『スワロウテイル』 岩井俊二 1996

カルト映画になれたのに、なりきれなかった作品
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『スワロウテイル』は観始めてすぐ、その世界観に惚れました。「イェンタウン」という日本語、中国語、英語の混ざり合う空間は僕好みのにおいっぷりで、「これは下手なことをしない限り面白くなるだろう」と思いました。
 
が、結果的にいうと下手なことをしてくれたところも多く、その分だけどうにも心に残りにくい映画になりました。カルト映画になれたのに、なりきれなかったという印象ですね。まあ、別にカルト映画をつくってやろうとは思っていなかったでしょうけど、この世界観を活かして形作られているかといえば、どうにも足りなかったように思います。
 
 役者自体はおそらく90年代以降の邦画で最も充実したラインナップなのではないかと思っています。少なくとも個人的にはそうです。三上博史、渡部篤郎、山口智子という大好きな俳優のほか、桃井かおりもさすがの名演であり、CHARAという特殊な存在を中央に配したことで物語世界に拍車が掛かっていました。が、主人公の伊藤歩は微妙です。伊藤歩といえば僕にはどうしてもテレビドラマ『リップスティック』の不良キャラの印象が強くて、ああした役柄に違和感を覚えました。まあ、彼女がそのドラマに出たのはこの映画から数年後のことなので、それは僕の側の問題なのですが。

伊藤歩自体、というよりもそのキャラクター設定が世界の拡大を留めてしまったという感じを受けてしまうんです。あのいわば訳のわからない世界、どんな規則があるのかも明瞭でない場所では、確かにああいう、観客にとってのひとつの移入装置が必要なのもわかるんです。まともな人がいたほうがまともじゃないものが対比されますからね。ただ結果的に言えば、それは別に必要ではなかった。そこまで他の登場人物がぶっ飛んでいるわけでもないですから。だから要するに、伊藤歩が歩んだイェンタウン世界への融和と、三上博史やCHARAなどのようにイェンタウン世界で上昇しようとする動きが、どうにもかみ合っていなかったんです。どちらかにしてしまえばよかった気がするんです。融和物語か上昇物語か。どちらかに決めた後で、あらためて世界の多様性を示すことも可能だったのではないかと僕は思うのです。こうした世界観の場合、当然多元体描写のほうが面白くなるわけですが、融和物語を組み込むならもっと絡ませていかなければ世界観が活きてこない。それを蝶の刺青でどうこうしてみたり、刑務所に弁当を届けてみたり、どうでもいいことばかりに時間をかけています。野島伸司ドラマみたいでした。岩井俊二と野島伸司は親和性が高そうで、野島伸司のドラマも大好きですが、この世界では要らなかったんじゃないかなあ。あれをすることで、せっかく濃度の高いものになりそうなイェンタウン的特殊性が薄まってしまったように思えてなりません。あれではイェンタウンならではの出来事として成立しないんです。

ストーリーがなんちゃらということも公開当時言われたみたいですが、僕は上記のように言いつつ、本当はそんなものはどうでもいいんです。確かに最低限ストーリーを理解させてもらわないとデヴィット・リンチ監督『インランド・エンパイア』のような地獄を見るわけですが、この『スワロウテイル』の場合、ストーリー云々よりも、世界観の提示さえ全うなら僕は問題なく観られたんです。ただその世界観が十分じゃなかったんですね。いや、たとえばあのイェンタウン的猥雑、渡部のいる『あおぞら』的荒涼、そして時折見られる現代日本的整頓がごちゃごちゃになっているところとかはすごくいい。言語にしてもそうで、あれを聞いて僕は、きわめて日本的な映画だという印象を持ちました。しかし、その外見を支えるものがあまりなかった。

変な世界は変な世界できちんとしておいてほしいんです。その意味でいえば山口智子の役柄が引っかかります。江口洋介のリャンキの組織に追われて、CHARAと桃井が渡部の「あおぞら」に逃げてくる。渡部は多勢に無勢の絶体絶命の状況において、挑発的に銃をぶっ放す。どうなんねん、あかんやんけ、と観客が思う中、びっくりしました。ああいうのをデウス・エクス・マキナとでもいうのでしょうか。山口智子がバズーカで敵をすべてぶっ飛ばしてしまうんです。あれはいただけない。あれでいいなら何でもありになってしまう。イェンタウンのような変な世界を提示したなら、つまり秩序のわからない「なんでもあり」のような世界を提示するなら、一方できちんとその秩序を保たねばならない。それが「外見を支えるもの」です。「なんでもあり」の世界ほど秩序を保たないとならないはずなんです。

そろそろやめにしましょう。そういえば公開当時、子供が偽札を使う描写があったせいでR指定になったというのを何かで読みました。あんなもんはどうでもいいんです。ほな何かい、子供が真似するんかい。真似してあんな風に偽札の機能をはたせるんかい。どうせ千円損して終わりになるだけなんですから、あほな子供に見せてやってもいいんです。

二時間半というたっぷりした時間をとって、世界観を提示しつつ、結局それが岩井俊二的な穏やかさに悪い形で中和されてしまったという印象を受けました。
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by karasmoker | 2008-01-25 08:49 | 邦画 | Comments(5)
Commented by DD at 2011-09-23 19:28 x
三上博史はすばらしかったですね
Commented by karasmoker at 2011-09-23 22:08
記憶がおぼろですが、CHARAを聴くきっかけはこの映画でしたね。
Commented by 火飞鴻 at 2014-09-16 11:44 x
批評なが!
だれも求めてないわ!
Commented by イェンタウン at 2016-04-16 01:48 x
この批評書いたやつつまんねえ人間だな
Commented by 00 at 2016-05-01 13:57 x
リップスティックの伊藤歩に違和感があった人の方が多かったと思うけどね。スワロウテイルの伊藤歩はまだ無名で、普通なのに摑みどころのない感じがあったと思う。このレビュー書いた人若いのかな。まあ記事自体かなり前のものだけどね。
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