『フローズン』 アダム・グリーン 2010

惜しい点は多々ありますが、程よく楽しめました。
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 スキーで雪山に出掛けた若者三人が、夜のリフトで取り残されてしまう、シチュエーションスリラーです。ひとつのシチュエーションで1時間33分。長さ的にはちょうどいい作品であったと思います。

 男はショーン・アシュモアとケヴィン・セガーズという俳優で、女はエマ・ベル。三人は係員に取り入ってリフト代をちょろまかしてもらい、夜にも一滑りしようと考えるのですが、それが悲劇の始まり、というわけです。

 最初は教科書通りに、楽しいスキー遊びの様子が描かれます。ケヴィンとエマが付き合っているのですが、ショーンは彼女がおらず、ナンパを仕掛けたりします。惜しむらくは、このナンパのくだりがなんら活かされないことです。「楽しいスキー旅行」と「悲劇」の格差を生むという意味ではアリだけれど、それ以上の意味がなかった。後半、台詞でいいからこのナンパのくだりを活かすこともできただろうのに。

 開始およそ10分。昼間の段階で一度、リフトが止まります。悲劇の「凶兆」ですね。実際の悲劇が始まるのは、20分のところ。映画の尺を考えると、丁度いいタイミングでしょう。

 高くて凍り付くようなリフトの上で取り残され、今後五日間は救助が来ないことが語られます。ここから、どのように生き抜くのか/死んでしまうのかが映画の核ですね。脚本としてもったいないなと思うのは、この核の部分について、序盤で少しでも触れておくべきだったということ。「高いリフトは苦手だな」とか、「ここから飛び降りたら死ぬかな」みたいな台詞を置いておけばふりになったし、「危険な状況になったらどうする?」という問いを忍ばせておけば、シーンに深みが出たであろうと思います。

 あの手この手で、三人は事態の解決を試みます。ケーブルを伝おうとしてみたり、見回りにやってきた車に呼びかけたり。当然この段階ではうまく行かないのですが、一通りはお約束的に、解決策を試していく必要があるわけで、その点をこなしていく感じです。

 そして夜が深まり、吹雪もやってきて、絶望的な気分になってくる。開始およそ40分、ケヴィンが意を決して飛び降りるのですが、足の骨が飛び出すほどの骨折に見舞われます。時間配分としてはとても的確な配置でしょう。ただ、この手の映画では、いかにベストを尽くすかが大事になってくるんですね。観客が「こうすりゃいいじゃん」と思っては駄目で、そこを外さないのが大事。そこでいくと、「着ている服を繋いで降りてみる/飛び降りる高さを低める」という試みがないのがもったいない。こうすりゃいいじゃん、の余地を残してしまっている。

 もうひとつ言うと、この映画は高さ描写がいまいちです。ぼくはわりと高所恐怖症だし、特にビル5階くらいの「リアルな高さ」に気づくと掌に汗が滲んでしまうのですが、この映画ではあまりそういう恐怖がなかった。単純に、カメラの問題があります。「ああ、この高さはやばいなあ」と思わされるような見せ方を、してくれないんです。ワンシチュエーションだからいろいろな角度で撮っているのですが、肝心な画を決定的に撮れていないのがまずいなあと感じました。

 さて、飛び降りたケヴィンは動けなくなります。すると、周囲から狼がやってきます。狼の群れが唸り声を上げて近づき、まだ生きている彼を喰い殺してしまいます。ちょうど映画の中間地点ですが、ショックシーンとしては十分な効果を上げていたと思います。惜しいのは、狼の存在感ですね。

 昼間に人が多いはずのスキー場に狼がいるのか? というつっこみもあるようですが、そういうつっこみをさせてしまうのはひとえに、序盤でセットアップをしていないからです。悲劇に至る前の段階で狼の影を出しておくか、あるいはそれに準ずる凶兆を配置しておくべきでした。たとえば弱った野鳥か何かが、狼に喰われているシーンとか。そこまでわかりやすくなくても、たとえば携帯のゲームでそんな感じのシーンをつくっておくとかですね。この狼はあとでまた出てくるので、野生の脅威というイメージを仕込んでおくべきでした。序盤のうちに。

 夜が明けて朝を迎えるのですが、ここで晴れ渡る空に朝日が差す、というのはどうなんでしょう。作り手も悩んだところでしょうね。夜が明けてほっと一息、というシーンをつくりたいのは大いにわかるし、決意のシーンをつくるうえでも太陽の光は意味がある。しかし裏を返すと、せっかく積み上げてきた絶望が大きく緩和されてしまうことにもなる。せめて曇り空に留めておいたほうが、映画的熱量は減じなかったのではないかと、考えてしまいました。

  助けを求めるため、生き残ったショーンがケーブル伝いに進んでいきます。ここは「どうして足を使わないのか」と言いたくなる部分です。ブーツを脱ぐなりなんなりしてでもやればいいのに、と思わせてしまうんです。「こうすりゃいいじゃん」ポイントをつくってしまうと、シチュエーションスリラーはその分だけ大きく減点されてしまう。どうしてもああしたかったなら、もっともっとエクスキューズを入れるべきでした。序盤でちょっと、足を怪我させておくとかね。

そしてこのショーンが地上に降り立ちます。やった! これで大丈夫! と思いきや、狼の群れに襲われてしまう。先ほどのケヴィンに続いて、一番の敵は狼。だとするとやはり、序盤で凶兆がないと辛い。恐怖の弾切れ感が出てしまう。別の見せ方があるとよかったかなと思いますね。滑り降りていったけど、凍傷でうまく体が動かず、木に激突してしまうとかね。

 最後に生き残ったのはエマです。ケーブルが切れたおかげでリフトの位置が下がり、足を怪我しながらも下山していきます。途中でショーンの死体が出てくるのですが、狼はスルーしてくれます。ここも、何か物語的な理由がほしいところですね。嘘でもいいから、「男二人よりも彼女のほうが、普段から動物を大事にしている」みたいなのがあると、ちょっとは説得力が上がったんじゃないかなと思います。いや、別にそこまであからさまじゃなくてもいいので、彼女が襲われずにすんだ理由を、物語に絡めておくべきでした。あそこまで露骨に遭遇してしまったからにはね。

 で、這々の体で道路に到着。通りかかった車に助けられて、エンドロールです。
 脚本的な要点、カメラ的な要点を外している部分はいくつも見受けられるのですが、テンポは悪くないし、楽しめる映画でした。改善するとすれば、序盤です。余計な要素を切って必要な情報を盛り込んでおくこと。もしくは、ショーンとケヴィンにキャラの対比をつけることです。ケヴィンが中途半端なナンパキャラではなく、たとえば臆病者のキャラであれば、最後のケーブル伝いにもより緊張と白熱が宿ったであろうなと思います。
 ちょっとはらはらする映画が観たいなという深夜に、お薦めです。

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by karasmoker | 2016-05-29 00:00 | 洋画 | Comments(0)
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