『もらとりあむタマ子』 山下敦弘  2013

風合いある小品。
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 前田敦子主演作。80分尺で規模の小さな世界を描く小品ですが、独特の味わいを放つ作品でありました。

 大学を出ても職に就こうとせず、家業も家事も父親に任せきりの主人公、タマ子の日常が描かれます。舞台は田舎町で、家はスポーツ用品店を営んでいます。父親との二人暮らしですね。

 テーマは明白で、「彼女がどう成長するかですね。
 序盤10分はきわめてだらりとしたトーンでセットアップがなされ、その後に父親との衝突があります。「このままだらだらしていても駄目だ、いつになったらちゃんとするんだ」という父親に対し、「少なくとも、今ではない!」と怒鳴るタマ子。

 しかしこれによって突き動かされ、およそ25分の段階で、新たなことを始めようと、アイドルのオーディションに応募したりします。でも、それが周りに露見すると急に嫌になってしまい、まただらけた状態に戻ってしまいます。短い映画なので、中間地点にどん底を持ってきています

 クライマックスへの糸口は、父の再婚。
 父の再婚話が進むことによって、タマ子自体の前進も促されるつくりです。
 再婚するかもしれない相手に父への思いを打ち明けたり、母親に「東京に来る?」と誘われたり、そうしたことを通して彼女はモラトリアムから脱していくきっかけを掴みます。父に「家を出ろ」と言われたタマ子は、「合格だよ」と答え、新たな人生に歩み出す手がかりを掴むのです。

 山下監督作品では『ばかのハコ船』が一番好きで、『リンダリンダリンダ』も好きです。『天然コケッコー』『どんてん生活』『苦役列車』などでも独特の風合いが生み出されているのですが、それらに比べるとやや威力は弱いかな、という感じはどうしてもありました。作品自体が小規模、ということはあるにせよ、同じような「無様な状態」を描いた作品だと、『ばかのハコ船』が素晴らしく、どうしても思い出してしまいました。前田敦子が持つ綺麗さによって、主人公の無様さが薄まってしまう、ないしは綺麗なものに見えてしまう、というのはあります。この映画はアイドルなどではなく、ブスな女優を起用していれば、よりいっそうもの悲しい風合いが漂い、良い意味での無様さが生まれたのではないか、などと考えてもしまいます。『ばかのハコ船』はその点においてもまた、優れた作品だったのです。ヒロインがブスでしたから。

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山本浩司/エースデュースエンタテインメント

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 もっとも、前田敦子はその辺の、可愛いとブスのバランスを良い感じで持っている人でもあるので、キャスティングに文句はありません。

 観終えたときは、モラトリアムを脱する上での通過儀礼的要素がやや弱いかな、という印象を受けました。しかし少し間を置いてみると、独り身である自分の父親を再婚相手に託す、という行いが、一種の通過儀礼として機能しているのだなとわかりました。巣立ちのための儀式として、自分を育ててくれた親の幸福を助けるというのは、物語的にきちんと意味合いを帯びています。「合格だよ」という、一見傲岸不遜な物言いは、彼女なりの照れ隠しの意味があるのであって、このような台詞を置く巧みさには、なるほど敬服を覚える次第であります。

 また、食事シーンが効果的です。食事シーンを随時挟み込むことによって、家庭の様子を凝縮して描き出すという手法。食事というのは動物的な意味合いを帯びており、そこには生活の本質、生きるという営みのありようが浮かび上がります。ゆえにして、独りでもそもそ喰ってるシーン、父親と咀嚼音を立てながら一緒に何かを食べているシーンなどが、そのおりそのおりで違う意味を持って伝わってくるわけです。

 地元に帰ってきた同級生、写真店の中学生と彼のヘルメット、そして彼のカノジョの垢抜けない感じなど、田舎くささも随所で描かれていて、ほどよい風合いでありました。お薦めです。


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by karasmoker | 2016-05-25 00:00 | 邦画 | Comments(0)
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