美しく負ける左翼

 都知事選の結果が決まりました。保守分裂と言われながらも、終わってみれば極右系が勝つというなんとも激しい結果になりました。
 本来であれば野党にも多少の分がある選挙戦だったはずですが、終わってみればぜんぜん駄目だった。
 そのあたりについて、思うところを述べます。

 もし仮にぼくが向こうサイドを支持していたとしたら、鳥越サイドを見てこう思ったでしょう。

 なんてちょろいんだろうか、と。

 週刊誌報道への備えはもとより、決定的にちょろさが見えたのは、宇都宮さんの応援があるかないかということが話題に上ったときです。鳥越さんを応援すべきだ、いやそれは宇都宮さん自身の判断だと、ツイッター上でもいさかいが起こっていました。

 ぼくが小池陣営にいたら、この時点で鳥越への警戒心を完全に解いただろうと思います。
 鳥越はもう相手にしなくていいなと、見きったと思います。
 それは、鳥越支持者と宇都宮支持者で揉めていたからではありません。
 鳥越支持者が「そんなこと」にこだわるほど視野狭窄に陥っていたからです

 はっきり言って、宇都宮さんが応援するかどうかなんてことはどうだってよかったはずです。宇都宮さんがいようがいまいが、無党派層の趨勢に大きな影響を与えることはなかったのです。鳥越陣営がすべきだったのは、ただひたすら無党派のほうだけを見て戦略を練ることだったのです。にもかかわらず、彼らは肝心な最終週にネット討論会も欠席し、クローズドな個人演説会をする始末でした。その姿勢のほうが大問題なのであって、宇都宮さんの件なんかは、副次的なことに過ぎなかったのです。

 ぼくはここに、反自民勢力(リベラル・左翼勢力)の重大な病理が潜んでいる気がしてなりません。キーワードは「悪魔化」、そして「美しく負ける左翼」です。

 「悪魔化」について話しましょう。
 かねてより安倍政権は、ヒトラーだとかファシズムだとか言って批判されることが多くありました。確かに、立法の進め方やなんかについて、問題があるとぼくも感じることが多いです。もしかしたら彼はヒトラー的かもしれないし、そうでないかもしれません。ファシズム的かもしれないし、そうでないかもしれません。

 ぼくが気になるのは、そこじゃないのです。
 ぼくが気になるのは、相手の悪魔化です。
 相手を悪魔化することはたいへん危険です。
 なぜ危険なのか。
 相手を過剰に悪魔化すれば、それと対峙する自分たちを過剰に美化してしまうからです
 ヒトラーがいれば、ヒトラーと戦う自分を英雄視できる。
 ファシズムがあれば、ファシズムと戦う自分たちを英雄視できる。
 この時点で、少なくとも自意識は半分ほどが満たされます。
 勝とうが負けようが、自分は英雄であり、敵は悪魔であるという認識は変わりません
 たとえ負けたとしても、自分たちはその正しさを貫いたと信じられます。
 正しい自分たちの思いは通じるのだと信じられます。
 だからその正しさに酔い続け、戦略に対するかまえがない
 ここにあるのはただ、「美しく負ける左翼」の姿です。

 今回の鳥越さんにしてもそうです。
 小池はヤバイ、増田は駄目だ、宇都宮は非協力的だ。
 鳥越さんは負けたけれど、自分たちは正しい選択をし続けたのだ。
 悪いのは、鳥越さんを支援しなかった奴らだ。
 有権者の多くは小池のヤバさに気づいていないんだ。まったく、困ったもんだ。

 違う。
 鳥越さんが負けたのはただの戦略的失敗です。週刊誌報道後のダメージコントロールにミスったのが大失点。あのピンチをチャンスにすることも可能であったのに、注目の集まるネット討論会は休むし、そのくせ仲間内のクローズドな個人演説会を開くし、どう考えても自ら勝ち目を無くしていったのです。それに気づかず、相手を悪魔化する快感に酔ってしまったがゆえに、支持者たちは味方を増やすどころか、宇都宮さん支持者と喧嘩する体たらくになったのです。

 そろそろ気づくべきです。悪魔化では勝てないことに。

 今後の選挙全般で、野党陣営が勝つための方策は次の二つ。

 価値観の提示と、戦略

 戦略は言うまでもないとして、大事なのは価値観の提示です。
 
 わかりやすいところでいえば、アベノミクス。安倍政権の強みは、アベノミクスの内実ではない。アベノミクスという価値観を提示したことです。自分たちはこの方向で行きます、とはっきり明言し、キャッチ-なパッケージとして示したことです。内実をまったく知らない有権者であっても、「アベノミクスって、なんかしっかりしてそう」くらいのイメージで投票させてしまうわけです。

 安倍の暴走を止めると、野党はおそらく何百回と言ってきたでしょうけれど、そのワーディングでは勝てないのです。
 暴走を止めたとして、そのあとあなたたちはどうしたいの?
 この日本をどのように運営していきたいの?

 その見通しを、一言で提示できる必要があるのです。
 それがなければ勝てないし、それがあれば少なくとも今よりは十分に勝てる。

 悪魔化をやめて、美しく負ける左翼の自己像から、脱却する必要があります。

 でもね、それはきっと難しいんです。

 だって脱却しないほうが、よほど気持ちがいいんですもの。

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by karasmoker | 2016-07-31 20:39 | 社会 | Comments(0)
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