『ディープ・インパクト』 ミミ・レダー 1998

タイトルが皮肉な作品です
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巨大な彗星が地球に落ちてくる話ですが、こういう映画の場合難しいのは、どこで彗星を落とすかということです。序盤でカタストロフを起こしてその後の世界を描くか、それとも最後の最後まで引っ張るか、この映画の場合は後者でしたけど、そうなるとそこにいたるまでの物語が難しくなります。これが戦争映画だったりしたら、その発端までの過程が緊迫感を持つんですけど、彗星が落ちてくるというだけだとなかなか難しい。実際にこういうことが起きたら、手が出しようがないというのが人々の発想になるわけですけど、この映画自体にもそんな感じを受けました。見せ場までをどう引っ張るかに労している感じを見受けます。手の出しようがなく、現実感も希薄な分だけ、人々の動きをあまり躍動させられない。ここは難しいところです。

手の出しようがない出来事、となると、人々の間でパニックを起こすと面白くなる。この映画で総指揮に回っているスピルバーグが監督した『宇宙戦争』(2005)において最も白熱していたのは、宇宙人が攻撃してくるところよりもむしろ人間同士が鬼の形相で助かりたがるところ。得体の知れぬもの、抗いようのないものを登場させたときには、それとの対峙模様もさりながら、人間模様が見ものなんです。単に逃げ惑う駒として人間を配置するのではなく、そこでむき出しになる人間性、助かりたいと願う一心不乱の狂態が、物語における危機感を演出する。今回の場合で言うと、それがあまりにもなかったのでびっくりしました。これではせっかく彗星を落としても、落とし甲斐がありません。

早い段階で、小さなものでもいいから、彗星を落としておくべきだったのではないかと思うんです。それを前ふりにして、「今度はこの彗星の数十倍のものが落ちてくるぞ」と煽りを入れれば、逃げ惑う人々にも緊迫感が生まれた。ところがこの映画に出てくる一般の人々は、どうにもたるんでいるんです。百万人を地下に誘導するという出来事で、家族が離れ離れになるんですけど、そういういくらでも遊びようのあるイベントでも、あくまでも主人公家族だけがごちょごちょ言うている。もっと他にも混乱の描きぶりあるやろ、と思って仕方がありませんでした。主要登場人物以外が全部風景になっています。いや、それならそれでいい。しかしそれなら風景をもっと演出しないと、肝心の登場人物たちの緊張感も伝わってこない。それでやっていることといえば、結婚式の様子だとかなんだとか、どうでもいいんです。あげくにバイクで走った少年と少女はすぐに山に行って助かる、どうしようもないです。

宇宙船の飛行士たちが頑張るシーンは緊迫感もあるのですが、ここでもまた家族のドラマをちょっと入れるくらいで、重みがなさ過ぎる。宇宙飛行士の家族のドラマをもっと入れて、訳のわからんどうでもええ家族のことなんてほっといたほうが絶対面白くなったと思うんです。これは同年公開への『アルマゲドン』への配慮のにおいがして嫌でした。「あまり宇宙飛行士の家族の話膨らませんといて、それされると、こっち、ごっつ被ってまうから」という交渉があったんじゃないでしょうか、嫌な感じです。宇宙飛行士の人間性も何もないものだから、最後に彼らが死んでも別に感動もない。ニュースキャスターの話でも、最後に親父と抱き合って津波に潔く飲まれてってなんじゃそりゃ。あのー、どうしようもない状況でそうなるっていうのなら、それはそれでいいシーンなんです。何か事情があって絶対に動けなくてとか言うなら、津波に潔く飲まれるところにも趣が生まれる。ところがこいつらは自分から助かろうともせずにそんなことをしているものだから、これまでニュースキャスターの話を見せられてきたほうとしてはたまらないんです。

この映画のほめ言葉で、人間ドラマ云々というのがありますが、何を言っているのかわからない。主要登場人物たちの人間ドラマを演出するべき背景の人々にはまったく緊張感も緊迫感もないし、肝心の主要な人たちもてんでお粗末だし。そういうことについてどういう風に観ているのでしょうか、気になります。

だからその意味でラスト、宇宙飛行士が決死で大きな彗星を破壊するというのも、どうなのかと思ってしまう。あれなら、宇宙飛行士が飛び込んでいってさてどうなる?のところでエンディングロールを流しつつ背景化するほうがいいような気がする。地球と彗星を捉えて、どんどん迫り行くショットにして、そのままロールに行ってフェードアウト、のほうがいいなあ。この映画の場合、ハッピーエンドにされてもあまり意味がない。絶望的な宇宙のショットを置けばそれこそひとつの「ディープ・インパクト」なラストシーンになったと思うんですが、それを回避してしまっては、この映画のタイトルごと崩れ去ってしまいます。今日は辛口でした。いい映画をもろ手を挙げて賞賛する分、一方ではこういう書き方もしてしまうものです。この辺で。
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by karasmoker | 2008-02-13 19:52 | 洋画 | Comments(0)
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