『立候補』 藤岡利充 2013

真意はどうあれ、トリックスター。
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ニュークスさんよりオーダーいただきました。ありがとうございました。






政治を題材にしたドキュメンタリーということで、非常に興味深く思いながら観ました。 大変いろいろ考えさせられるものでありました。
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 本作はいわゆる「泡沫候補者」たちをモチーフにしたもので、マック赤坂、羽柴秀吉、外山恒一らが登場します。主にマック赤坂を追ったものでありました。羽柴秀吉氏は今年の四月に亡くなっていまして、劇中では「癌で闘病中」として出てきます。旧作メインでブログをやっていると、こういうずれが出てくるので、劇場公開時に観るのとは違う感慨があります。維新の会、橋下徹市長にしてもそうで、劇中ではまだイケイケ状態なのであります。
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泡沫候補者にこれまで、あまり注目して考えたことはないのですが、覚えているのは昨年の都知事選に出た松山親憲という人です。他の候補者が錚々たる肩書きを持つ中で、彼の肩書きは「警備員アルバイト」だったんです。経歴を見ても元老人ホーム職員とか元高校教諭とかで、年齢は72歳。
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 なんだか熱いものを感じました。この人がどういう人生を歩んだのかぼくにはぜんぜんわからないけれど、この人なりに「このまま老いてなるものか!」みたいなものがきっとあったに違いないと思い、少し感動したのを覚えています。投票はしませんでしたが。
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 そういうところで行くと、彼らが何を思い、どうして立候補を決意したかというのは、物語が詰まっていそうな題材です。本当にいろいろな人がいるんだな、とわかりますね。
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 しかし、映画自体は別に、泡沫候補者を応援するようなタッチではないんです。その方法じゃあうまくいかないだろうと、ついつっこみたくなる人も多く出てきます。立候補したはいいけど、いざ話を聞きに行くとぜんぜんやる気がなさそうな人もいたりするし、切ない背景を抱えている人もいますね。大阪府知事選に立候補した六十歳の男性で、小学生の娘と二人暮らしをしている人が出てきます。奥さんは娘を生んだときに亡くなったらしく、選挙期間中なのに公園で二人で遊んだりしている。娘は「何票入るかなあ」などと楽しげに言っている。先々のことを考えたりしてしまって、あれはなんだかものすごく切なかったです。
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 マック赤坂がメインの登場人物で、存在は前から知っていましたが、いざ観てみるとかなりむちゃくちゃです。街頭活動もそうですが、ぼくが笑ってしまったのはあのホテルの場面ですね。ブリーフ一枚でうろうろしているあの無防備さはさすがに笑う。
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 真面目なんだか何なんだかわからないんですね。候補者の取り上げられ方についてもっともな正論をぶつけたかと思えば、別の場所では急に踊り出したりするし。単に目立ちたいわけではなく、本人なりに真剣らしいのですが、その真意は息子でさえも測りかねる感じなんです。
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少なくとも本作を観て、マック赤坂は真剣に政治のことを考えているんだな、と受け取るのは難しいです。でも、ここら辺は考えさせられるものが多いです。あとで触れます。
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 嫌いになる人も多いでしょうね。さすがに引いてしまうところもある。大阪府知事選に出ているのになぜか京都大学の大学祭に出向いて(彼の母校らしいのですが)、門の前で演説を始めます。大学祭の実行委員と思しき女の子が、健気に低姿勢で頼み込んでいるのに、恫喝に近い態度で演説をしてしまう。他にも明らかに道路交通法的に駄目だろうという行為もあったりして、ちょっとやばい感じが香ってきます。
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 ぼくね、やり方を変えれば、選挙によっては通ると思うんです、彼は。市議会や区議会あたりなら通ると思う。どうすればいいかというと、今までやっていたことを全部やめるんです。真面目一徹に切り替えるんです。今まではいわばおちゃらけ芸人的なノリがあった分だけ、ギャップが新鮮に映って、それなりに集票できるはずです。でも、そういうことはしないのだとすると、なぜ彼はあのようなやり方にこだわるのか。京大を出て伊藤忠にずっと勤めてきたような人なら、常識や戦略的思考力もあるはずなのに。
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羽柴秀吉は自分が鎧武者の格好をしたりすることについて、「目立って認知してもらうための戦略なのだ」と言っています。一方、マック赤坂の考えは劇中では明言されませんので、実際のところはわからない。この辺は観ている間、ずっと歯がゆさがありました。自分を客観視できていたりもするんですよね。自分の政見放送を見て、「馬鹿だなあ」などと言って笑っているんです。だからこそ余計にわからなくなる。
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 真意はどうあれ、彼はトリックスター的な存在としても見えてくるんですね。
 硬い言い方をすれば、「政治に対する批評的存在」ともいいますか。
 
