政治の夏の雑感

 知事選。
 参院選からすぐということで、東京はまだ政治の夏が続きます。くわえていうに、小池百合子さんが出馬した関係で、10月には東京10区の補選があります。この10区はぼくの居住地でもありまして、いやはや政治の季節が続くのであるなあと、気もそぞろになるのであります。

 さて、選挙においては「投票率問題」、「無党派層の動向問題」が話題となるのが常であります。直近の投票率が低かったのは単純にマスコミの報道が少なかったせいも大きいのでしょうが、ではこの投票率を上げるにはどうするか、ないしは鍵となる無党派層を動かすにはどうするかについて、考えてみたいと思います。

 普段、政治に興味がない人に対して選挙に行けと言っても、なかなか能動的なアクションにはなりません。なにしろ、政治にも政局にも興味がない人たちです。選挙とかうぜえ、という人たちです。では、彼らの票を取り込むにはどうしたらいいのでしょうか。

 これには簡単な解があるように思うのです。
 それは、「ものすごく身近な題材を公約に盛り込む」ということです。

 個人的な話になるのですが、ぼくは大学一年の頃、大学の自治会選挙の選挙管理委員長というのをやったことがあるのです。と言っても、当時のぼくには自治会が何なのかも、その選挙がどういう意味を持つのかもまるでわかりませんでした。たまたま新入生向けのお祭り的なイベントで知り合った自治会の人がいて、委員長をやったら5万くれるというので、何も考えずに請け負いました。

 確か2週間程度の仕事でしたが、ぼくは政治にとんと無頓着で、何党が右なのか左なのかもよくわからなかった。休み時間の教室に押しかけ、学生に投票を促すのですが、それが何を意味する投票なのかさえわかっていなかった。ただ、「5万あればプレステ2が買えるなあ」というだけの理由で、管理委員長をやっていたのです。

さて、ある日のことです。構内に建てた選挙告知用のテントで、何をするでもなく待機していたときのこと。女子学生の二人組がやってきて、ぼくにこう言ったのです。
投票したら、構内の携帯の電波がよくなるんですかぁ?

 なぜそんなことを訊かれたのかもわかっていなかったのですが、おそらくは自治会選挙の公約か何かに、そんなことが盛り込まれていたのでしょう。そのときのぼくはたぶん適当なことを言って、投票を促したりしたんだと思います(繰り返し申しますが、ぼくは本当に何もわからずに委員長職に就いていたのです)。

それきりぼくは自治会と何の関係も接触もなく過ごしたのですが、そのときの出来事はなぜかいまだに覚えている。

 投票率を上げるために大事なのはきっと、あの携帯電波を気にした女子学生のような、彼女が感じたような身近さなのです。どうです? 今の話でも、「5万あればプレステ2が買えるなあ」のあたりが、リアルなものに思えませんか? 要はそういうことです。

国政にしろ都政にしろ、トピックはどうしても大きなものになる。何々の分野に大規模な投資をするとか、何々の制度を拡充する方針だとか、何百億円規模の予算をどうするとか、そういうことばかりがどうしても中心になります。そうでなければ、今の政権与党が駄目であるということを説いたり、改革が必要だと説いたりですね。いずれにせよ、政治に無関心な層の肌感覚には、ちっともあってこないのです。

 こんな話があります。投票率が1%下がるたびに、若年層は13万5千円の損をしているのだと。その試算がどれほど正しいかは置くとして、このメッセージがどれほど有効なのかも疑問なのです。だって、肌感覚に表れてこないんです。家に来られて13万5千円持って行かれるようなら誰でも投票するでしょうが、政治に関心がなければ絶対ぴんと来ません。仮想の13万5千円は、目の前の500円にも劣るでしょう。

 投票率を上げるには、特に若者のばあいは、もっとわかりやすく、肌感覚でわかるような主張が必要だろうと思うのです。

 その意味で言うと、小池百合子さんはいい線ついているんです(ぼくは彼女の支持者ではありません。念のため)。彼女は今回の都知事選で、満員電車ゼロを目指すと言っている。これなんかは、通勤通学をする人の多くにとって、実にわかりやすいメッセージなのです。それが実現可能かどうかは別としても、このメッセージには有効性があるように思うのです。うまいメッセージだなあと思うのは、満員電車が毎日利用するものであり、多くの人の耳に触れやすいことだというのもあります(支持者の人は、電車の中で毎日このことを広めていくのがいいでしょう)。小池さんの陣営は組織的支持を期待できない以上、無党派に浸潤する身近な題材を取り上げている。その辺は、策士だなあと感じます。

 選挙に行かない層、無党派層を巻き込むには、とにかく身近な話題を広めていくことだろうと思うのです。その点で行くと、鳥越さんの「ガン検診」みたいなのは、高齢者層にとって響きやすい話題だと思います。福祉の充実とかそういう言い方よりも、ピンポイントで引っ張りやすいフックを提供するのは、大いにアリだと思います。新党改革で出馬し、30万票近くを得た山田太郎さんは「オタクの味方」というイメージで注目を集めています。「中学生でもわかるメッセージが投票行動を促す」というのも、鍵のひとつではないかと思います。

 いろいろ書きましたが、「わかりやすさ」が大事なんですね。
 ぼくが候補者だったら、と勝手に考えてみます。
 ぼくだったら演説で、「給料! 介護! 待機児童!」の三つを柱に、わかりやすく押すでしょう。やはりメインのビッグトピックが必要になります。それプラス、満員電車ネタみたいな、肌感覚に訴えようとするでしょう。

 それでいて、細かい数字はあまり言わない。数字の話は伝わりにくいので、主張の説得力を支えるふりかけ程度に用いるでしょう。
 金科玉条的に、「三つの柱」みたいなパッケージを連呼するでしょう。肌感覚や趣味感覚に引きつけて、オタク系の話題も横にまぶしておくでしょう。政治には興味がなくても、情報にはそれなりに敏感な層向けのマニフェストを組み入れるのです。

野党が与党に勝てずにいるのはなぜか。
 アベノミクスが立派だからじゃない。アベノミクスみたいな「わかりやすいパッケージがない」ことなんです。近頃の政治は候補者の知名度がものをいうと言われますが、結局のところは「パッケージ・ポリティクス」ではないのかとも思うのです。

 今回の都知事選は誰が勝つのか、三連単が見極めづらい選挙です。
 その中で抜き出るには、ワンイシューでもツーイシューでもかまわないのですが、わかりやすい身近なネタと、わかりやすい「パッケージ・ポリティクス」を活かすのが鍵じゃないかなあと、政治の夏にふと芽生えた雑感でございました。

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by karasmoker | 2016-07-16 09:16 | 社会 | Comments(0)
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