『リンダリンダリンダ』 山下敦弘 2005

「あるある映画」が意味づけるもの

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最近の学園ものの邦画には、田舎を舞台としたものが数多いようです。というより都会の中学高校というのは、映画ではほとんど描かれることがないように思います。話題になったものでいえば、「リリィ・シュシュのすべて」「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「リンダリンダリンダ」「夜のピクニック」など、ある地方の田舎町、一領域を照らすことで物語世界を打ち立てることが多いようです。

妙といえば妙、道理といえば道理。
都会に住む学生も多いはずで、そこで生まれる物語も数多いはずなのに、何故田舎を舞台とすることが多いのかと考えれば、妙。学生という存在、その物語を照らすには夾雑要素が少ない世界のほうがやりやすいと考えれば、道理でしょう。また、田舎を舞台とすると、それぞれの観客の田舎時代のくすぐったさを演出することが出来ます。ああ、あんな感じの建物あったなあとか、ああ、あんな風な道よく通ったな、といったように、どこかしらのフックを提供しやすく、それは都会的なものと比べても人々の心に訴えやすいのです。

さて、今回の『リンダリンダリンダ』。これもまた地方都市が舞台。あらすじを語るのは他の誰かにお任せするとして、いきなり感想から書き始めましょう。

かなり、「あるある」的な部分に力を入れているなあという感じがしました。あるあるネタをちりばめてシーンを進めていますね。その点に関していうと枚挙に暇ありませんが、たとえば主人公たちの性格配置、キャラ設定からしてそうなのです。前田亜希が一番キャラが薄いのですが、うまい具合に可愛らしさを殺している。この人はもっと可愛く描こうと思えば描ける人なのでしょうけれど、メイクの感じなどがかなり没個性化され、汎用的な存在になっています。香椎由宇にしてもそうで、ちょっとむかつく顔なんです。学校の同級生を恋愛対象にしていない感じの尖った風情に「ああ、おるおる」と思ってしまいました。また、関根史織の、親しい相手に対してもテンションの低い感じというのもわかります。ここにペ・ドゥナをスパイスにしてバンドが駆動していくわけです。韓国人留学生、という設定を入れることで特異性を生んでいて、もしそれを剥いでしまうと本当に「あるある」で終わりかねなかったと思いますね。

この映画は「あるある」が集積されています。いや、厳密に言うと、「あるあるっぽさ」。リアリティという言葉ともちょっと違う。リアリティを持たせようとする努力がくどくなった形、とでも言えましょう。最初はそれがすごく心地よかったんです。冒頭のシーン、不美人の女子高生がカメラに語りかけるところ、撮影の男子があたふたしているところなど、「わかるわあ」と思いました。なんかこの、後々になって全てのことがこっ恥ずかしい記憶になるであろうところなどは、抜群でした。で、観ていくうちに、「そろそろええで」と少し思いました。例はいくらでも挙げられますが、ダブっている先輩が何故か声がやけにハスキーボイスだったり、「プリンを買おう」という仲間の女子高生らしい振る舞いに対し、関根史織が「千円超えちゃうじゃん」と言い、「デザートは?」という仲間たちに「うちのお母さんが寒天つくるから」と答えたり、甲本雅裕演ずる先生が廊下で生徒を呼び止めてぐずぐずになったり、兄ちゃんが電話している横で腕立てを始めていたり、男子生徒がクレープ屋の客商売なのに全然愛想よく対応できていなかったり、ペ・ドゥナの日韓交流の催しの部屋がもうどうしようもない内実だったり、主人公たちが本当にしょうもないことで笑いあったり、とにかくそういうことが集積されています。それで引っ張ったという感じがしますね。物語自体に大した抑揚がない中で、そういう「あるある」をおかずにして観客を飽きさせないように作っているという印象です。

この映画の重きはそこにこそあったと見るべきなのでしょう。四人でバンドを成功させよう、というのは実は彼女たちにとってそんなに大事じゃなかった気がします。そうでなければ、あんな風に四人揃って舞台の時間に寝過ごしたりしませんって。しかも前田亜希は恋の告白っていうイベントまであったわけで、あそこまでずっと、くどいほどの「あるある」を積んできたのに、あそこに来て「寝過ごしてハプニング」なんて仕出かしませんもん。ペ・ドゥナの歌も別に全然上手ではないわけで、あのバンド演奏はひとつの終局、物語推進のもの以上のものではなかったのではないでしょうか。彼女たちにとって「ブルーハーツ」は特段の意味を持っていない、ということがそれを裏付けてくれます。韓国人留学生を入れてきたならなおのことです。おそらくは意味もわからぬまま、「僕の右手」を口ずさんでいたのです。その意味でいうと逆説的に、鑑賞後すべてのシーンが意味づけられてきます。呆れるほどに意味のない振る舞いのひとつひとつが、後々包括的に意味づけられてくる。僕たちの記憶をくすぐってくる。青春の瞬間瞬間をうまく切り取っていると言えましょう。だから、この映画において「あるある」を感じられない人にはきついかもしれないですね。これの外国版があったら相当きついはずです。「あるある」と言えませんから。

韓国人留学生という設定なら「青空」あたりを歌ってくれると違う動きが生まれるなあ、とも思いましたが、どうやらそんな意味など考えてはいけない映画だったようですね。頭を空にして心地よくありし日を振り返るにはいい映画ではないでしょうか。
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by karasmoker | 2008-01-26 12:22 | 邦画 | Comments(0)
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