映画のような風合いだな、と思える部分が多々ありますね。

あくまでコメディとして見ていたのでヤクザ、野球ということを中心に見たkarasmokerさんとは見方が違っており、新しい発見もありました。

またこっそりリクエストしにくるのでその時はよろしくお願いします。
Commented by karasmoker at 2015-05-28 22:40
コメントありがとうございます。
そう言って頂けると大変助かります。
けなし調になるときは、申し訳なく感じるものでして。
Commented by あいつ at 2015-11-26 17:17 x
本日NHKで放送されていたので観ました。
面白いと思いながらも抱いた違和感のようなものがこの記事を読んで少しすっきりしたような感じがします。
悪い映画では無いんですが、傑作とは言い難いですね。岡本喜八監督で野球映画と言えば『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』がありますが、ぼくはこちらの方が好きです。
Commented by わい at 2015-11-27 22:29 x
同じく昨日観ました。
この時代の映画ほぼ未見ゆえ、当時(より昔の)着物の所作、台詞、など当たり前だったのだろう日本の文化に卒倒しそうなほどやられました。
人死にが出ないコメディの文脈に沿わないシリアスな切り込みは後から思えば確かに違和感あります。そんな冷静な批評を加える以前にエッセンスだけでありがたく感じてしまった。もっと勉強します。
Commented by 通り菅井 at 2016-08-11 18:23 x
これは、野球映画では無く、ただの反戦映画。
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