『月はどっちに出ている』 崔洋一 1993

遠景は見えるが、主題がぼけている ~キネ旬は在日びいきなの?~ 
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在日朝鮮人をひとつの主題として扱った映画で観たことがあるのは、『パッチギ!』とその続編、それから『GO』『血と骨』程度のものなんですけれども、その中では最初の『パッチギ!』がずば抜けています。続編は不味かったですけれど、ほとんどDVDを買わない僕が購入したくらいですからね。『GO』は不味かった。行定勲監督というのはどうにも肌に合いません。二十代の俳優では最も好きな窪塚洋介が主演で、期待していたんですけれど、どうにも味わえなかったです。『GO』は2001年度キネマ旬報第一位を獲得していますが、なんで?と思うほかありません。

さて、それ同様、1993年度にキネ旬第一位を獲得している『月はどっちに出ている』です。キネ旬は在日映画びいきなのでしょうか。『パッチギ!』の2005年度一位はいいとして、『血と骨』の2004年度二位もまあいいとしても、『GO』を一位にするなど、あまりにも出来すぎているくらい在日ムービーへの評価が高いです。そして、『月はどっちに出ている』を第一位にすることに異論があるかといわれれば、僕はあると言う方になりました。

映画の内容に入る前に書いておくこととして、1993年辺りの邦画というのは、今にして観ると一番古臭く感じる、ということです。外国映画はその国のことを知らないからあまり思いませんし、日本映画でも80年代以前になればその古さに新鮮さを感じたりするんですけど、1993年辺りは端的に古臭い感じがしてしまいますね。いや、だからといって映画の評価に影響を与えるものではないんですが、そういう印象は強く感じたもので。

この映画については、あまり楽しめはしませんでした。というか、特別に光るものを感じ取ることが出来なかった。この映画を褒めようと思ってあれこれ頭をひねっても、どうにも出てこない。在日朝鮮人、あるいはルビー・モレノのフィリピーナやハッサンというアラブ人のドライバー、そうした人々が日本で生きていく姿を主題として描く中で、どうもどれをとっても掘り下げられている感じがしない。じゃあそういうものを無視して、たとえばひとつの恋愛映画として考えたらどうかというと、これまた別に特筆すべき点を見出すことも出来なかったし、「人々の何気ない生活」的映画として観ても、風合いや間の取り方、テンポや動きに魅せられることもなかった。こうなってくると、在日外国人を取り上げた映画という珍しさだけで走ってしまったんじゃないかという気がしてしまいます。在日という主題を用いたとき、たとえば『パッチギ!』では衝突と融和を描いていました。出来自体は肌に合いませんでしたが、『GO』においては自分の異質さ、自分の異物性をひとつの主軸としていた。ところがこの『月はどっちに出ている』の場合、在日という記号が持つ何事かを有用に活用していないように思われた。衝突はちりばめられている、特殊な自己意識も入り混じっている、しかしどれも光ってこない。僕が受けた印象はそういうところです。うん、微妙なところでは表現されていたのかもしれない。もしかすると僕の気づかない、在日外国人たちにとっての「あるある」はあったかもしれませんね。崔監督も韓国籍だというし。でも、日本公開である以上はもっとはっきりとしたものがほしかったなあと思います。

なぜ光ってこないのかなあと思って考えると、岸谷五朗のキャラクターがちょっと好きになれなかったというのがあるかもしれません。軽薄な感じはいいんですが、どうもちょっと寒かったです。岸谷五朗が悪いのではなくて、その役の動きが寒いと言いましょうか。あれではまるで中居正広の演技です。中居正広はどれだけ頑張っても重みのある演技ができないと僕は思っているのですが、その中居正広的演技を今回の岸谷には感じた。わかりにくいですかね。岸谷五朗は一生懸命やっている、でもその演技を演出する側が「中居正広のようにやれ」と言っているみたい、という印象を僕は語っているのです。笑いの部分はほかでもちょっと鬱陶しかったかな、金田明夫の絡む「自分はどこにいるのでしょう」のくだりとか、「金貸してくれよ」の電話のくだりとかね、なんというか、本当にべたべたで古臭い。

ルビー・モレノはよかったと思います。会話の間、言葉の間がいい。これで脚光を浴びたらしいですね。でも、ウィキペディアを参照する限りはあまり活躍していないようでもあります。東南アジア人枠というのは日本の芸能界でも俳優界でも空いているところだと思うんですが、あまり馴染まないのでしょうか。何故か東南アジア枠は誰も出てこないですね。映画とはまったく関係ないですが、僕にはフィリピンパブなるものの存在理由がまったくわかりません。僕に「東南アジア美女萌え」用アンテナがないせいかもしれません。

他の役者で言うと、「一瞬金貸してくれよ」の人が印象的ですね。あの人がまた腹の立つ顔をしているんです。腹の立つ顔をして腹の立つ声で腹の立つことを言うものだから観ているほうまで腹が立ってくる。でもそれは映画に移入しているということでもあるので、あの役はまあよかった。「俺、頭おかしくないだろ?」と言うんですが、やっぱりおかしいんですね。あの、なんとも言えない気持ち悪さというか、現実にいたときにどう対処したらいいかわからない存在というのは面白い。ばたくささとリアルの境界線上にいる感じです。

映画賞も数々受賞したようで、期待しても観たんですが、総じて言えばあまり印象に残る映画ではなかったです。プロデューサーは『パッチギ!』の李鳳宇だし、監督は『血と骨』の崔洋一だし、『69』『フラガール』の李相日監督作品よりも個人的に期待値の高い人々のものだったのですが、もうひとつでした(そういえば、2006年キネ旬一位も在日韓国人監督の『フラガール』だ!やっぱり在日びいきがある!)。今日はこの辺で。
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by karasmoker | 2008-02-18 00:43 | 邦画 | Comments(2)
Commented by DD at 2011-09-23 19:25 x
「犬走る」を是非観てほしいです
Commented by karasmoker at 2011-09-23 22:07
 コメントありがとうございます。
 じゃあそのうちに観るのです。
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