 たとえば彼は変な着ぐるみを着たり変な歌を歌ったりを繰り返して、まるで政治家になろうとしている人には見えないんですけど、じゃあ大政党の政治家はまともなのか、ということも一方にはあるわけですね。歌って踊ってばかりいる政治家と、平気で約束を反故にして憲法を破る政治家。どちらがよりマシなのか。矢面に立つキチガイと、ルナティックに罵声を吐く奴隷どもは、どちらがよりマシなのか。
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 名前をひたすら連呼し、軽々しく耳障りのいい言葉ばかりを繰り返す候補者たちは、果たして彼よりもまともだと言えるのか。マック赤坂は、まあ言っちゃえばある意味で頭がおかしいのだけれども、国会なんかに出たらきちんと自分の考えを言うだろうなと思うんですね。党議拘束を言い訳にただ党の方針に従うだけのロボットにはならないでしょう。
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マック赤坂はクソかもしれない。でも、同程度かそれ以上のクソが、常識的な議員ヅラこいてる場合もあるだろう。そう思わせる瞬間が確かにあるのです。無害な馬鹿と狡猾な詐欺師は、いったいどちらがマシなのか。

 映画を観ているとそういうところに思い至るのですが、惜しむらくは実際の現場ですね。彼が出てくると、大政党の人間がよりまともに見えてしまうんですね。キチガイが一人いるおかげで、常識人の振る舞いをするだけでポイントが上がるというか。その点では、彼は敵をアシストしちゃってる部分が多分にある。最終的には、橋下さん頑張れ的なことを言ってしまいますからね。それ言っちゃうのかよと。
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終盤にはひとつ驚きが仕掛けられていますね。2012年の衆議院議員選挙前日の場面です。あえて伏せておきますけれども、あの人物があの振る舞いをしたときは驚いた。それもとても映画的に様になるアングルなんです。それまでは突き放した風に振る舞っていたのに、いざあの局面になると誰よりも熱くなるというのが意外でした。ああ、この人はこの人なりの物語があるのだなあと思わされたし、あの人がああ動いたおかげで、なるほど秋葉原の日の丸たちは奴隷だなと浮き彫りになる。本当にあの奴隷たちは殺したくなる。まあでも、昨今の様子はむべなるかなとも思いますね。奴隷を支持者とする政権だから、憲法を破っても平気なのはわかります。

語りきれないさまざまなことを思わせる、いいドキュメンタリーですね。
 少し残念なのは、「まともに見える泡沫候補者」がほとんど登場しないことです。
 きっとそういう人もいると思うんです。泡沫だけど、この人は本当に政治のことを考えているんだな、この人のできる範囲で精一杯戦っているな、という人が出てこないので、誰も色物めいて見えてしまうのは事実です。あるいはそういう描き方をすると、公平性を欠くというのはあるのかもしれませんが。

政治的なものについては興味がありますので、観る機会を与えてもらい、大変ありがたく思います。ところで、拙著である『愛国計画』も政治を題材にしたものであり、ある面で「政治の立候補者」を描いたものであり、同時に「奴隷たち」を描いたものでもあります。出版界の超超超泡沫候補者に、応援の一票を賜れればそれ以上の喜びはございません。

スマイル!

小説もよろしく!

愛国計画

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by karasmoker | 2015-07-04 00:00 | ドキュメンタリー | Comments(2)
Commented by ニュークス at 2015-07-05 23:17 x
リクエストにお応え頂きありがとうございます。
私はこの映画を観た時、最初はマック赤坂のことを半ば馬鹿にした視線で見ていたのですが、最後に「奴隷」たちがマック赤坂に向ける視線と、自分が持っていた視線はなにが違うのだろうかと考えさせられました。つまり、自分が多数派であるということは、偉くともなんともないのに、いつの間にか見下してないかと。虎の威を借る狐なんじゃないかと。立候補すらしていないのに。

いや、自分の感想はどうでもいいですね。すみません。小説、時間を見つけて読んでみようかと思います。
Commented by karasmoker at 2015-07-05 23:44
コメントありがとうございます。
この映画を観て「こんなやつを立候補させるな!」という向きもあるようですが、それはいわば「詐欺師」や「奴隷たち」に取り込まれた見方で、それを相対化させるための傑作であると思いました。

小説はもうすぐキャンペーンを行う予定です。よろしければそのときに。
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